東シナ海タンカー事故、日本沿岸部への影響は?超軽質原油コンデンセートとは?(3/22追記)

2018/03/22追記↓

海水汚染や海洋生態系への影響が懸念されている、東シナ海で起きた石油タンカーの衝突事故。日本沿岸部への影響についてのシミュレーションおよび、各機関の見解をまとめた。

沈没したタンカーは11万トン超の原油を輸送していた

AFP通信によると、1月6日、中国沖(黄海と東シナ海の境界線付近)でイラン企業所有のタンカー「サンチ(Sanchi)」が、香港船籍の貨物船「CF クリスタル」と衝突。サンチは炎上しながら漂流し、14日に日本の排他的経済水域(EEZ)内で沈没した。

タンカーの乗組員イラン人30名、バングラデシュ人2名のうち、みつかった遺体は3名に留まっており、事故の現状からもはや生存者が見つかる見込みはないとされている。

炎上するタンカー「サンチ」 PHOTO:(c)AFP/Transport Ministry of China

21日夜、中国国家海洋局は、332平方キロメートルにわたって油膜が海面を覆っていることを確認したとの声明を発表。タンカーは、「コンデンセート」という超軽質原油を11万1000トン積載しており、この規模での流出は前代未聞という。

汚染物質の拡散シミュレーション

この事故を受け、イギリスの国立海洋学センターが汚染物質の拡散モデルを予測。その予測を元に、ロイター通信がシミュレーション映像を作成、公開している。

このシミュレーションでは、沈没から25日後(つまり2月8日)には、汚染物質が種子島や屋久島のある大隅諸島付近に到着。そこで、黒潮に合流して、九州・四国・本州の太平洋沿岸に急速に運ばれてしまう可能性を示しており、SNSなどでも海水汚染を心配する声が多く見受けられた。

国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの見解

一方、国際環境NGOのグリーンピース・ジャパンは、当THE SURF NEWSが本日2月1日に行った取材に対し、コンデンセートは非常に揮発性が高く、海に流失した油は大気中に蒸発していくと説明。その上で、上記の拡散モデルは流出した粒子がどのように移動するかを予測しただけものであり、『コンデンセートの特質を考慮に入れていないことから、今回の影響の規模を判断するのには有力ではありません』と、同モデルの設定条件を解説した。

また、コンデンセートは原油漏れの際に見られるような粘り気のある濃密な黒い油とはならず、『直接肌に触れたり、鼻や口から体内に入ったりすると人体にも悪影響を及ぼす可能性があります。危険性が高いのは主に海上の事故現場に赴いている人たちです。現時点では陸地の人たちにはリスクはありません。』ともコメント。

主原油の流出量について正確な情報は不明なままで、海洋生態系への影響も予測は不可能。今回の事故が起きた地域は、ケンサキイカの産卵場所であり、マサバ・タチウオなどの食用種が越冬地として利用しているが、いまのところ死んだ魚は確認されてはいないという。

また、今後の拡散影響については、『流失した原油は自然なプロセスによって時間の経過と共に毒性が軽減されていくであろうと思われます。その様子が日々どのように変わっていくのかを注視していく必要があります。』と答えている。

海上保安庁第10管区の見解

電話取材にて、「日を追うごとに油膜は薄くなっており、コンデンセートは揮発性が高い油のため、浮流油の範囲も縮小している。現在のところで影響が出ているという情報は入っていない。」旨のコメントをしている。

 

コンデンセートの性質等を考慮すると、上記シミュレーションをそのまま汚染レベルと置き換えることは出来ず、97年のナホトカ号重油流出事故時のような真っ黒な液体が海岸を埋め尽くす訳でもないようだが、決して安心できる状況ではない。THE SURF NEWSとしても、引き続き注視していきたい。


2018/02/02午前 追記
2月1日夜、朝日新聞が、鹿児島県奄美大島の朝仁海岸に、黒い油状の固まりが漂着していると報道した。また、鹿児島テレビは、十島村の宝島に少なくとも1月27日に、油のような漂着物があったと報道していた。これをうけ、グリーンピース・ジャパンは以下の声明を発表している。

「沈没した石油タンカー『Sanchi』による可能性が高いです。それはおそらく、海水と混ざり乳化した燃料油、もしくは、コンデンセートに含まれる重い残留物と思われます。しかし、これが石油タンカー『Sanchi』のものかどうか証明するには、”指紋認証”のように、タンカー沈没地点で浮遊している燃料油の採取サンプルと照合分析をしない限り、確かめるのは不可能です。」

一方、TBS NEWSによると、同日1日に中国の海洋当局は会見を行い、流出した油による汚染の範囲が最も広がった時の10分の1まで狭まったと発表したという。
———————————
2018/02/02 19:00 追記
2月2日午前、政府は、鹿児島県・奄美大島の海岸に広範囲に渡って黒い油が漂着したとして、首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置した。
———————————
2018/02/02 20:00 追記
当THE SURF NEWSは、宝島のある十島村役場に電話取材を実施。担当者によると、住民と協力して漂着物の除去作業を行い、ドラム缶2つほど回収したがまだ大半が海岸に残っている状況。今のところ漁業への影響は確認できていないが、住民からは心配の声があがっているという。

