これまで世界を見渡せば数々あった人工リーフ。自然を人間の思惑通りに変化させることは非常に難しく、失敗するケースが大半でした。
そんな人工リーフの一種類として、世界初となるインフレータブルサーフリーフ「Airwave(エアウェイブ)」なるものの実験が、2019年11月から西オーストラリアのバンバリーにてスタートします。
そこで、新たな人工リーフとして注目されるエアウェイブとはどのようなものであるのか、すでにエアウェイブが発表していた内容とMagicseaweed誌による最新インタビューで明かされた内容を交えて紹介していきます。
アイディアのきっかけ
エアウェイブを開発したのは、西オーストラリアの州都であるパースをホームとするトロイ・ボッテガル。
トロイのローカルブレイクはほぼクローズアウトしかブレイクしないビーチブレイク。波は悪いものの、ファミリービジネスに忙殺され、サーフトリップに出掛けるほどの時間もない。
そんなフラストレーションの溜まる日々を過ごしていたある日、浴室で「どうしたものか!?」と天井を仰ぐと目に付いたドーム型照明からアイディアが閃いたと言います。
インフレータブルサーフリーフとは
インフレータブルと言えば、サーフィンの世界で有名なのがインフレータブルベスト。主にビッグウェイブサーファーが着用するベストです。
同ベストは、波に巻かれている時に素早く海面へと浮上するため、海中で二酸化炭素カートリッジのコードを引くとベストが膨らむという仕組みであり、つまりインフレータブルとは膨張可能という意味です。
同サーフリーフに話を戻すと、従来の人工リーフとの最大の違いは、設置が手軽という点。従来であれば2年近い歳月を求められましたが、エアウェイブはわずか2週間で設置が可能。
設置が手軽ということは撤去も手軽で、もしも海洋生態系に影響を及ぼした場合にはすぐに撤去可能だそうです。
どのような波を発生可能なのか
エアウェイブの役割としては、ホームブレイクでの波の悪さに辟易としたトロイが開発したものなので、当然ながらグッドウェイブを発生させること。
ただし、興味深い点は、従来の人工リーフとは異なり、スウェルが入るライン上の一部のみにエアウェイブを設置することで波のシェイプを変えるのです。
従来の考え方であれば、人工リーフ上でパーフェクトウェイブを完結させるものであったので、エアウェイブはアシスト型サーフリーフと言えます。
実験場所となるバンバリーでは、平均してスウェルのサイズは0.5~2メートル、潮位は0.25~1メートルとなっていて、この程度であればエアウェイブでAフレームの波を発生させることが可能とのこと。
ですが、現行のエアウェイブでは2メートルよりも大きなスウェルには対応できないそうです。ちょうど2メートルであれば、潮回りに左右されるものの、概ねフェイスでダブルオーバーヘッドになるとのことでサイズに関しては十分とも言えます。
エアウェイブの今後の展開
エアウェイブの実験が成功すれば、その先に見えてくるのは商業化という動き。
将来的にはライセンス契約ではなく、一回売り切り型での販売を考えていて、10基のエアウェイブでおよそ350万ドル(現為替で約3.7億円)。
10基あればAフレームの波が発生するピークを10か所誕生させられる可能性があり、かつ従来の人工リーフを1か所設置する費用のおよそ半額とのことです。
まとめ
サーフィンに適した波に大きな影響を与えるのは海底における水深の変化。
英語では「サンドバンク」や「サンドバー」などと呼ばれ、ビーチブレイクと言われる海底が砂のエリアでは、波がブレイクする沖合での砂の付き具合が重要となります。
ただし、砂ということは大きなスウェルが入ったりすれば流れることは頻繁なので、海底の地形は常に一定ではなく流動的。
また、スウェル自体を考えてもサイズが小さければ浅瀬で波はブレイクし、大きくなればその逆でより沖合でブレイクします。
そのため、海底の一部のみに設置してブレイクを変化させるエアウェイブが、どれほどブレイクする波全体に変化をもたらすことになるのかは未知数のように思えます。
ですが、もしも、もしも成功したならば!?例えば過疎地などで、エアウェイブを設置してサーフィンを観光資源にしたりと、ゲームチェンジャーになりえる可能性を秘めているので実験結果を楽しみにしたいところです。
参照記事「WORLD’S FIRST INFLATABLE SURFING REEF REVEALED|MagicSeaWeed」