新型コロナウイルスが未だ世界中で猛威をふるう中、ハワイで2021年CTシーズンが開幕した。
例年だとハワイは最終戦、クライマックスの舞台になるが、ニューシーズンはスケジュールが一新、12月に始まり、2021年2月までにハワイ、カリフォルニアで合計3戦行われ、それを’オープニングレッグ’と称して残りのイベントは新型コロナウイルスの動向を考慮しながら柔軟に対応する。
パイプラインを舞台としたメンズの『ビラボン パイプ マスターズ』はWSLのCEO等が新型コロナウイルス検査で陽性反応、ホノルアベイを舞台としたウィメンズの『マウイプロ』はシャークアタックで共に中断と水を差されたものの、両イベント共に再開して現地時間12月20日のウェイティングピリオド最終日にクライマックスを迎えた。
記念すべき50周年に初のマスターズの栄冠を手に入れたジョン・ジョン・フローレンス、パイプラインで初開催となったウィメンズCT。
興奮のニューシーズンを5人の選手に注目しながら振り返る。
五十嵐カノア
2016年のルーキーイヤーにファイナルに残った五十嵐カノアにとって、パイプマスターズは相性の良いイベントである。
2017年には3位、2018年以降は目立った結果を残していなかったが、コロナ禍を別荘があるポルトガルで過ごし、波がある環境で集中してトレーニングを積み重ねた成果が現れ、R1から順調に勝ち進み、QFでは2018年のパイプマスター、ガブリエル・メディナと接戦の末に5位でフィニッシュ。
まずまずのシーズンスタートを切った。
「良い波を選ばないと勝てない今日のパイプは難しいコンディションだったけど、それも楽しかったよ。ノースにはこれから大きなウネリが入り、オフショアの日も多くなるでしょう。次のサンセットビーチのコンテストが待ち遠しいよ」
五十嵐カノア
カリッサ・ムーア
ホノルアベイでのシャークアタックにより、会場の移動を余儀なくされた『マウイプロ』
パイプラインでの開催はウィメンズ初となり、近年ウィメンズのレベルが飛躍的に上がったとはいえ、参加した選手にはいつもと違う緊張感があった。
そんな中、過去にマスターズのスペシャルヒートとして参加して優勝経験もあるカリッサ・ムーアは、2015年にエイドリアーノ・デ・ソウザ、2019年にイタロ・フェレイラをワールドチャンピオンに導いたJOBことジェイミー・オブライエンにコーチを依頼してこの手強いブレイクを攻略。
誰よりも的確な波のセレクトとバレルのスキルでタティアナ・ウェストン・ウェブとのSFではウィメンズで唯一の9ポイントをスコア。
ファイナルでは波運が悪く、勝利を逃したが、このブレイクでのバレルでは頭一つ抜けていた印象だった。
なお、メイクはできなくともタティアナ、サリーのようにのリスクを恐れないチャージを繰り返したウィメンズもいた。
彼女達のサーフィンに世界中のWSLファンが興奮したことだろう。
ケリー・スレーター
R1ではバリ島滞在中にマイク・ウーにオーダーしたツインフィッシュを使用して話題になっていたケリー・スレーター。
2月で49歳になるケリーは現役最後のシーズンとも言われており、一つ一つのヒートが注目を集めていた。
特にルーキーのロボことジャック・ロビンソンとのR4、SFのジョン・ジョン・フローレンスとのカードは世代を超えた戦いとして見逃せない名勝負となった。
【ケリー vs ロボ】
現在48歳のケリーと22歳のロボのヒートは序盤に全てが決まった。
開始直後にパイプラインでバレルとターンをメイクしたケリーに対して、ロボはバックドアを抜けるが、ケリー6.50に対してロボ4.17。
プライオリティを持ったケリーはバックドアでバレルを抜けて7.17を加える。
ビッグスコアが必要になったロボも難しいバックドアをメイクして7.50を返すが、バックアップスコアの差でケリーが勝利。
ハイスコアを奪われてもトータルで勝つ。
まるでチェスのようなケリーのゲーム戦略には脱帽だ。
「彼がビッグスコアを出すと予想していたから、序盤で決めたかったんだ。最初にレフトに行くつもりは全くなく、ライトを見ていたんだ。先週、マウンテンバイクで怪我をして3日前にはパイプラインで踵を打撲してしまい、ちょっと歩くのが大変なのさ。でも、サーフィンは大丈夫かな。アドレナリンで波に乗ってもあまり気にならなかったからね」
ケリー・スレーター
【ケリー vs ジョン・ジョン】
ケリーとジョン・ジョンの対戦成績は6勝2敗でケリーが上。
それもパイプラインでジョン・ジョンをノックアウトした回数はどの選手よりも多い3回で、2013年にはファイナルでケリーが勝った。
更にケリーはマスターズで7度の最多優勝記録を持っている。
つまり、統計的にケリーの方が勝つ確率が高かったが、今回は見事に裏切られた形となった。
序盤にケリーがファーストウェーブを掴み、ジョン・ジョンが2本目のパイプラインにテイクオフ。
