シリーズ「サーフィン新世紀」27
世界中で盛り上がるウェーブプール。お隣の韓国でも大きなプールが完成して注目を浴びている。ちょっと先を越された感がある日本だが、静岡県の静波にプールが完成間近なのはみんなも知るところで、追いつき追い越せという状態だ。
プールでバレルをメイクなんて、つくづく21世紀なんだなとオヤジ世代のサーファーはつい思ってしまう。昔あったウェーブプールの波といえばジャンクな腰波があたりまえの世界だったからね。そこで今回は過去から現在まで続くウェーブプールの歴史を振り返ってみたいと思う。
ということでEOS(サーフィン百科事典)でさっそくwave poolと検索してみるとwavepoolsという項目がヒットした。それによるとウェーブプールは100年近くも昔にすでに作られていたことが分かった。
最初のウェーブプールは1920年代から30年代に登場しているようだ。(諸説あり)ドイツやポーランドにもあったようだが、なかでもよく知られたウェーブプールはイギリスのロンドン、ウェンブリーにあったザエンパイアプールと呼ばれた施設で1934年にオープンした。60m×18mのプールで4台の電動式の増波装置で稼働していたようだ。
だがこのプールは、サーフライディングは目的ではなかった。じゃあ何のためにという疑問が湧くが、調べてみても答えのヒントすら見つからなかった。おそらく波のプレッシャーを体感してスリルを味わうという趣向だったのではないかと推測できる。いずれにせよサーフィンが普及する前の話。
サーフィン用ウェーブプールの元祖は日本
最初にサーフライディングを目的としたプールが誕生したのはなんと日本。それは1966年に東京近郊に作られたサマーランド・ウェーブプールで、サーフ・ア・トリウムという名のニックネームがつけられており、そのプールでサーフィンをするときは1時間ごとに15分間だけ専用の時間が設けられて、スイマーは指示によってプールから出されたようだ。
波のサイズはせいぜい腰サイズほど。それから21世紀になるまでに世界中の約500カ所でウェーブプールは建設された。そのどの施設も波そのものは小さい波が経営者から求められた。その理由は一般利用者の危険回避である。しかし、ビジネスの戦略的には似ても似つかぬ名前がプールにつけられた。たとえばサンダーベイ(稲妻湾)、ポセイドンズレイジ(海神の怒り)、タイフーンラグーン(嵐の岩礁)などである。
アメリカで最初に作られたのは1969年にアリゾナ州のテンペに作られたビッグサーフという名のプール。染髪剤で知られる大企業クレイロールが2百万ドル(約2億円)出資した。
プールの大きさは120m×90m。20エーカーのポリネシア調の複合施設が砂漠のど真ん中に併設された。造波は数百万ガロンの大量の水を12メートルほどの高さから落として波を発生させる構造で波のサイズは腰腹ていど、世界チャンピオンのフレッド・ヘミングスや全米チャンピオンのコーキー・キャロルその他がサーフしに訪れ、当時はサーフ系の記事や映像にもよく登場した。
さて、話を日本に戻すが、ウェーブプールは日本では独自の発展を続けてきた。
日本の経済がバブル景気に入ると共にウェーブプール(サーフラグーンと呼ばれていたようだ)が建設されていった。1988年にスポーツワールド伊豆長岡、1990年東武スーパープール、1992年ワイルドブルーヨコハマ、1993年フェニックス・シーガイアリゾート「オーシャンドーム」、2016年神戸レイーズ、2019年シティウェイブ東京。
しかしランニングコストの問題や景気の低迷の影響もあり2000年以前に建設されたプールは、ほぼ全て閉業している。(東武スーパープールは続いているがサーフィンは禁止)
さてウェーブプールを使用したサーフコンテストというとサーフランチが記憶に新しいが、過去にもいろいろ開催されている。1985年にペンシルバニア州にあったドーニーパーク・ワイルドウォーターキングダムという施設でワールドプロフェッショナル・インランドサーフィンチャンピオンシップが開催されトム・キャロルが優勝した。1997年にはフロリダ州のディズニーワールドでタイフーンラグーン・ウェーブプールコンテストが開催されケリー・スレーターが優勝。翌年はロブ・マチャドが優勝した。宮崎のシーガイアでも試合が開催されたが詳細は不明。
革命を起こしたウェーブプールテクノロジー
21世紀になると、テクノロジーがプールを新たな次元へと押し上げた。ウェイブガーデンというスペインの企業が「トラックアンドフォイルメソッド」という方式のプールをバスク地方の人里離れた場所に建設し、サーフィンに適した波を造波することに成功する。
2015年にそのウェーブガーデンの方式を採用したスノードニアというプールが、北ウェールズに完成する。規模は300m×110mで90秒ごとに波を発生することができた。プロサーファーも訪れてサーフィンをしたが、サイズとパワーよりも波のシェープの良さに注目が集まった。しかし残念ながらこのプールは故障が相次ぎ操業停止となった。
そして2015年の冬にケリー・スレーター・ウェーブカンパニーが独自のトラックアンドフォイルメソッドによるウェーブプールを映像で公開し、サーフィンが新たな時代に突入したことを世界に知らしめた。それはウェーブガーデンによる波よりも大きく長くホローでさらにパワフルなまさに夢の波であった。
これにより今までウェーブプールの課題であった波のクオリティーという問題が解決された。つまりサーファーを満足させる波が人工で作り出せることが可能になったというわけだ。
そして静波にまもなく完成と言われるウェーブプールは、アメリカンウェイブマシン社のテクノロジーを採用した日本で初のウェーブプールとなる。これはトラックアンドフォイルメソッドとはまた異なり、従来の施設でも採用されていたニューマチック方式という技術を応用したもので、水の表面の一部に圧力室を設け、空気圧を変動させて波を起こすというもの。チューブ、マニューバー、エアリアル向けなどさまざまなタイプの波を再現できるとのこと。
おそらくこの施設は、かつての日本にあったウェーブプールとはまったく異なる次元の施設だと考えていいだろう。つまり一般の人のためではなく、サーファーがサーフィンを楽しむ、もしくは習うプールだということ。サーファーを満足させるクオリティのウェーブプールがついに実現したのである。プールでサーフィンを楽しむ時代の到来だ。ビジネスとして採算が合えば、ウェーブプールは大きく発展する可能性を秘めている。
https://eos.surf/
https://surfinglife.jp/lifestyle/5050/
https://perfectswellsurf.com/
(李リョウ)