長引くコロナ禍でサーフィン人気が高まっていることもあり、海では混雑するポイントが多く見受けられるが、その要因はサーファーの数が増えたこと以外にもありそうだ。
気象庁発表のデータによれば、日本沿岸の海面水位が2020年に過去最高を記録した。「最近潮が多い」との声が多くのサーファーから聞こえてくるが、このデータはまさにそれを裏付ける内容といえる。海面水位が上昇した結果、一般的なビーチブレイクでは割れづらい状態となり、地形が良い場所にサーファーが集中したことが混雑の一因とも考えられる。
では、そもそもなぜ最近潮が多いのか?について、その原因やメカニズムを最新のデータから読み解いてみたい。
気象庁発表「日本沿岸の海面水位が過去最高」
今年2月に気象庁が発表したデータによれば、2020年の日本沿岸の平均海面水位は平年に比べて87mm高く、計測史上最高を記録した。
気象庁は、全国16地点で観測された潮位データをもとに、毎年の平均海面水位を算出。2020年の日本沿岸の平均海面水位は、過去30年間の平均と比べて87mm高く、統計を開始した1906年(明治39年)以降最も高くなった。
更に、海域別にみると、関東から東海地方の沿岸で特に高くなっており、日本沿岸の平均海面水位を高める主要因となっているという。
温かい黒潮が大蛇行して関東~東海に接近
その背景には、海水水位が地球温暖化の影響で1980年以降上昇傾向にあることに加え、2020年は黒潮が蛇行して関東から東海地方の沿岸に接近して流れたことも大きな要因だという。
黒潮は 2017年8月から大蛇行しており(下図 1)、2020 年は関東から東海地方の沿岸に黒潮が接近して流れることが多かった模様だ(下図 2)。
一般的に、周囲より暖かい海水は体積が大きく、周囲の海面を盛り上げる。100mの厚さの水が1℃上昇すると海水の熱膨張により水位が約2cm高くなると言われている。2020年は、暖かい海水の流れである黒潮が関東から東海の沿岸に接近したことで、その領域の海面水位が押し上げられたと考えられる。
実際、今年の冬は例年よりも海水温が高いという体感もあり、1~2月も例年よりは軽装備のサーファーも多かった。以下の「月平均表層水温の偏差(平年値との差)」の分布を見ても、湘南~千葉で1℃程度、静岡~伊勢エリアだと2℃近く平年値より水温が高かったようだ。
低気圧通過時に海面水位は上昇する
その他に、一般的に海面水位が上昇する原因として、台風や低気圧通過時にみられる「吸い上げ効果」や「吹き寄せ効果」と呼ばれる現象がある。
気象庁のホームページによれば、「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」は以下の通り。
吸い上げ効果
台風や低気圧の中心では気圧が周辺より低いため、気圧の高い周辺の空気は海水を押し下げ、中心付近の空気が海水を吸い上げるように作用する結果、海面が上昇します。 気圧が1ヘクトパスカル(hPa)下がると、潮位は約1センチメートル上昇すると言われています。 例えば、それまで1000ヘクトパスカルだったところへ中心気圧950ヘクトパスカルの台風が来れば、台風の中心付近では海面は約50センチメートル高くなり、そのまわりでも気圧に応じて海面は高くなります。
吹き寄せ効果
台風や低気圧に伴う強い風が沖から海岸に向かって吹くと、海水は海岸に吹き寄せられ、海岸付近の海面が上昇します。 この効果による潮位の上昇は風速の2乗に比例し、風速が2倍になれば海面上昇は4倍になります。 また遠浅の海や、風が吹いてくる方向に開いた湾の場合、地形が海面上昇を増大させるように働き、特に潮位が高くなります。
例えば、下図の2019年の台風19号(ハギビス)が静岡の伊豆半島に上陸した9月12日の夜、中心気圧は955hPaとなり、周辺(御前崎)の潮位が急上昇していることが分かる。
以上、海面水位が上昇する原因やメカニズムをいくつか並べたが、最近多くのサーファーが「潮が多い」と感じていた原因は、継続的な地球温暖化の影響に加え、昨年は黒潮の大蛇行も大きく関係していたことがわかる。
(今年に入ってからも、太平洋沿岸は黒潮や黒潮から分かれた暖水の影響で10cm以上潮位が高くなっている月もある。)
なかでも、全国の平均海面水位を押し上げることになった関東~東海の海域では水位上昇が顕著にみられ、そのエリアのベテランサーファー達が「地形の決まるポイントが少ない」、「一部のポイントにサーファーが集中している」と感じていたのも頷ける。最近のポイントパニックを引き起こしている一因には、このような気象上の理由もあると言えそうだ。
(THE SURF NEWS編集部)
<参考>
2020年の日本沿岸の平均海面水位が過去最高を記録|気象庁
潮汐・海面水位の知識 > 高潮|気象庁
日本沿岸の月平均潮位の変動|気象庁