ケリーが8.33にジョン・ジョンが9.23。
更にジョン・ジョンは2本目、バックドアで8.93とあっと言う間に18.16という完璧に近い数字を固めてしまった。
最後まで逆転に繋がる波を掴めなかったケリーは最後のバックドアをインターフェア覚悟でくぐり抜けた。
皮肉にもそのライディングがヒートのベストライドだったが、インターフェアで全て帳消しになってしまった…。
タイラー・ライト
イベント初日のホノルアベイではステファニー・ギルモアとの事実上のファイナルとも言えるQFでバレル、パワフルなターンの連続でイベント初のパーフェクト10を出していたタイラー。
また、ニューシーズンは背番号を13から23に変え、肩の国旗をオーストラリアから「LGBTQ+」コミュニティの象徴である11色の「プログレス・プライドフラッグ」に変更。
バイセクシャルの女性として、またオーストラリア人として、両方を代表して競技用ジャージを着ることを選んだ彼女はパイプラインでも強かった。
賞金の10万ドルとトップだけが着れるイエロージャージがかかったカリッサとのファイナルではバックドアでパワフルなターンをして勝敗を左右するポイントを稼いだ。
ウィメンズがパイプラインで戦うにはまだ挑戦的ではあるが、スタートラインに立たなければゴールは出来ない。
ウィンメンズサーフィンの歴史に新たな一ページが加わった一日だった。
「ここにいることを信じられないほど幸運だと感じているわ。道を切り開いてくれた女性たちがいなければ、ここにはいなかったと思う。そして、今日、先人が積み重ねた頂上に登り、信じられないほどの特権を感じているわ」
タイラー・ライト
ジョン・ジョン・フローレンス
ジョン・ジョンが遂に念願のパイプマスターズの栄冠を手に入れた。
様々なことが起こり、いくつもの名勝負があった2021年開幕戦だったが、これが最大で最高のニュースだろう。
それも50周年記念のシーズンに獲得したのは何かの運命を感じる。
マスターズ直前のインタビューでも答えていた通り、マスターズは最大の目標だった。
コロナ禍でハワイに定着してリラックスした時間を過ごし、1年の休みで数年悩んでいた膝が完治したことも今回の勝因とも言える。
更にファイナルの相手は最大のライバルであるガブリエル・メディナとこれ以上ない勝利だった。
「本当に難しいヒートだったから勝てて嬉しいよ。ガブリエルに勝てて興奮している。彼と競い合うことが自分が戦う理由でもあると感じているんだ。この場所で勝てたことにも凄い興奮しているよ。他に言葉がないね」
ジョン・ジョン・フローレンス
2度のワールドタイトル、3度のトリプルクラウン。
ワイメアでのエディに東京オリンピックの出場権。
そして、今回のマスターズの栄冠と全てのピースが埋まったジョン・ジョン。
「最高に嬉しい。特にここ数年、ケガや色々なことがあったからね。今年最初のイベントがここで開催され、ホームブレイクでの勝利。これ以上のことは考えられないさ。2020年の締めくくりとして、また新しい年の始まりとして、最高だね。自分にとってパイプマスターズはツアー最大のイベントさ。自分のヒーロー達がこのイベントでサーフィンをして世界タイトルを獲得するのを見て成長してきたんだ。パイプでサーフィンをする人は皆、その波と小さな関係を持っている。そして、大会で優勝することは大きな偉業なのさ。自分にとっては最大の目標の一つだったよ」
ジョン・ジョン・フローレンス
2021年シーズンはガブリエルとのライバル関係、ケリーとの世代を超えた勝負などが注目を集めるだろう。
ちなみに新型コロナウイルスの感染拡大防止のために簡素化された表彰式で渡される場面はなかったが、今年のマスターズの副賞もジェリー・ロペスのサーフボードが贈呈された。
次のCT第2戦は1月19日〜28日にオアフ島・サンセットビーチで開催される『Sunset Open』だ。
メンズ『ビラボン パイプ マスターズ』結果
1位 ジョン・ジョン・フローレンス(HAW)
2位 ガブリエル・メディナ(BRA)
3位 ケリー・スレーター(USA)、ガブリエル・メディナ(BRA)、イタロ・フェレイラ(BRA)
5位 レオナルド・フィオラヴァンティ(ITA)、ジョーディ・スミス(ZAF)、ジェレミー・フローレス(FRA)、五十嵐カノア(JPN)
ウィメンズ『マウイプロ』結果
1位 タイラー・ライト(AUS)
2位 カリッサ・ムーア(HAW)
3位 サリー・フィッツギボンズ(AUS)、タティアナ・ウェストン・ウェブ(BRA)
5位 ステファニー・ギルモア(AUS)、レイキー・ピーターソン(USA)、マリア・マニュアル(HAW)、セージ・エリクソン(USA)
WSL公式サイト:http://www.worldsurfleague.com/
(空海)