中米エルサルバドルで開催されていた五輪最終選考会『2021 ISAワールドサーフィンゲームス』を終え、帰国した日本代表・波乗りジャパンの選手団が、帰国後の隔離先からオンラインで記者会見に参加した。
会見には日本サーフィン連盟(NSA)理事長の酒井厚志氏、副理事長の井本公文氏、宗像富次郎氏のほか、同大会で東京五輪に内定した大原洋人、前田マヒナが出席。また、18日から開幕するサーフランチでのCTに向け、アメリカに滞在中の都筑有夢路も急遽加わり、大会を振り返った。
「戦ってくれてありがとう。同じ試合で同じヒートで全力を尽くして戦えてよかった。舜の分まで頑張りたい。」大原洋人
五輪代表の座は1カ国男女各2名までとの条件があり、五十嵐カノアが先に1枠を内定しているなか、最後の最後までもつれ込んだ日本代表男子残り1枠の争い。大会7日目までに、五輪に出場する40名のうち39名は決定しており、ラスト1枠の日本人同士の戦いに世界が注目をしていた。
勝てば決勝進出となるリパチャージR12で、大原洋人は2019年の同大会で暫定出場権を得ていた村上舜と直接対決。4名ヒートで2人での決勝進出を目指していたが、大原洋人が1位通過した一方、村上舜は4位敗退。この時点で大原洋人の五輪内定が決まり、村上舜の暫定出場権を奪う格好となった。
会見で大原洋人はこのヒートを「リパチャージR12の前、ふたりで決勝行こうと話していたので、結果が決まり複雑な気持ちでした。五輪の切符を手にしたというよりは、3人で決勝に行ってチームでゴールドメダルを取れないのが悔しかった」と振り返った。
「戦ってくれてありがとう。(お互い別のヒートで)勝ったり負けたりして決まるのが嫌だったので、同じ試合で同じヒートで全力を尽くして戦えてよかった」と、ヒート終了後にビーチで村上舜とハグを交わした際の心境を語った。
五輪に向けては「舜からは“頑張ってくれ”と言われました。自分はこの試合でようやく内定をもらえましたが、舜は2年近く内定という状態で大変な思いをしていたので、舜の分まで頑張りたいです」と決意を語った。
この日、村上舜は自身のInstagramで以下のように振り返っている。
ISAたくさんの応援ありがとうございました!応援してくれた皆さんの期待に応えられなくて申し訳ありません
試合後の気持ちを少し書きます。
今回のISAは、負ける事に恐れすぎていました。 負けても大して失うものもないのに勝手な自分の想像や妄想で背負うものを重くしすぎて自分の余裕を押し潰してしまったのかなと思いました。
負けたときは、俺が目指すのはやっぱりここではなかったと考えましたし今までの時間はなんだったんだとも思いました。ですが今は、決して無駄な時間ではなかったと思えるし今回の負けから得られた事がたくさんあります。きっとこの悔しさを糧に人間性もサーフィンも成長できると信じています
すでにctクオリファイするためにフルフォーカスしております。
ここからは、本当に叶えたい夢のために頑張ります👊🏿
改めてたくさんの応援ありがとうございました🤝
「五輪にクオリファイできてやっと自分の夢が叶えらえた」前田マヒナ
大原洋人と同じく2020年11月のジャパンオープンで優勝し、今大会で個人8位(有資格者では6位)となり五輪に内定した前田マヒナ。
「エルサルバドルではファイナル出られなかったのが悔しいけど、自分のサーフィンを見せられて嬉しかった。五輪にクオリファイできたのが嬉しい。自分の夢をやっと叶えられてすっきりしたけど、まだまだ仕事が残っているので、オリンピックでのゴールドメダルに向けて頑張って練習します」と現在の気持ちを語った。
また、大会終盤まで日本人女子で唯一メインラウンドで戦っていた前田マヒナは「メインブレイクのラ・ボカナはハワイのホームブレイクに似ていて自信もあった。エルサルバドルに行く前にハワイでがっつり練習して、周りもサポートしてくれてたので、メンタル面でも自分はナンバーワンサーファーになるという強い気持ちで挑めた」と自身の好調さを分析した。
「全部ぎりぎりだからずっと苦しかったけど切符を手に入れられた。頑張ってきてよかった」都筑有夢路
