インドネシア、ジャワ島の伝説のレフト『グラジガン』の秘話、トリビアそして体験記
サーフィン伝説という名にふさわしいG-ランド史
G-ランドが初めてサーフされたのは1972年にさかのぼる。その男はボブ・ラバーティというアメリカ人で、友人のビル・ボイヤムとバリからジャカルタに飛ぶ飛行機の窓からこの波を発見した。しかしそこはジャワ島の未開のジャングルだったために、アクセスする方法がなかった。そこで2人はバイクにサバイバル用具や荷物を積み、バリ島から陸路を走りフェリーでジャワ島に渡り、再び陸路でジャングルを踏破し、ついにその波をサーフすることに成功する。
その後、ビルの兄弟のマイク・ボイヤムがツリーハウスを建設しサーフキャンプを営むようになり、ジェリー・ロペスなどバレルジャンキーが世界中から集まって滞在しサーフィン史に残る数々のサーフセッションが行われた。
G-ランドの名前がメディアに公表されたのは1980年になってからで、それまではウルワツよりもすごい伝説のレフトとして世界中のサーファーに噂だけが流布していた。コンテストが開催されたのは1995年のクイックシルバーグラジガンプロで、優勝はケリー・スレーター。翌年も試合は開催されたが、その後、インドネシアの政情不安によってコンテストはしばらく開催されることはなかったが、2020年のCT開催地として再びこのグラジガンが選ばれることになった。
G-ランドまでのアクセス
グラジガンへはバリ島を経由して向かう。行き方は陸路と海路がある。グラジガンはバリのとなりのジャワ島にあるが、陸路だとフェリー乗り場までの距離が長くほぼ一昼夜かかると考えていい。現在はバリから高速ボートで、約2時間でキャンプへ到着できるようになった。
宿泊はジャングルのなかのサーフキャンプ
G-ランドはジャワ島の密林にあるためにサーフキャンプ以外に宿泊施設は無い。サーフキャンプは、ボビーズ、ジョーヨーズ、ジャックスと三つある。ボビーズが有名だが、ジョーヨーズが中国資本になってサービスに力を入れているために人気が高まっているという噂を聞く。
滞在費は一泊$100~$150くらいと考えれば良い。朝昼晩と三食付きで、メニューから自分で選ぶことができる。味の評価は人それぞれだが、あまり期待はしないほうがいい、とにかくお腹いっぱい食べることはできる。ビール以外のソフトドリンクは無料。フリーWifiも完備しているが動作はかなり不安定。予約は日本のサーフ系旅行代理店に相談すればすべてアレンジしてくれるが、自分でキャンプに直接ブッキングすることも可能。その場合はバリのオフィスでチェックインを済ませる必要がある。そのときに滞在ホテルを告げておけば当日の朝に車でピップアップしてくれる。
サーフボード
G-ランドに挑戦するならば、パワフルな波に対応できるサーフボードが必ず必要。日本のビッグウェーブがここではスモールかアベレージサイズ。パドルが楽でテイクオフの早い7フィート以上のサーフボードでサーフするのもアイデア。キャンプにはサーファーが置いていった中古のサーフボードがいっぱいあるから現地で調達という方法もある。G-ランド周辺の20-20やタイガートラックだけでサーフィンをするつもりならば日本で使用しているサーフボードでも大丈夫だろう。
G-ランドや周辺の波
Movie : George Kodama
高速レフトのG-ランドは大きく分けてコングス、マネーツリー、スピーディーズと三つのポイントに別れる。スピーディーズがもっともインサイドで浅く、コンデションが整うと15秒間のチューブライディングも可能だという。マネーツリーは深度がありロータイドのときにもサーフ可能。
私(筆者)は2度目のG-ランドだが、最初は撮影だったためにサーフィンはしていない。つまりサーフィンとしては初めてのG-ランド挑戦だった。結論から先に言うと「たいへん難しいが、魅力的な波」陸から見ていると規則的にブレイクしているように見えるが、パドルアウトしてみると、微妙にブレイクがトリッキーでジャッジが難しい。いわゆる前が早く落ちてしまう。見ているだけなら美しいのだが乗ろうと思うとソッポを向かれる。
バリのインポッシブルで練習をしてきてそこそこの自信はあったがみごとに打ち砕かれた。だが、良い波に恵まれるとサーフボードに立ったと同時にバレルに包まれ、忘れられないようなドライチューブを経験する。しかも午後は美しいグリーンルームとなる。G-ランドにはローカルサーファーはいないが、ゲストサーファーだけでも混雑はする。しかもハイタイドだけとなると1日のうちにサーフする時間は意外と少ない。私は混雑を避けてロータイドでサーフした。マネーツリーはロータイドでもサーフできるし、サーファーがほとんどいない。日本の河口やリーフでサーフィンをしているサーファーなら大丈夫だと思う。それから水温が異常に冷たかった。スプリングスーツは必ず携行したほうが良いと思う。
日本のアベレージサーファーには手強いG-ランドの波だが、じつは周辺にはファンウェーブの20-20(トゥウェンティトゥウェンティ)とタイガートラックという波がある。そこは乗りやすく楽しい波で、しかも空いている。20-20は、歩いて片道20分だから20-20というが実際は30分かかるとかかからないとか。でもキャンプのスタッフに頼めば車で連れて行ってくれる。他のサーファーがいる場合もあるが、G-ランドにはローカルサーファーはいないからマナーさえ守れば遠慮しないでサーフィンができる。タイガートラックにはレフトとライトがあり鎌倉のリーフブレイクに似た波質。
総括
さて、このグラジガンの波が好きか嫌いかと問われたら。「まだわからない」と私は答える。波にぜんぜん乗れなかったという表現が正しいからだ。この幻滅感はハワイのサンセット以来。でも一週間の滞在で、一本だけだが、一生の思い出に残るバックハンドバレルをメイクすることができて、「出直してこい」とグラジガンの神様に言われたような気がする。トム・キャロルが「ここでは最高と最悪の二つのことが起こるから、そのつもりで準備したほうがいい」となにかの本で言っていたことを思い出した。
(李リョウ)