試合への取り組み方、メンタリティ、ストラテジーそしてクラマスで起こった不思議な体験
シリーズ「おいらはサーファーの味方」No.33
五十嵐カノアの大活躍はもう日本だけの関心事ではない。本場オーストラリアでも、あのクラマスでの勝利は大きな波紋を及ぼし、オージーサーファーのバイブルと言われるトラックス誌にインタビューが組まれた。その記事を要約してお届けしたい。
トラックス誌ということでサーファー向けの内容になっているだけでなく、カノアがインタビュアーの質問について得意な英語でストレートにしかもディープに答えているところが興味深い。
(この記事はトラックス誌の『Kanoa is the Rising Son』をベースに要約してあります。一部意訳の箇所がありますご了承ください)
バリでは驚くべき結果だったけど、コンテストに向けて特別なトレーニングをしたのかな、それとも、いつも通りのルーティンで?
カノア:バリのために特別なトレーニングはしませんでした。ルーキーの2016年からトレーニングプログラムは始めています。すぐに効果は出ないのはわかっていましたが、それが実を結び始めたという感じですね。現在のトレーニングは2020年や2021年にその効果が現れるでしょう。いずれにせよトレーニングの最終目標はワールドチャンピオンになることです。
試合に向けてダイエットをしていますか、ダイエットの必要性はどう考えていますか?
食事とダイエットを合わせて考えています。食事にはバランスの良いダイエットが必要だと思います。でも試合のために特別なダイエットをして食事を我慢はしません。ローカルフードや一流の料理などを楽しむことも大切だと思っています。ツアーですばらしい国々を周りますからダイエットで我慢したくないんです。楽しい気分にさせてくれるようならなんでも食べます。総じて食べる物にはいつも注意していますけれど。
クラマスの勝利は圧巻でしたね。あの歓喜のときを話してください
あのときのバリはクレージーというかいつもと違う気分でした。じつは勝利を予感していたんです。ついに勝利がやってくるって分かっていました。この経験は起きてみないと誰にも理解できないでしょう。バリでは僕の勝利を信じている人が周囲にたくさんいて、友人や家族も、みんなが特別なイベントになるって信じていました。もちろんどの試合にも優勝すると信じて臨むわけですが、でもあのときは勝利に道が通じているような感じでした。僕は映画を見ているような気分で、それはなんだか昔見たことがあるような映画で、試合会場を映していました。そして映画がどういう結末を迎えるかも分かっていました。だから勝ったときはすごく不思議な気分で、実際に起こったことが信じられませんでした。でもどうなるか僕には分かっていたんです。
すごい体験ですね。かつて見たことがあるようなシーンでそれが実際に起こって驚く。あり得ないことが現実化した
全くあり得ないことが起こったんです。途方もない力に導かれました。家族や友人たちの思いと共に。この体験は一生に一度でしょう。つまり様々なことがらが重なっていました。まずCTで初めての勝利です。これから先の勝利はまた違った印象となるでしょう。それにアジア人で初めて、日本人としても初めてです。家族の思いとともに、ただサーフコンテストで勝利すること以上の重みがあり、人生の1ページというより、サーフィンで成し遂げたという以上のもの。そう表現するしかありません。
家族の応援は大きな力に?
この勝利は家族で達成したので、そのことに僕は誇りを感じています。それは国の誇りでもあり。両親や、祖父母や、叔母や叔父や従兄弟たち、僕はその一人一人との繋がりを感じ、そこからエナジーを感じました、すごくクールだと思う。家族や友人たちと繋がり、メッセージを受け取ることは勝利した後に何週間にも渡って良い思い出となりました。
ジェイク・パターソンのコーチも大きな力になりましたか?
彼は、僕がまだ持っていない経験や知識をアドバイスしてくれています。それを僕は参考にして僕自身に当てはめて試合に生かしています。
君は以前、メンタルの強さや柔軟性は、例えればパズルのようなものだと言っていたね
サーフィンのメンタリティにおいては、僕は誰にも負けないと思っています。さらに自分が周囲にどうアウトプットしているか、そして周囲がどう自分を見ているかを認識することは重要だと思っていますね。僕をよく知る近しい人たちの意見に耳を傾けるのも大切だと思っています。もちろん僕自身の意見は持っていますけどね。今自分がどこにいて、なにをしているかを理解していることも重要だと思います。
僕は試合中にさまざまな角度から試合を見ることができます。自分自身を見つめ、どのくらいこの試合に意識を傾注させているかにも注意しています。また試合に挑むときはプレッシャーが必要だとも感じます。それは自分をモチベートするためなんです。だからむしろ僕はプレッシャーが好きなんです。プレッシャーを敵のように感じて対立するのではなく、プレッシャーとどう折り合いをつけるかと考えるんです。僕が、試合が好きな理由がそこにあるんです。ただ試合に勝ちたいというのではなく、もちろん試合には勝ちたいけど、ただ勝つのではなくプレッシャーと向かい合って、それを乗り越えた先に勝利がある。楽をしようと考えるよりそっちの方が面白いんです。
ツアー4年目については?
ツアーが後半戦に入って僕にとっても厳しい試合が続くと思います。でも大きなジャンプをするチャンスに対応する準備はできています。毎日多くのメニューをこなし、フィジカルでもメンタルでもまだ成長過程にいると思っています。これから起こる事に集中し、毎日、毎時間、毎秒そしてすべての波にゴールを設定し集中したいです。それぞれのゴールの瞬間を自分がしっかりとコントロールできていること、可能なことはすべてコントロールしあとは結果を待つだけですね。
試合のそれぞれのヒートへはどうアプローチするんですか?
僕はどのヒートも重要だと考えています。だからすべてをファイナルヒートだと考えます。逆にファイナルでは予選のように考えます。対戦相手が誰でも戦略は変えません。いつも同じ戦い方をします。
2020年のオリンピックはどう考えてますか?代表として戦うことは、通常の試合とはまた違った意味があるのでは?
僕が思うのは。オリンピックはサーフィンの発展のための大きなチャンスだと思っています。メジャースポーツになれることを世界に示す良い機会だと思います。また日本の代表として私が出場できたら、私の家族にとっても重要なことです。しかし一番重要に思うことはやはりサーフィンの発展ですね。
This column is based on Tracks magazine Australia below.
https://www.tracksmag.com.au/
(李リョウ)