オーストラリア発のサーフアクセサリーメーカー「Creatures of Leisure(クリエイチャーズ)」が南アフリカの慈善団体Surfers not Street Children(SNSC)と連携して、サーフアクセサリーを提供することを発表した。サーフィンが南アフリカのスラム街にもたらす希望とは。
世界一の貧富の差が広がる南アフリカ
世界銀行の2018年の発表では南アフリカは世界一富が不平等な社会だった。全人口のうち1割の裕福な層が財産の7割を所有している一方、人口の半分が1日5ドル以下で生活をしているそうだ。失業率が3割を超えているなかで、家を持てず、路上で生活を強いられる人が少なくない。
それに加え、コロナ禍で観光業や接客業が打撃を受け、清掃業や靴磨き、個人売店など貧困層が多く働く業種は壊滅的だ。
WSLが長年大会を開催しているバリトーのすぐ南にある、南ア第3の都市ダーバンのまわりにもスラム街が広がり、そこで暮らす若者にとっては酒、麻薬、暴力の悪連鎖に吸い込まれないのに必死だ。
Surfers not Street Childrenの活動
そんな南アフリカで、お金がなく、希望も持てない若者を支援しようと、1998年に「Surfers not Street Children」が設立された。サーフィンを通して健康、信頼、尊敬を学んで、仲間を増やし、肯定的な体験を重ねる。海に入ることで少しの間でもスラム生活の困難を忘れ、新しい世界を楽しめると多くの若者が関わるようになった。
SNSCの活動が広がり、カリフォルニアのグダスカス兄弟がサーフボードを大量に寄付、ワールドチャンピオンのミック・ファニングやステファニー・ギルモアも支援するようになった。
今年7月にはジェイコブ・ズマ前大統領の収監をめぐって起きた抗議活動が暴動化し、ダーバン周辺でも1週間にわたり商店の略奪や放火が4万件以上報告され、死者が300人以上に上った。その際、SNSCは路上生活者などに安全な避難場所を提供し、暴動が治まった後でも食料品が手に入らない状況が続いていたためケープタウンなどから物資を集めて必要としている人たちに配った。
SNSCは、サーフィンはあくまでもきっかけで、仲間やロールモデルに出会い、楽しい経験をすることで人生に希望を持てるようになると話す。スラムで生活していると、貧困と暴力の連鎖から抜き出せる方法を見出すのは難しい。周りの人が海で遊んだり、高級車に乗っていても、それは自分が暮らすのとはまるで別の世界に思ってしまうのだ。
これまでサーフィンも「お金持ちの娯楽」だったが、SNSCではサーフボードを借りられるだけでなく、コーチもいて、いろいろな悩みも聞いてくれる。子どもたちは将来に希望を持てるようになって初めて夢に向かって努力をするようになるのだ。SNSCを通してプロサーファーはもちろん、バリスタやライフセーバー、サーフショップの店員など、様々な分野で活躍する人を育ててきた。
クリエイチャーズもハードウェア提供へ
クリエイチャーズのチームライダー、ミック・ファニングは以前SNSCに寄付をしたことがあり、ステファニー・ギルモアも南アに立ち寄った時にコーチとしてSNSCの活動に協力したことがある。今回の提携はその関係をさらに広げる形になるのだ。
チームライダーのステファニー・ギルモアは、このパートナーシップに関して「(SNSCが)多くの若者にサーフィンの喜びに出会うチャンスを提供している。私たちが当たり前だと思っていることでも、南アの子どもたちと一緒にいると、その経験が子供たちの人生に絶大な影響を与えていることを目の当たりにできる。クリエイチャーズがSNSCと提携することは誇りだ」と称賛した。
スタッフの努力と世界からの支援のおかげでSNSCはダーバンをはじめとし南ア全土、そして隣国モザンビークまで活動を広げることができた。また、女性を対象としたプログラム「Girls Surf Too」も新しく始めている。
寄付や活動の報告の詳細はSurfers not Street Children公式サイトで。
ケン・ロウズ