海水温が3年連続観測史上の記録を塗り替え、世界の平均気温も2016年以降が「史上で最も暑い7年間」となっている。海面上昇や海の酸性化、台風や竜巻の大型化、豪雨に干ばつ…地球温暖化による被害は増していくばかり。
温暖化のペースを食い止め、さらに世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えるため、各国に効果的な対策が求められているが、温暖化を止める特効薬はあるのか?最先端技術に期待しがちだが、思わぬところで画期的なツールがあったりもする。
メタンガスを減らす「カギケノリ」の登場
海藻をよく食す日本人でもあまり聞き馴染みがないカギケノリ(学名Asparagopsis taxiformis)は日本を含む世界の多くの熱帯や亜熱帯の海域に生息する紅藻の一種。一般的には食用とされていないが、ハワイでは昔からポキの付け合わせで食べられていたそうだ。
陸上の植物と違って、海藻は生体全体で光合成するため、大気からのCO2を効率よく取り込むことができる。カギケノリがすごいのはそこだけではない。少量の乾燥カギケノリを穀物飼料に混ぜて牛などの家畜に与えたところ、げっぷやおならで出るメタンガスが劇的に減ったと言う。
牛のげっぷと温暖化の関係
世界の温室効果ガスの実に15%が畜産業からくると言われている。牛1頭がげっぷやおならとして放出するメタンガスの量は、1日160〜320リットルとも言われていて、メタンはCO2の28倍もの温室効果があるため、畜産業全体では膨大の量の温室効果ガスになってしまう。
豪州科学・工業研究機構(CSIRO)の研究では、0.2%の割合で乾燥カギケノリを配合した穀物飼料を牛に与え、90日間メタンの排出を測ったところ、メタンが98%も減ったことがわかった。他でも同じような研究が行われていて、豪ジェームスクック大学の2014年の研究でも20種類の海藻のなかで一番効き目があったのはカギケノリでメタン生産が99%近く減少したと言う。
また、通常飼料の2割がメタンを生成するために消費されるが、カギケノリを配合することで、メタン生成のために消費されていた栄養を体内に取り込めるようになるため、飼料の消費を抑えながら牛の成長を早めることができる。つまり、より少ない飼料でより多くの食料を作り、おまけに環境への負荷を減らす、まさにいいこと尽くしだ。同研究でカギケノリを与えた牛の体重が他の個体に比べて26%増加し、肉の質には変化はかったと言う。
量産目指して、サーファーが起業
少量でも絶大な効果があるカギケノリだが、天然で生息している量だけでは地球温暖化のスピードに追い付かないため、オーストラリア・タスマニア島のSea Forest(シー・フォレスト)社は世界最大規模で養殖を進めている。
設立者の一人、サム・エルソム自身はサーファーで、以前はアパレル業界でもサステナブル・ファッションを目指したブランドを立ち上げたこともある起業家だ。
同社は海中と陸上の施設でカギケノリの養殖に挑戦していて、事業拡大のための投資を呼び掛けたところ、あのミック・ファニングも投資を決めたそうだ。
食肉産業を取り巻く環境問題は、牛のげっぷ以外にも山ほどある。放牧地拡大のための森林伐採や、肥料使用から輸送まであらゆる局面で環境汚染が起こっている。また、カギケノリは穀物飼料に混ぜやすいが、放牧されている牛に効率よく食べさせるにはまた別の工夫が必要だろう。特効薬とまでいかなくても、温室効果ガスの排出を減らす一つの手段として期待大だ。
ケン・ロウズ
Reference
≫Sea Forest公式サイト:https://www.seaforest.com.au/
≫Mitigating the carbon footprint and improving productivity of ruminant livestock agriculture using a red seaweed|Journal of Cleaner Production
≫The past 7 years have been the hottest on record “by a clear margin,” scientists say|CBS News
≫Another Record: Ocean Warming Continues through 2021 despite La Niña Conditions|ADVANCES IN ATMOSPHERIC SCIENCES