社会のルールに縛られなくても生きていける、逆らうのではなく服従でもない
今はどうかわからないけど、昔はサーフィンに夢中になると、誰もがサーフショップに入り浸るようになったものだ。当時のサーフコミュニティは、今よりもずっと排他的で近寄りがたい空気に満ちていた。そこにやってくる先輩サーファーたちは、いわゆるVANを着ていない人たちで、もっとイカしていた。新入りは、まずは彼らに顔を憶えてもらい、それからサーフィンのアドバイスを受けたり、海の中でのルールやマナーも教えられた。他にもいろいろ大人になるための…というかサーファーになるために彼らから授けられた通過儀礼は、私の人生観を変えコペルニクス的転回となった。そのおかげで、社会のルールに縛られなくてもいいんだという救われた気持ちになり、生きているのが少し楽しくなった。そしてリアルサーファーを目指そうと思うようになった。
私がそのリアルになれたかどうかは怪しいところだが、今回お薦めする二冊の本は、真のリアルサーファーたちが書いた人生の話だ。この二冊を読めば、「人生やったもん勝ち」というゴールデンルールを彼らが身を以て証明しているのがよく分かる。つべこべ言わずに明日もパドルアウトするぞ、という気持ちになること請け合いだ。
『NO BAD WAVES』ミッキー・ムニョスが語るストーリー集
「唯一の制約は、枠にとらわれた自分の思考だけだと気づいたのだ。」-NO BAD WAVESより
NO BAD WAVES とは「悪い波なんて無い」という意味。つまり、どんな波だって楽しめるかどうかそれが人生の極意さと解釈できる。そのタイトルとおりに、サーフレジェンド、ミッキー・ムニョスがスロットル全開で楽しんできた人生の体験談を61話にまとめたのが本書だ。
読後の印象としては、彼が語る思い出の、スケールの大きさに驚かされる。まだヴァージンウェーブだった時代のワイメアベイをサーフしたり、桟橋の解体を請け負って、不発した水中のダイナマイトを仕掛け直す話、アメリカズカップに出場するヨットのレース艇を作ってスキッパーのデニス・コナーを練習で負かしてしまう等々。
しかし、どの話題も鼻をつくような自慢話には感じない、説教臭さが微塵もないところにムニョス氏のお人柄を感じ、好印象だけが心に残った。一気に読破するのもいいけれど、時間を空けて思い出したときに手に取り、気になる章だけを読んでみる。そんな読み方も素敵な本かなと思う。
『NO BAD WAVES』詳細:https://www.patagonia.jp/product/no-bad-waves/BK563.html
ジェリー・ロペス著『SURF IS WHERE YOU FIND IT』日本語版
「わたしは分別のある大人になることをできるかぎり先延ばしした。」-SURF IS WHERE YOU FIND ITより
『SURF IS WHERE YOU FIND IT』この原題の意味を直訳すると「サーフはあなたがそれを見つける場所」または「あなたが捜せばサーフはどこにでもある」とも受け取れる。しかしジェリー・ロペス本人が自叙伝につけたタイトル、と考えるとどうもピンとこない。
そこで、私流に考えてみると『波を思う心にサーフがある』と言いいたいのではないかと思う。深読みしすぎかもしれないが、いつも波のことばかり考えているサーファーならば理解できる精神状態だよなと思う。とにかく謎かけのようなタイトルなのだ。
さて、ジェリー・ロペス氏は70年代に禅的なアプローチでパイプラインをサーフして独自のスタイルを確立。21世紀の現在も高い評価を受けている稀有な存在だ。
彼はまたサーフィンだけでなく、サーフビジネスにおいても大成功した起業家でもある。さらにハリウッドの映画に出演し俳優としてもメジャーデビュー。バリやスマトラのパーフェクトウェーブを開拓しマウイではウィンドサーフィンの先駆けとなったと思っていたら、いつのまにかオレゴン州に引っ越して、スノーボードでパウダースノーを満喫し夏は川でリバーサーフィンに興じている。こんな人ちょっといない。彼がどんな人生を送ってきたのかが、この本に全て書かれてある。やっぱり人生やったもん勝ちだ。
『SURF IS WHERE YOU FIND IT』詳細:https://www.patagonia.jp/product/surf-is-where-you-find-it-revised/BK416.html
(李リョウ)