2021年6月19日は国際サーフィンの日(International Surfing Day、略:ISD)。2005年に当時の『Surfing Magazine』と米国『Surfrider Foundation』によって提唱されたISDはサーフィンのすばらしさを祝いながら、環境への配慮を意識づける日として広まり、いまでは世界の30か国以上で毎年200以上のイベントが開催されている。
今年のISDのテーマは「The Beach Belongs to Everyone(ビーチはすべての人のもの)」。人種、社会経済的背景、能力、性的指向関係なく、すべての人々がビーチにアクセスしやすく、楽しめるように迎え入れることを支持している。
新しい路線のテーマ
サーフライダーファンデーションでは発足以来、環境保護活動を中心として活動してきて、「将来にわたりサーフィンを楽しむためには自然環境を守ること不可欠」という認識が多くのサーファーの間に定着してきた。
ISDもこれまでは環境保護のテーマが多かったが、今年は例年と少し異なる路線で「ビーチはすべての人のもの」というテーマが設定された。
コロナ禍では世界のあらゆるところで様々な社会問題が顕在化した。今年のテーマは、サーファーとしてそれらの問題を認識し、誰もがサーフィンを楽しめるような場所やサーフシーンを作っていく必要性があると訴えているように思う。東京五輪・パラリンピックのテーマでもある「多様性と調和」も偶然ではないかもしれない。
政治や社会問題を敬遠しがちだったサーフィン界も、このコロナ禍を機にいよいよ変わり始めたのかもしれない。今年のテーマに関係する最近の出来事を振り返ってみよう。
2020年を揺るがせたBLM運動
アメリカではかつて黒人による海岸の利用が制限されていた時代もあり、サーフィンをするために往復40キロをパドルしてサーフィンを続けた黒人ニック・ガバルドンの話が有名だ。
昨年米ミネアポリスで白人警察官に首を膝で押さえて殺害された黒人ジョージ・フロイド氏の事件をきっかけに、人種差別に抗議するデモ「Black Lives Matter」が全世界に広まった。
サーファーも差別に反対し、平等を願うために世界各国でパドルアウトを行った。白人男性が圧倒的に多いサーフシーンでは女性やマイノリティにとって肩身が狭い想いをする状況は今もなおある。
▲スポーツ・パーソナリティのセレマ・マサケラもBLMの集会に参加し、SNSで平等への理解を呼び掛けた
女性サーフィンの進歩
サーフィンの世界では女性を「目の保養」としてしか扱わないようなことが長年続いていた。今年公開されたドキュメンタリー『Girls Can’t Surf』は、1980年代から1990年代初頭にかけ、今以上に男性が支配するサーフィン業界で、女性に対する対等な扱いを求めて戦い続けたウィメンズサーファーたちの歴史を描き出した。性差別や同一賃金をめぐる長年の戦いに焦点を当て、世界中の女性アスリートが直面する課題を浮き彫りにしている。
昨年末には、ハワイのノースショアで、サーフィン大会に女性の出場枠を設けるように勧める決議や法案が可決された。
WSLもここ数年男女平等に向けた取り組みを強化し、2019年から男女の賞金を同額にした。
また、この冬初の試みとなる女性のためのビッグ・ウェイブ映像コンテスト「Red Bull Magnitude」が開催されハワイのケアラ・ケネリーが優勝した。
LGBTQ+の進歩
そんなケアラ・ケネリーだが、数年前に自分の性的指向をカミングアウトしたことをきっかけにスポンサーが降りてしまった。
「サーフィン文化は全体的に同性愛者に嫌悪を抱き、他人種に対して差別的で、特に性差別がひどかった」
そう話すのは、昨年、バイセクシュアルだとカミングアウトしたCT選手、タイラー・ライトだ。それまでCTにはオープンな同性愛者がいなかったが、2021年シーズンからタイラーのジャージには、自国オーストラリアの国旗に加え、LGBTQ+のシンボルであるレインボープライドの旗があしらわれている。
タイラーは世界にカミングアウトする前に、WSLコミッショナーのマイリー・ダイヤに相談。マイリーは「タイラーは他の女性だけでなく、男性にとってもリーダーのような存在。他にもカミングアウトを検討している人がいれば、私たちはそれを応援することを伝えたい」と全面的に支持を示した。
「若いころ、アスリートがなぜわざわざカミングアウトをするのか、理解できなかった。しかし今となってわかったのは、自分のためではなく、それを見ている若い世代のためだと気が付いた」
2度のサーフィン・ワールドチャンピオン タイラー・ライト
パラサーフィンとユニバーサルビーチ
世界中で障がいを持った人がサーフィンに出会い、人生が変わったと証言している。2015年よりISA(国際サーフィン連盟)が世界パラサーフィン大会を開催し、米サンディエゴで開催された2020年の大会には22か国より131人のアスリートが参加した。
ISA会長のフェルナンド・アギーレは「ISAは障がいがある人も海の癒し効果を経験できるように全面的に支援する。サーフィンは多くのアスリートの人生を変えたきっかけになり、その喜びをさらに広めたい。(中略)いずれはパラリンピック種目として実現できることを望んでいる」とコメントしている。
カリフォルニアでは、障がい者がビーチにアクセスしやすいような車椅子の開発に取り組んでいる。
日本でも、ISAのパラサーフィン大会への参加など、アダプティブサーフィンが徐々に広まってきている。
今年6月に千葉県いすみ市にある太東海水浴場で行われた「サーフタウンフェスタ」で『ユニバーサルスロープ』がお披露目された。
設置の背景についてJASO(日本障害者サーフィン協会)の和田路子理事は「2018年から太東で全日本障がい者サーフィン選手権をやっていますが、ビーチの段差が不便だったためイベントの度に公民館などで使用しているスロープを借りて設置していました。イベントの時だけではなく一年中設置してほしいと要望し、いすみ市も太東ビーチを“ユニバーサルビーチ”として推進したいとのことで今回の設置に至りました」と説明。
いすみ市としては「日本一パラサーフィンに優しい町にしたい」という想いがあり、更には障がい者だけでなく「誰にでも優しいビーチにしたい」とも考えているという。
娯楽として、健康のため、仕事として、また大変な現実から一時的にでも逃れるためなど、サーフィンする理由は人それぞれ。それと同様に海を楽しむ人も人種、性的指向、障がいの有無もいろいろいる。各々の違いを認識して、海を愛する仲間として「みんなのためのビーチ」を作るには何が出来るか?このISDをきっかけに考えていきたい。
「#InternationalSurfingDay」のハッシュタグをつけてSNSに投稿することで、その活動に参加することができる。
ケン・ロウズ