ハワイから始まり、ポルトガル、オーストラリア。ミッドシーズンカットを経てインドネシア・G-LAND、初開催のエルサルバドル、ブラジル、南アフリカ、タヒチと世界を巡り、最後にトップ5がトラッセルズでタイトルを争うスケジュールの2022年のCT。
全イベントが男女併催となるサーフィンコンテストの歴史に残るシーズンが幕を開けた!
年初のハワイはパイプライン、サンセットビーチの2戦が組まれ、まずは開幕戦の『Billabong Pro Pipeline』がウェイティングピリオド初日の1月29日から始まり、メンズは2月5日、ウィメンズは翌日の6日に終了。
2021年のワールドチャンピオン、ガブリエル・メディナが心の健康問題を理由に辞退、ステファニー・ギルモアがコロナ対策で棄権などのニュースもあったが、会場のパイプラインは過去数年で最高のコンディションに恵まれ、やはりこのブレイクが特別なものであることをまざまざと見せつけたイベントだった。
『G.O.A.T』復活
11度のワールドタイトル、7度のパイプマスター、CT通算55勝など長いキャリアで数々の記録を更新しているケリー・スレーター(USA)。
a.k.a『G.O.A.T』
そももそも第一線で30年間以上も活躍しているプロアリスートが他のスポーツに存在するのだろうか?
しかし、そんなケリーでも2016年のタヒチ戦で20ポイントのパーフェクトを含み、4つの10ポイントを出してジョン・ジョンを倒して完全優勝を果たした以来、勝利の女神に見放されていた。
更に昨年はオリンピックのアメリカ代表の座をジョン・ジョン・フローレンスと争いながらも負けるなど、全盛期の神がかった強さは影を潜め、毎年引退説も飛び交っていた…。
今回の開幕戦ではその全てを払拭するような見事な勝ち方で優勝。『G.O.A.T』が戻ってきたのだ。
ファイナルまでの軌跡
ケリーの8度目のパイプでの優勝、CT通算56勝目の軌跡を追ってみると、R1では9ポイントを二つ重ねたロボことジャック・ロビンソン(AUS)に主役を譲りながらもバックドアで8ポイントを2本出してウォーミングアップは万全。
Round of 32はルーキーのジェイク・マーシャル(USA)を軽くあしらい、Round of 16からスイッチが入った。
最強のワイルドカードと呼ばれたバロン・マミヤ(HAW)に追い込まれながら、ラスト数秒で絵に描いたようなパイプラインのバレルを抜けてブザービーターを決めたのだ。
ファイナルデイは過去3戦3敗だった五十嵐カノア(JPN)とオープニングヒートを戦い、カノアが苦戦する中、見事にリベンジを果たす。
ミゲル・プーポ(BRA)とのSFは際どいインターフェアで自滅したミゲルを尻目に8ポイントを出してファイナルに進出した。
この優勝が最後なのか?
あのジョン・ジョン・フローレンス(HAW)を倒したセス・モニーツ(HAW)とのファイナルでも『G.O.A.T』ぶりは輝いていた。
全盛期のようなバックドアのスキルを立て続けに見せてすぐにコンビネーションに追い込んでしまったのだ。
ビーチで最も目立っていたモニーツファミリーの熱烈な応援団をバックに最後にセスも9.43を返すが、それを上回る9.77を重ねたケリーが18.77とR1のロボのハイエストヒートスコアさえ霞むような驚異的な数字で優勝。
その瞬間、セスとハグを交わし、6年ぶりのビーチ凱旋も片足をセスに任せてあらかじめ用意していたのか、シャンパンを片手に大観衆の中を練り歩いた。
「自分に言い聞かせていたんだ。どんなに緊張していても、その瞬間に向き合い、平常心でいようとね。セスがコンボを破り、観客が騒いだ時は例え彼に負けてもその全てを愛そうと思ったよ。自分はこの舞台で優勝することに人生をかけている。失恋も勝利もあらゆるくだらないことも全て含めてだよ。これまで嫌なことも沢山あったけど、勝利を味わうことができた人生で最高の優勝さ」
ケリー・スレーター
表彰式では落ち着いたスピーチをしていたケリーだったが、ファイナル直後にマイクを向けられた時は大分感情的になっていたようで、涙ぐんで話していたのが印象的だった。
それだけケリーにとってこの優勝は大きかったのだろう。
「これが最後になるかもしれない。サンセットの前に自分自身と向き合う必要があるよ」との言葉を素直に受け取ると…。
パイプラインでの優勝、2月11日に節目の50歳とこれ以上ない引退の花道ができてしまった今、次のサンセットビーチにケリーが現れるかどうかに世界中のメディアが注目していることだろう。
『Billabong Pro Pipeline』結果
1位 ケリー・スレーター(USA)
2位 セス・モニーツ(HAW)
3位 ミゲル・プーポ(BRA)、カイオ・イベリ(BRA)
5位 五十嵐カノア(JPN)、ルッカ・メシナス(PER)、ジョン・ジョン・フローレンス(HAW)、サミュエル・プーポ(BRA)
ウィメンズはワイルドカードのモアナが優勝
ウィメンズ史上初のパイプラインでのCT開催となった今年。
ファイナルに残ったのは、バックドアメインの前半戦から目立っていたワイルドカードのモアナ・ジョーンズ・ウォン(HAW)と5xワールドチャンピオンのカリッサ・ムーア(HAW)。5〜6ポイントがアベレージだった今イベントで、カリッサはRound of 16で9.50、QFでは8.33と最もスコアを出していた。
SFから再開したウィメンズのファイナルデイは公式6-8ftレンジ。前日の巨大なパイプと比べると落ち着いたものの、まだリスキーなコンディションでカリッサさえロースコア止まりだった。
そんなカリッサを尻目にタイラー・ライト(AUS)とのSFからコンスタントにバレルを抜けていたモアナが、ファイナルでも調子を維持してパイプラインのバレルでスコアを重ね続けて圧勝。
2010年のサンセットビーチでのタイラー・ライト(AUS)以来のワイルドカードの優勝でイベントは幕を閉じた。
「信じられないわ。我を忘れている。人生で最高の瞬間、とても困惑しているの。自分がこんなことを成し遂げられるとは思ってもみなかった。カリッサ・ムーアは私の大好きなサーファーであり、ヒーローよ。彼女と一緒にパイプラインでファイナルを迎えたいとずっと思っていたの」
モアナ・ジョーンズ・ウォン
モアナは2月11日〜23日にサンセットビーチで開催されるCT第2戦『Hurley Pro Sunset Beach』のワイルドカードも手に入れた。
メンズのワイルドカードも間も無く発表されるだろう。
『Billabong Pro Pipeline』ウィメンズ結果
1位 モアナ・ジョーンズ・ウォン(HAW)
2位 カリッサ・ムーア(HAW)
3位 タイラー・ライト(AUS)、レイキー・ピーターソン(USA)
5位 マリア・マニュエル(HAW)、イザベラ・ニコルス(AUS)、ブリッサ・ヘネシー(CRI)、ジョアン・ディファイ(FRA)
WSL公式サイト
http://www.worldsurfleague.com/
(空海)