今年7月、ユネスコは「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を日本で5つ目の世界自然遺産に登録した。4島には世界的にも貴重な希少種・固有種が多く存在し、その生物多様性が評価された。
その4島の一つ、国内サーフトリップ先としても人気の高い奄美大島だが、島の東南部にある「嘉徳浜」での護岸工事計画をめぐって数年前から反対活動が続いている。嘉徳浜は、古来の自然美を今に伝える存在として「ジュラシックビーチ」とも呼ばれ、島内で唯一護岸のされていない公共ビーチだ。
この度、Surfrider Foundation Japanは、この嘉徳浜の原生的な砂浜と景観の保護を訴える声明文を、ユネスコの諮問機関IUCNに送ったことを公式サイトで発表。
「住民を高波被害から守るための対策は必要」だと理解を示しつつ、「現在の護岸計画は生態系に甚大な影響を与える可能性があり、嘉徳の豊かな自然を守りながら高波対策ができる代替手段を提言してほしい」と求めた。
嘉徳浜での護岸工事をめぐる動き
2014年
台風などで砂浜が浸食され、地元住民が鹿児島県に安全対策を要望。県は5.3億円をかけて高さ6.3m×全長530mの護岸工事を計画した。
2017年
一部住民の反対を受け、総事業費を3.4億円、全長180mに縮小した。
2019年
反対する住民達が「砂浜は回復傾向にある」と県を提訴
2021年
ウミガメの産卵などもあり海岸部は未着工だが、2023年の完成目標となっている。
世界自然遺産の「緩衝地帯」に設定されたジュラシックビーチ
世界自然遺産登録の評価機関であるIUCNは、嘉徳川を「奄美大島で人工物がない唯一の河川」と評価している。
ユネスコの世界自然遺産に登録された際、嘉徳浜と嘉徳川は世界遺産地域の周囲に設けられる「緩衝地帯」に組み込まれたが、遺産そのものにはならない。
また、嘉徳一帯は様々な開発行為が規制される奄美群島国立公園内にある。ただ、国立公園内は保護レベルごとに区分けがされており、「特別保護区域」と「第1種特別地域」は世界遺産の区域となっている一方で、嘉徳は規制の最も緩い「普通地域」に属している。つまり、世界自然遺産の緩衝地帯に設定されていても比較的容易に開発ができてしまうというのが実態だ。
SAVE KATOKU「自然環境を守りながら災害リスクを減らす代替手段を」
このような現状を背景に、Surfrider Foundation Japanは、世界サーフィン保護区などを制定している国際NPO「Save The Waves」と連携。
「奄美の森と川と海岸を守る会」が現地で行う奄美大島・嘉徳浜の保全活動に賛同するとともに、ユネスコの世界自然遺産登録の評価機関であるIUCNに対し以下の声明文を届けたことを発表した。
■声明文要旨
Surfrider Foundation Japanは「奄美の森と川と海岸を守る会」より、唯一護岸がされていない最後の自然のビーチ嘉徳浜の砂丘と河口を進行中の護岸工事から守るための活動への参加要請を受けました。
気候変動による打撃もあるなか、現在や将来の住民の安心安全な生活のために、高潮や将来起こり得る津波への対策が必要不可欠であることは理解しています。しかし、現在の護岸計画は、奄美大島が世界自然遺産に登録される際に高く評価された嘉徳の手つかずの貴重な生態系を、永久的に破壊する可能性があります。それは世界自然遺産の目的と矛盾するものです。
したがって、私達は、護岸建設計画の再考し、嘉徳やその周辺の自然環境を守りながら災害リスクを減らすための代替手段が実行されるよう、IUCNが(当該組織に対し)提言することを求めます。IUCNとUNESCOが、この問題を世界自然保護基金をはじめとする世界中の環境NGOと共有し、各組織の意見や専門性によって対話がなされることを強く求めます。
私達はこれまでに行われた嘉徳の自然を守るための活動から学び、世界的な自然破壊について世界に呼びかけていかなければなりません。
SFJ中川代表は今回の声明文公表にあたり「住民を高波被害から守るための護岸に対して、あくまでもツーリストの立場であるサーファーが外部から反対運動を行うことは地域住民と対立することになるのではとのジレンマがありました。しかし世界自然遺産に登録を機に、景観や生態系を保護することで、自然の原風景を生かしたエコツーリズムが発展すれば、地域振興にもつながると考え、今回声明文を届けました」とコメントしている。
(THE SURF NEWS編集部)
参考:
SAVE KATOKU – 日本の残り少ない手つかずの自然の砂浜を守りたい|Surfrider Foundation Japan
奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 世界自然遺産候補地|環境省
環境省、奄美大島・嘉徳海岸を緩衝地帯に編入|南日本新聞