十島村役場提供

十島村役場提供

なお、奄美大島の島北部~西部に渡り、東シナ海側の海岸線を広範囲に調査した「奄美海上保安部」によると、実際に海岸まで降りることができる複数の場所で、黒い油状の固まりの漂着を確認。現時点で石油タンカー「Sanchi」から流れ出たものと断定はできないとするも、その成分について調査中であり、原因の特定を急いでいるとのこと。
———————————
2018/02/05 14:00 追記
NHK NEWS WEBによると、2月4日、鹿児島県徳之島でも油状物質の漂着が確認された。これまでに、奄美大島、喜界島、トカラ列島の宝島、徳之島の4島で油のような漂着物が確認されているという。

これを受け、当THE SURF NEWSでは、本日現地への電話取材を実施し、各機関から以下の回答を得た。

・徳之島町役場/住民生活課『これから県と相談し、調査・対応方を協議する予定』

・十島村役場(宝島)『海上保安庁が漂着物の検査実施し、有害物質が含まれていることは確認されなかった』

・奄美海上保安部『週末には現地で漂着物の採取を行い、現在、調査機関にて漂着物の成分分析などが行われている』

・奄美大島のサーフィン関係者『先週に比べ油状漂着物が増えている』

・種子島のサーフィン関係者『種子島の海岸沿いを見回っているが、まだ漂着物は確認されていない』

十島村役場提供

十島村役場提供

———————————
2018/02/06 18:00 追記
鹿児島読売テレビによると、5日夜までに、奄美大島、トカラ列島宝島、喜界島、徳之島に加え加計呂麻島、与路島、 請島でも油の漂着が確認された。また、同日、沖永良部島でも油の漂着が確認されている。
———————————
2018/02/07 19:00 追記
6日夜、第十管区海上保安部は、宝島・奄美大島・喜界島に漂着した油状物質の成分分析結果を以下のとおり発表した。

・各島に漂着した油状の物は、C重油相当の油または原油相当の油である
・コンデンセートは揮発性が高いため、一般的に島に漂着する可能性は極めて低い
・SANCHI号沈没位置付近の海面に浮流する油と、各島沿岸の漂着油が同一のものとの結果はでていないが、関係がないとも断定できない

当THE SURF NEWS編集部にて、同部に電話取材を行ったところ、沈没したSANCHIにはコンデンセート約11万トンのほか、船自体の燃料油としてA重油約120トン、C重油約2000トンが積まれていたことが分かっている。

97年に日本海で沈没したタンカー「ナホトカ号」からは、重油約6000トンが流出したと言われているが、単純に数値だけを比較すると、SANCHI号に積載されていた重油量はナホトカ号の約1/3となる計算だ。

今回、各島に漂着した油状物質について、化学物質の環境汚染を専門に研究する鹿児島大学の宇野誠一准教授は、「重油には毒性の強いとされる多環芳香族(たかんほうこうぞく)炭化水素が含まれるが、環境への影響は一時的・範囲も限定的だろう。」と話す。また、今後想定される除去作業についても、「活性炭マスクや手袋を着用したほうがよいが、万一手に触れてしまっても石鹸と大量の水で洗い流せば問題ない。大量に摂取しない限り人体への影響もない。」という。

一方、奄美大島の海岸沿いを調査・撮影しているあまみカメラ坂元秀行氏によると、油の漂着ポイントは徐々に広がっている印象で、現在は島の東側笠利町付近(奄美空港の南)でも数点漂着物を確認しているという。

▼名瀬地区朝仁海岸の様子奄美大島漂着油情報提供)

———————————
2018/02/08 21:00 追記
鹿児島県によると、8日までに与論島や屋久島の海岸でも油の漂着が確認され、これまでに計10島に油が漂着した。
環境省は、奄美大島でアオウミガメ1頭が油をのみ込んで窒息死したことを発表した。

第十管区海上保安部は、「十管区タンカー『SANCHI号』沈没及び奄美群島などにおける漂着油対応に関する対策本部」を設置。併せて、鹿児島海上保安部及び奄美海上保安部に、現地対策本部を設置したことを発表した。

鹿児島県は、同日未明に「回収作業マニュアル」を公開した。
———————————
2018/02/09 17:00 追記
朝日新聞によると、8日、沖縄本島北部西岸の本部(もとぶ)町や今帰仁(なきじん)村の海岸でも、油状物質の漂着が確認された。
———————————
2018/02/09 21:30追記
8日、環境省は「奄美大島等における油状物の漂着事案への対応体制の強化 」を発表。

MBC南日本放送によると、奄美市の職員50名が、朝仁海岸で油の除去作業を開始。喜界町、徳之島、宇検村も回収作業を始めた。

油状漂着物の有害性や環境・魚・人体への影響について、化学物質環境汚染の専門家へのインタビュー記事を公開。

【奄美大島等に漂着した物体は?】鹿児島大学環境保全研究室・宇野誠一准教授インタビュー

———————————
2018/02/10 11:10追記
「ナホトカ号重油流出事故」と比較しながら、2/9時点までの状況をまとめたコラムを公開。
東シナ海タンカー事故での油流出、漂着について(2/9まとめ)
———————————
2018/02/14 23:00追記
14日、環境省の渡嘉敷奈緒美(とかしきなおみ)副大臣が、現地調査のため奄美大島を訪問。
アマミテレビによると、同日までに、口之島、中之島、諏訪之瀬島、小宝島の十島村4島でも、新たに油の漂着が確認された。

