WSL

「BILLY」最終章 地獄から這い上がり、再びジョーズの波へ!

「WSLスタジオ」制作の最新シリーズ、ビリー・ケンパーのドキュメンタリー映像「BILLY」

これはビリーが世界中がパンデミックで身動きできなくなる直前にルーク・デイビス、コア・スミスと共ににモロッコへビッグウェーブハンターに向かい、歴史に残るような素晴らしい波をスコアしたものの、不意のワイプアウトで大怪我を負ってしまい、生死を彷徨いながらも復活した物語。

「BILLY」は6つのチャプターで構成され、日本語字幕も用意されている。

チャプター3までの前半はビッグウェーバーとしてのビリーのバックグラウンドとモロッコへの旅が始まる。
素晴らしいコンディションを満喫して一日を終える直前にワイプアウト、病院に搬送されるものの、容態が悪化してしまう。
同行したコアは危険を感じてWSLに助けを求めるが、新型コロナウイルスによるパンデミックで国を跨ぐ移動に規制がかかってしまった…。

「BILLY」 Chapter 4

Image: World Surf League(YouTube)

2020年2月25日 ロングビーチ

新型コロナウィルスの感染拡大によってロサンゼルス空港への着陸が許可されず、ヴァン・ナイズ空港に着陸したビリー。
病院に搬送され、痛みの原因だった股関節の手術が行われた。

彼の以前からの主治医であるマシ・レイノルズはすぐにビリーの病院に駆けつけ、MRI検査を確認して復活への次のステップを示した。

ビリーの怪我は前十字靭帯の高悪性度の全層断裂。
内側副靱帯も完全に断裂して半月板も断裂。

回復に時間がかかるという認識はマシもビリーも同じだった。

ビリーは今回の大怪我により、ある記憶が蘇った。
それは兄、エリックの転落劇だ。

兄エリックはアンディ・アイアンズなどと並ぶほどの将来有望なサーファーだったが、モトクロスで大怪我をしてから適切な治療を受けられず、ドラッグにはまり、過剰摂取で命を落としたのだ…。

「兄を失い競技者として精神的なスイッチが切り替わった。戦う方法と決して諦めないことを学んだ」

兄の意志を継ぐようにコンテストで結果を残すようになったビリーは2015年のジョーズでのBWTでダークホースとして優勝。
そこからビリーのビッグウェーバーとしての人生が始まった。

「夢が実現した。嬉しくてたまらない。非現実的だ。兄に捧げたい。彼なしではここまで来れなかった」

(2015年のジョーズで優勝したビリー)
PHOTO:© WSL / Cestari

2020年3月。

ビリー、手術の日。
再びサーフィンが出来るのか?
こんな思いまでして再びサーフィンをする気持ちになれるのか?

さまざまな葛藤を抱えながら病院へ向かう…。

「BILLY」 Chapter 5

2020年3月25日。
カリフォルニア州オレンジ郡。

サンノゼの病院で手術を受けた後、ビリーは復帰に向けて10代の頃からの関係で最も信頼しているドクターGの元でリハビリを開始する。

ビリーの場合、大腿四頭筋と骨盤を怪我しているため、より厳しい理学療法が必要。
その厳しさに耐えるために一度ハワイの家族の元に戻り、英気を養った。

「僕は面倒を見られるのが好きじゃない。大切な人には与えるものだと母からいつも教わってきた。それができないのが本当に辛かった」

ビリーの母、リサは優しく強い女性で、子供の頃のココ・ホー、マット・メオラ、アルビー・レイヤーなどにも母のような存在だった。
それは大人にも同じで、ダ・フイのエディ・ロスマンでさえ、頼りにしていた存在だった。

2017年1月、母リサは自身がステージ4の喉頭ガンだと告白する。
いつ亡くなってもおかしくない状況でビリーは母のケアの間にコンテストに出場してワールドタイトルを獲得する。

そのトロフィーを自宅に持ち帰って間も無く、母リサは家族や友人に囲まれて他界した。

(このタイトルは母に捧げると舞台で話したビリー)
Image: World Surf League(YouTube)

2020年4月。

ハワイで家族との時間を過ごし、リハビリのためにカリフォルニアに戻ったビリー。

最初の目標は松葉杖なしで歩くこと。

ドクターGとの理学療法に加え、レイアード・ハミルトンのマリブの自宅にあるプールでのリハビリと氷風呂、ジムでのトレーニング。
小さな改善を積み重ねてビリーの身体は確実に回復に向かった。

「痛みやあらゆる逆境を乗り越え、このために人生をかけて闘ってきたんだ。だからこんな辛い暗い日々に負ける気はさらさらなかった」

「BILLY」 Chapter 6

2020年9月15日。
ロサンゼルス。

手術から約半年後。
ジムとプールでストイックにリハビリを続けたビリーは「スポーツアカデミー」で科学的に身体の回復を確認。
3日後にはケリー・スレーターのウェーブプール「サーフランチ」でサーフィンを再開した。

家族や友人に見守られながら復帰後初のライディングをメイクしたビリーは少しづつ感覚を取り戻し、最後は息子を抱きかかえてチューブライドという超人技まで披露した。

(復帰後初のセッションで超人技を披露したビリー)
Image: World Surf League(YouTube)

2020年11月2日。
オアフ島 ノースショア。

「サーフランチ」でサーフィン可能なことを確認したビリーはハワイに戻る。

次の目標はジョーズの波に乗ること。

オアフ島のカヘア・ハートの元でビッグウェーブに対応出来る身体に戻すためにトレーニングを開始する。

2020年11月20日。
すでにアーリーシーズンに入ったノースショアに特大のウネリが入る予報が出た。
このウネリでジョーズにトライするのか、それとももう少し身体を調整するのか、葛藤する。

「このストームを見た時、私は自分自身に問いかけた。今までの自分よりも正直になっていたと思うよ。準備はできているか?やる価値はあるのか?身体は大丈夫だろうか?精神的にはどうだろう?家族は?医者は?」

葛藤の末に挑戦することを決めたビリーはビッグウェーブ用のボードを用意してマウイ島に飛ぶ。

(ジョーズに挑戦する前の儀式)
Image: World Surf League(YouTube)

2020年12月2日。
マウイ島。

遂にその時が訪れる。

夜明け前に車を出し、家族に電話をする。
海に着くとジョーズには予想通りのウネリが入っていた。
万全の体制でアウトに出たビリーは誰よりも大きな波に乗り、無事にこのセッションを終えた。

今回の作品「BILLY」 はビリー・ケンパーという強靭な肉体と精神力を持つ特別なサーファーの復活のドキュメンタリーだが、あらゆる人に訪れる可能性がある人生の挫折を乗り越えるためのヒントになると思う。
特に不自由なこの時期だからこそ見たい勇気が出る作品だ。

(空海)

※当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等を禁じます。