グッドウェーブをブロックするその「壁」を理解しよう
シリーズ「おいらはサーファーの味方」No. 37
待ちにまった台風がやってきた。「波が上がるぞ!」と気合を入れて海へ向かってみると…なんとフラット。湖のように静かな海をぼうぜんと見つめて「こんなはずでは…」とつぶやく君。台風がすぐそこにあるのに、なぜ波がカミングアップしないのか?
それは「前線ブロック」とサーファーが呼ぶ現象だ。天気図に前線が現れると、波が思いのほか小さかったり、ときにはフラットなんていうことも起きるから、いつのまにかサーファーの間で前線ブロックと呼ばれるようになった。この現象は湾などの内海でとくに起こりやすい。
(注意:前線にはいろいろな種類があります。ここでは全て「前線」と一つにまとめさせていただきます)
前線ブロックの正体は「風」
上の天気図を見てほしい。このように前線が発達すると、台風からのスウェルが、前線のところでストップしてしまう。沖縄や九州では波が大きいのに、前線の北側にある遠州灘や相模湾では、波が小さいということがよく起きる。その原因は「風」だ。北上しようとするスウェルを、前線の北風が押しとどめてしまうからだ。
波を作る風が、波を消している?
さて、台風が発生すると、その前線ブロックはさらに強力になる。天気図には大きな台風が現れているのに、海に行ってみると波はさほど大きくない。ときにフラットなんてこともある。その原因を説明しよう。台風は、強い風の渦だから発生させる波も大きいはず。しかし台風は、大きな波を発生させていながら、その波を抑えてしまう風も同時に起こしているのだ。「一つの風が波を作り、そして消している?」そのことが下の二枚の衛星画像を見ると理解できる。
衛星画像に現れた大きな台風の雲。波を作る「南風」と、引き寄せられた「北風」がぶつかり合い波の進行を妨げているのがイラストで分かるだろう。そこに前線が現れる。
前線の位置で「グッドウェーブ」が起こることも・・
前線は波を抑えるばかりではなく、ときにはサーファーに都合よく作用する場合もある。湘南のある相模湾で前線ブロックにじゃまされずに、グッドウェーブがブレイクした一例を紹介しよう。
上の天気図では、低気圧が日本の太平洋沿岸をすれすれで通過している。このような状態だと前線ブロックの北風によって波が消される影響はほとんどなく、前線の下から吹く南風によってスウェルがしっかりと届きやすい。下の図で風の動きを見てみよう。
前線の抜けたあとがチャンス
この朝9時の予想天気図。早朝は少しラフなコンデションだったのが、低気圧の通過後に、風がオフショアとなって波が整っただろう、ということがこの天気図だけでイメージできる。こういうときは天気が晴れ、急に波がサイズアップすることがよくある「前線が切れた」とサーファーは言う。
低気圧が接近すれば、波が立つ。しかし前線が現れると波を消してしまうこともあり、それをサーファーは前線ブロックと呼ぶ。そのブロックの原因は風だ。ということがお分かりいただけただろうか。
これからは、台風の位置だけでなく前線の動きにも注意して天気図をチェックしよう。そうすれば「台風が接近しているのに、なんで波が無いんだ!?」なんて海で叫ぶことはもう無くなるはず。
(この記事はサーフィンの波というテーマに沿って編集いたしました。したがって作画した前線の位置や矢印などは、気象学的には正確でないかもしれません。ご了承ください。筆者)
(李リョウ)