なお、奄美市は2月18日午前9時から、油が漂着している市内の海岸全域で回収作業を行う計画で、市民にもボランティアの協力を呼びかけている。
原則、現地集合、現地解散。作業に使用する軍手、ゴム手袋、レジ袋などは本部で準備するが、汚れてもよい格好で参加する必要があるとのこと。
【問い合わせ先】奄美市総務部総務課危機管理室(電話:0997-52-1111 内線:1316)
———————————
2018/02/15 20:30追記
奄美大島に住む国の特別天然記念物コウノトリに油のようなものの付着が確認されたと、複数メディアが報じた。コウノトリは通常に行動しているようで、環境省は見守るとしている。

なお、環境省は、14日から船舶による海域公園地区等における油状の物の影響把握調査を開始している。
———————————
2018/02/16 19:00追記
鹿児島大学環境保全研究室・宇野誠一准教授インタビュー記事にて、海や砂浜に残った油はどうなる?などを追記公開。
———————————
2018/02/17 17:00追記
16日、那覇自然環境事務所は、奄美群島国立公園における漂着油に関する緊急調査の結果を公表。

目視による緊急調査の結果、水浜を除く4地区の海岸において、油の漂着を確認したものの、海面における浮遊は無かったことが確認された。
また、イシサンゴ類等への付着も確認されず、現時点ではイシサンゴ類、海藻海草類、貝類、ウニ・ヒトデ類(棘皮動物)の生息・生育には特に異変がないことが確認された。
———————————
2018/02/19 14:00追記
16日、水産庁から委託された国立研究開発法人「水産研究・教育機構」が、今回のタンカー沈没事故で流出した油による水産資源や漁場への影響調査を開始。

海水や動物プランクトンを採取・分析し、浮遊する油が魚類等に油類が与える影響を明らかにする。調査は3月12日まで行われ、結果は4月上旬に公開される予定。
———————————
2018/02/19 16:20追記
ナホトカ号重油流出事故(1997年)の際、現地で漂着物回収作業に取り組んだ3名にインタビュー『「ナホトカ号重油流出事故に学ぶ」油の回収作業とは』を公開。
———————————
2018/02/22 15:00追記
21日、海上保安庁は、タンカーSANCHI号の沈没海域に浮流していた油と、沖永良部島と与論島に漂着した油の分析結果を発表。いずれもC重油相当の油または原油相当の油であり、それぞれを構成する成分・成分比が類似していることが分かった。

また、同庁では、1月19日から2月2日にかけて、SANCHI号沈没海域と沖縄周辺から南九州沿岸の海域の14箇所で採水を行い、その油分測定の結果も公表。すべての採水箇所において、海水中の油分は事故以前の測定値と変わらず、油による汚染は確認されなかったとしている。
———————————
2018/02/27 21:00追記
27日までに、海上保安庁は、沖縄県宮古島と伊江島でも油状物質の漂着を確認したと発表した。
———————————
2018/03/10 15:00追記
9日、海上保安庁は、油状物質が漂着した22島(鹿児島県17島・沖縄県5島)で採取したサンプル等の分析結果を発表。

いずれもC重油相当の油または原油相当の油であり、以下7島に漂流・漂着した油状の物は、1月 17 日にSANCHI号沈没位置付近海面に浮流している油とそれぞれを構成する成分や、その成分の比率が類似していたことを明らかにした。

・鹿児島県5島(口永良部島・口之島・悪石島・沖永良部島・与論島)
・沖縄県2島(沖縄本島・伊平屋島)

また、同庁は、以下の理由から、鹿児島県及び沖縄県の島に漂流・漂着した油状の物は、SANCHI号の沈没事故によるものと考えることが合理的であるとの見解を示した。

・約500キロメートルに渡り広範囲に点在する上記7島で採取した油状物質が、SANCHI号沈没位置付近の浮流油との類似性が認められたこと
・1月14日のSANCHI号沈没以降、短期間で広範囲に油状の物が漂着していること
・各島及びSANCHI号沈没位置周辺海域において、沈没事故等に係る情報もなく、他に浮流油等を認めていないこと
・一般的に季節風(北寄りの風)、黒潮の流れといった気象・海象の影響を受ける可能性を総合的に勘案
———————————
2018/03/22 16:00追記
20日、海上保安庁は、鹿児島県・沖縄県各島での漂着確認の最新状況を更新。2月27日の宮古島漂着以降、3月19日までに新たな場所への漂着は確認されていない。
———————————

COVER PHOTO:国立海洋学センターの汚染物質拡散モデル予測 (c)National Oceanography Centre

(THE SURF NEWS編集部)

※当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等を禁じます。