ひとりの女性がサーフィンを通じて体験した、サーフィン文化に内在するジェンダー問題やアイデンティティの形成を記録した自叙伝、『ただ波に乗る Just Surf〜サーフィンのエスノグラフィー〜』(水野英莉著)が3月より発売中だ。
サーフィンと出会い、ただサーフィンがしたいだけなのに感じる葛藤。日本に生まれ育ち、女性であり、社会学の研究者である筆者が、サーファーを始めるところからサーフィンの研究を始めるまでに至る出来事、そして様々な人たちと関わることによってサーフィンを基軸としたライフスタイルをいかに構築していったか、という彼女のストーリーを具体的に示している。
「ただサーフィンがしたい。(I just want to surf)」
はじめに
日常に戻らなければならないときにサーファーがよく口にすることば。
それは、私にとっては、「女性」のサーファーであることを繰り返し迫られることへの抵抗感を含んでいた。
本書は主に2つのテーマから構成されていて、ひとつは、「女性」のサーファーであることによる経験について。男性サーファーたちのグループと出会い、サーフィンを始め、どのように居場所を作っていこうとしていたかを記している。
もうひとつは、サーフィンを継続できないような壁に突き当たった後、どのように自分なりに納得する立ち位置を作っていったか、そしてサーフィンの男性中心的な集団、競技性やセクシズムの限界を指摘しながら、より成熟し多様性やジェンダー公正が進んだ世界を模索している。タイトルの「Just」には「ただ」と同時に「公正な」という意味が込められている。
「サーフィン・スポーツ・ジェンダー」。「白人、男性、中産階級、アスリート」を中心とする現代サーフィンの世界において、その「中心」にはいない、サーフィンを幅広く支えている多様なサーファーたちによる生々しい経験は、あまり積極的に取り上げらたてこなかったが、本書は、特に女性サーファーの方なら、似たような体験を思い起こして共感したり、サーフフェミニズムに触れるきっかけになるはずだ。
ジェンダー、民族、出身地、サーフィンに対する意味づけなどは関係なく、サーファーはサーフィンをする。ただ波に乗りたいだけなのだ。
現在、晃洋書房や全国のネット書店にて発売されている。
■目次
はじめに
第Ⅰ部 サーフィンのエスノグラフィーのために
第1章 サーフィン、スポーツ、ジェンダー
1 サーフィン研究とスポーツ
2 ライフスタイルスポーツとしてのサーフィン
3 日本での広がりとボディボード
4 サーフィンをする女性の身体
5 残された課題としての一般女性サーファーの経験
第2章 経験を記録する
1 オートエスノグラフィー
2 フェミニストエスノグラフィー
3 本書の調査について
第Ⅱ部 〈女性〉が経験するサーフィン
第3章 サーフィンを始める
1 あこがれから現実に
2 ボディボードからのスタート
3 大小の壁
4 ショップで見聞きする話
第4章 男同士の絆
1 ショップとチーム員
2 集団の上下関係
3 男らしさの表現
4 セクシズムを正当化する論理
第5章 差異化戦略とその限界
1 三人のボディボード仲間
2 ショートボードへの転向
3 差異化される女性/差異化する女性
4 流動的な地位
第Ⅲ部 オルタナティブなゴールに向けて
第6章 ショップをこえて
1 移住生活
2 オーストラリア合宿
3 コンテスト
4 引っ越しとショップ迷子
第7章 サーフィンの再開
1 サーフィン・ソーシャル・フイ
2 バタフライエフェクトというイベント
3 サーフフェミニズムを実践する人たち
終章 理想の空間をめざして
1 困難さとは何だったのか
2 オルタナティブな身体文化
注
おわりに
書籍の詳細および購入はこちらより。
(THE SURF NEWS編集部)