炎上するタンカー「サンチ」。(中国交通運輸省提供) PHOTO:(c)AFP/Transport Ministry of China

東シナ海タンカー事故での油流出、漂着について(2/9まとめ)

重油流出、漂着など、一連のニュースを見て、かつて日本海で発生した「ナホトカ号重油流出事故(1997年)」を連想してしまうサーファーは少なく無いだろう。

あの事故でも、漂着シミュレーションが機能せず、初動の対策が遅れる中、多くのサーファーがボランティアとして重油の回収にあたり、現地の情報、写真、必要用品の募集などが波情報や誌面を通じて拡散した。

私自身も福井~丹後半島までを10日間ほどかけて周り、取材活動を行いながら、重油回収のお手伝いをした経験があるが、想像を超える作業に疲れ、爪に入り込んだ黒い汚れが帰宅後もなかなか消えなかったことを思い出す。

それゆえ、今回、SNS上で拡散されたシミュレーション情報を目にした際、あの悲惨な風景を思い出してしまった訳だが、年配サーファーの多くが同じ思いをしたのではないだろうか。

[ボランティア作業にも役立つだろう、当時を振り返るインタビュー特集記事を公開]

過去の経験を踏まえ、当THE SURF NEWSでは、現状把握に時間を費やしているが、今得ている情報を元に自分なりの整理を行うと幾つかの疑問点が生まれてきた。
今回はそれらを含め個人的な見解を交えて記してみたい。

1.積荷のコンデンセートと燃料油を分けて考える必要性がある。

前代未聞、史上最悪、過去最大・・・と形容され報道された一つの理由として、コンデンセートの量が挙げられるが、奄美大島をはじめとした南西諸島沿岸に漂着した黒いタール状の油の塊の原因は、積荷のコンデンセートではなく、燃料油であるC重油とA重油にあり、 今回、積載量が多いことから注目されたコンデンセート自体は、揮発性が高く、漂着物として考えると、沿岸部に到達する可能性は極めて低いとする当初の報道通りなのだが、黒いタール状の油の漂着が確認されると、その根源が区別されずに伝えられ、混同した状態で拡散してしまった。

決して軽視できるものではないが、コンデンセートが前代未聞と表現された11万トンとか13万トンとも言われる量なのに対して、C重油の量は2000トン、A重油の量は120トンの積載量とされている。

つまり黒い漂着物と成り得る重油量は2120tであり、コンデンセートの5分の1の量であると考えるべきで、更に今回は現場で炎上していることから、大半が燃えているとも想定される上、日本海とは異なる広い海域での流出であることも漂着リスク算出の際には考慮すべきとも思える。
[ナホトカ号の積載量1万9000トン、流出量6,240トン]

実際、現時点では、奄美大島で採取された漂着物からは、コンデンセートは検出されておらず、沈没地点から300km以上離れた奄美大島まで到達することはないとされている。

2月5日の奄美大島 朝仁海岸の様子 PHOTO:奄美大島漂着油情報提供

2.把握、予測、連絡など、初動に問題が無かったのか。

ナホトカ号の際、重油の漂着シミュレーションに該当海域の平年海流(大きな海流を主としたもの)を用いたことと、漂着はしないだろうとしたその結果が報道されたことにより初動が遅れたとされているが、今回はどうだったのだろうか。

結論的には、奄美大島周辺の島々への原油漂着は十分に予測が出来たのではないか?
事前に各自治体、島民に知らせることが出来れば、一部の沿岸部には対策を施すことが出来たのではないか?などという疑問を持っている。

まず、時間軸で整理してみよう。

1月6日、衝突事故発生、出火。
1月10日、火災を起こしたまま漂流するサンチ号が日本の排他的経済水域に入ったことを第十管区海上保安本部(鹿児島)が発表。
1月14日、沈没。
1月27日、ロイター通信があのシミュレーション映像公開したことから、SNSなどで拡散、海水汚染を懸念する声が挙がった。

[シミュレーションでは、沈没から25日後(2月8日)には、汚染物質が種子島や屋久島のある大隅諸島付近に到着。そこで、黒潮に合流して、九州・四国・本州の太平洋沿岸に急速に運ばれてしまう可能性を示していた]

当THE SURF NEWSでは、初回の記事報告の際、海上保安庁並びに該当シミュレーションに対してコメントを出していた国際環境NGOのグリーンピース・ジャパンに取材を行い、コンデンセートは非常に揮発性が高く、海に流失した油は大気中に蒸発していくことや、シミュレーション映像は、コンデンセートの特性などを考慮に入れていないことから、有効性が低いことなどをお知らせした。