過去20年で初めての日本人女性としてCTにスポット参戦しながらも、五輪の暫定枠のないまま今大会に挑んだ都筑有夢路。
五輪に内定するにはCT選手らを除く上位7名に入らなければいけないという条件下で、R2でリパチャージ行きとなり、合計9ヒート戦って個人9位(有資格選手では7位)となり五輪日本代表に内定した。
メインラウンド2でリパチャージ行きとなった時の心境を「なんでこんなところで自分が負けなきゃいけないんだっていう悔しい気持ちもあったし、五輪もかかってたからこんなところでは負けてられないという気持ちもあった。早く負けてしまったことで、リパチャージを勝ち上がることへの気持ちが強くなって、逆に良かった。CTで良いスコアを貰えていたので、自分ならいいサーフィンしてるから大丈夫だと思えて、リパチャージでも自信になった」と語った。
「(CTやISAなど)全部ぎりぎりだから気持ちの面で苦しいことがずっとあって。でもなんとかしがみついて、こうやって切符を手に入れられた。ぎりぎりで混乱したところもあるけど嬉しい気持ちが勝つ。頑張ってきてよかった」と近況を振り返った。
この日、五輪内定を逃すことが決まってから沈黙していた松田詩野も自身のInstagramを更新。次なる目標への想いと周囲やファンへの感謝を表した。
あの日ここまでやってきた事は全て自分の身と経験になっていて全てに感謝したいと思えました。
そう思えたのも今まで1人だけでやってきたわけじゃないから。
サーフィンを通して一生懸命になれる今の人生と夢がある限り原動力は止まらないし
これからも目標に向かって更に前に進み続けるのみ!壁や不安が押し寄せても今回の悔しさをバネに乗り越えていきます💪🏻
良い時も悪い時もどんな時も応援してくれている人がいるのが前に進めるパワーの源です❤️✨ありがとうございました!
副理事兼強化委員長も務める井本公文氏は「五輪が決定してから、この4枠をどのように決めるのか、育成していくかを考えていました。ジャパンオープンの時も思いましたが、オリンピックの選考は本当に難しい。それでも日本のサーフィン界にとって通らなければいけない道だったと思います」とその複雑な心境を語った。
日本代表選手団に帯同した宗像富次郎氏は、現地の状況について「PCR検査は、現地到着時、大会期間中、帰国前の3回ほど実施し、日本チームは陽性者がでませんでした。海岸でのマスク着用やアルコール消毒など、現地の担当がかなり見回っていました。現地は想定していたよりもかなりの高温で暑さとの闘いだった。水分補給やアイシングなどの対策を行いましたが、1日に3戦ある選手は最後のヒートはかなり疲れが出てしまっていたので、そのあたりも五輪に向けて対策をしていかなくてはいけない」と現地の状況を報告。
また、多数のCT選手が途中棄権したことについては「CT選手が棄権する可能性があるということは元から予想していました。現地ではヒート表を見て初めて把握し、ISAからはヒートがスキップする可能性があるとは案内があり、準備を早めるなどの対応をしていました。これに関してISAや他国はコメントを一切出していませんでしたが、(現地に残ったチームは)人数が減ってラッキーだったねというような反応でした」とコメント。
他国のCT選手が棄権するなか、最終日まで勝ち残り銀メダルを獲得した五十嵐カノアを「日本としては国として少しでも多く勝ち上がっていこうと五十嵐カノア選手が“俺は最後まで戦います”と力強く言ってくれました。そのおかげでチームジャパンが最後までまとまって戦うことができました」と陰の功労者として称えた。
様々なドラマを生んだ『2021 ISAワールドサーフィンゲームス』。五輪日本代表の4名は、今回惜しくもその座を逃してしまった村上舜と松田詩野、そしてこれまでの選考で制してきた多くの選手達の想いを背負い、あと2カ月弱後に控えた東京五輪に挑む。
(THE SURF NEWS編集部)
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