シリーズ「サーファー達が町を支える」全国ローカリズム事情
サーフポイントと言えば、いわゆる人口の多い地域とは離れ、自然が豊かでローカルな場所。
また昨今は、地方であるほど人口が減少し、地域の過疎化も進んでいるのが現実。海近くであれば、津波の問題を含む災害対策など様々な問題をかかえていると言えるだろう。
しかし、そういった問題に対して、地元のサーファーが地域住民や自治体と連携し、海岸周辺の様々な課題解決に一役買っているケースも少なくない。
こうした地元サーファーの活動はこれまで大きく取り上げられることはなく、残念ながらその功績もあまり認知されていないのが現状だが、サーフィンが盛んな地域にとって、今やサーファーは町づくりにも必要不可欠な存在といっても過言ではない。
この企画は、普段はあまり表に見えない地元サーファーの活動を、訪れるサーファーにも改めて伝えたい、そんな思いから始まりシリーズ化することとなった。
第一弾は、これまで国際大会の開催実績も多く注目を集める愛知県田原市を紹介したい。
田原市赤羽根町にて、10年以上の活動を続けている「安全波乗隊」
遠州灘に沿って東西に長く伸びる愛知県の渥美半島、通称「伊良湖」エリアの中で、サーファーに最も知名度のある田原市赤羽根町では、地元サーファーらで構成する自主防犯ボランティア「安全波乗隊」により、海岸付近の防犯活動やビーチクリーンなどが実施されている。
発足は2007年(平成19年)、“海がある限り毎日が活動日” とする安全波乗隊は、15~20名ほどのローカルサーファーらで構成されており、車上ねらい防止のための見回りや、危険な場所でのサーフィンに注意を呼び掛けるなど、サーファーがサーファーを守る活動を自主的に実施。
そのきっかけはサーファーだけをターゲットとする車上ねらいが異常に増えたこと。田原警察署と連携して活動することにより、当初は年間60件あった被害が、今年、令和元年には1件のみに減少。
また、ハイシーズンとなる7~8月には、田原市サーフィン協会や愛知ライフセービング協会、警察署や海上保安部などとの合同パトロールも実施され、主要サーフポイントでルール・マナーを啓蒙するチラシを配布。
さらには、サーファーを対象とする津波避難訓練も定期的に実施するなど、サーファーが海の危険に関する知識を深め、海の利用者のマナー向上も目的とする様々な活動を行ってきた。
トイレやシャワー施設、サーファー向け避難経路の整備
こうした地道な活動が行政機関にも認められ、徐々にサーファーの社会的地位も向上。渥美半島の太平洋側には、俗にいう “海水浴場” は存在しないが、「ロングビーチ」や「ロコ」など主要のサーフポイントには、整備された駐車場やトイレ・シャワーなどサーファー向けの施設が充実。
また、ロングビーチとロコポイントには、年間10万人のサーファーが訪れると言われ、田原市では人口減少に歯止めをかける対策として「田原市サーフタウン構想」を打ち出しており、サーファーを軸にした町づくりと併せて、移住サーファーの誘致にも力を入れている。今後は地元サーファーも、訪れるサーファーにとってもさらに過ごしやすい環境が整っていく見込みだ。
地元サーファーと縦割り行政の連携
今回取り上げた内容は一例ではあるが、田原市では、 俗にいう “縦割り” が一般的な行政機関も、 サーファーというコミュニティが中心になることにより様々な情報が共有され、その連携体制も整っているという。
例えば、津波避難訓練の実施は消防の管轄。そして津波警報発令時にサーファーが高台へ避難する場合は、命の安全を最優先するためサーフボードは砂浜に置いて避難するのがセオリー。
訓練に参加するサーファーは本番と同様の避難を行っているが、砂浜に置いたサーフボードが盗難にあわないよう、訓練時には地元警察がビーチの見回りを行う。一般的にはささいなことに聞こえてしまうかもしれないが、こうした行政の連携は “もしも ” の場合には大変心強いもの。
また、これまで田原市では大規模なサーフイベントを何度も開催してきた実績もあり、会場周辺の警備や海の安全についても、県と市はもちろん、警察、消防、海上保安庁などそれぞれの役割を持つ機関が連携し、地元サーファーらと良い関係を築いている。
サーファーの活動と自治体の活動が融合することで、大きな変革を遂げている愛知県田原市。
今後も様々なエリアで行われている地元サーファーの活動、行政や地域住民との関わり合いを紹介していきたいと思う。
「地元サーファーが町を支える」
続く第2弾は、神奈川県の西湘エリア「大磯」の状況をお伝えする予定。
(THE SURF NEWS編集部)