ちなみに、沈没前後を含め、随時、監視を行っていた第十管区海上保安本部への取材では、コンデンセートの特性などに加え、「(継続的な監視下)日を追うごとに油膜は薄くなっており、浮流油の範囲も縮小している。現在のところで影響が出ているという情報は入っていない」旨のコメントを受けていた。

しかしながら、その直後、2月1日奄美大島の朝仁海岸に黒い油状の固まりが漂着している旨の報告があり、十島村の宝島に少なくとも1月27日に、油のような漂着物があったとも報道され、首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置される中、周辺海域の島々で同様の油の塊が確認されてきたのはご存知の通りだ。

PHOTO:十島村役場提供

まず、問題点として、海上保安庁、グリンピース、また我々を含めた各報道メディアもコンデンセートに着目し、燃料油に関する認識が薄かった点が挙げられる。
[日本領土での事故ではないことなどとあわせて、国内の関心、報道が遅れたものと想像している]

積載量の多さから注目を集めてしまったコンデンセートについては、前述の通り、そのほとんどが蒸発してしまうとしても、同時に燃料油が流出していることは分かっており、分類して考えるべきであったということだ。

当然のことながら、現場海域でサンプル採取を含め状況を監視していた海上保安庁は、何故、燃料油である重油を認識し、その後の漂着物としての問題意識に繋がらなかったのだろうか。
[初回、取材時には、現場海域に浮遊する油を巡視艇により航走拡散している旨のコメントも得ていた]

海上保安庁は、我々の追加取材に対し、量の多いコンデンセート主体で考えていた旨と、海上目視では、その区別が出来ない困難な状況であると回答した。

[見分けが困難な点や茶褐色の液体である重油が黒いタール状の塊になる過程、コンデンセートの特性についてなどは、宇野誠一准教授(鹿児島大学)のインタビュー記事参照]

しかし、唯一現場海域に入り、サンプルを採取している当事者であり、航行のための気象情報などを入手している、言わば海のプロである海上保安庁であれば、漂着を予測することは出来たのではと思えて仕方がない。

これらの疑問と事前の情報提供ができていれば回収作業を軽減化できたのではないかと後日再質問を行ったところ、『特別な情報や報道された様なシミュレーションを保有している訳ではない』、『水産庁、環境庁などの関係庁へは報告は適時行い情報共有している』との説明を受けた。

我々自身もそうであるが、漂着物リスクとして燃料油にも着目し、住民自らが回収作業を行うことになるなどの想像力が働かなかったことは悔やまれるところだ。

コンデンセートと思われる帯状の油 PHOTO:第十管区海上保安本部提供

さて、今後について、漂着物と根源とされる燃料油については、一度に流出したとの一部報道もあり、奄美諸島周辺を浮遊していると予想でき、近隣海域では北西風が吹き続けたことにより、遂に沖縄にも漂着したが、連休中に本州南岸を通過する低気圧の影響により北上する可能性も高く、より拡散されることも考慮しておきたい。

また、8日の朝、海上保安庁は沈没地点近くで幅200m、長さ2.7kmにも及ぶ帯状の油を確認しているが、提供された上空からの写真を見ると、海面に写る光る油は、コンデンセートと思われ、その一部で見つけたという写真の黒い油の固まりを見る限りでは、コンデンセートはまだ漏れ続いているかも知れないが、重油については沈静化しているという想像もでき、極端に増える可能性は低いのではないかとも想像している。

一部で黒い油の固まりが見つかったが翌日には消えていた PHOTO:第十管区海上保安本部提供

そして、ようやく公式な回収作業が始まり、奄美大島でもボランティア案内が間も無く始まると聞いているため、現地情報とあわせて、ボランティア情報や回収作業の注意点などについても提供し続けたいと考えている。

最後に97年のナホトカ号重油流出の際もC重油が原因であったが、回収作業で取り切れなかった場所などでも、3ヵ月〜半年程の期間経過により、自然に消えていったとの経験談がある。

しかしながら、見た目の話とは異なる、“生態系への長期的な影響”については、専門家達も“無い筈が無い”と口をそろえているようだ。

(齋藤 丈)

COVER PHOTO:炎上するタンカー「SANCHI」(c)AFP/Transport Ministry of China(中国交通運輸省提供)

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