波情報BCMの会員特典「BCM x F+ 2022年カレンダー」では2001年から2021年までのワールドチャンピオンを紹介。各月の採用写真について解説するF+つのだゆき編集長オリジナルコラム企画を、THE SURF NEWSでは特別に翌月公開します。今回は6月を飾ったカリッサ・ムーアについて。
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F+(エフプラス)
今、ハワイは若手女子の台頭で、世界の女子シーンで大きなパワーを持つ時代に突入している。そのハワイアン女子の活躍は、映画ブルークラッシュで女子サーフィンを押し上げたロシェール・バラードやメガン・アブボ、そしてその後メンズサーフィンをいち早く取り入れたメラニー・バーテルズあたりから、始まったといえるのだろう。当時ハワイといえばまだまだサーフィンはメンズという時代だし、ノースショアのパイプやワイメアでは女子が海に入っているというだけで話題になった。
ハワイという場所は、ひとたびその気になれば、練習に適した波はオールシーズンどこにでもあるし、ひとつの技を極めようと思えば似たようなシェイプの波を探すのもそう難しいことではなく、加えて常夏という環境なので、選手育成には理想的と言える。しかし、だからこそモチベーションのキープがずっと課題になってきた。家に帰ればいい波がブレイクしているのに、なんでこんな世界の果てのヒザ腰の風波で試合やらなくちゃならないんだ……という自己矛盾を抱えて、ツアーに嫌気がさして離れていく実力のあるハワイアンのいかに多かったことか。しかしそれでもハワイは何人ものワールドチャンピオンを輩出してきた。選手のクオリティの高さは証明済みだ。
ステファニー・ギルモアが2005年のゴールドコーストのワイルドカードで登場し、優勝して2年後、同じスナッパーの2007年のワイルドカードがカリッサ・ムーアだった。優勝こそしなかったものの、堂々のファイナル進出で2位。 当時の女王レイン・ビーチェリー、先輩筋のメガン・アブボをコンビネーションで次々破るという快進撃だった。14歳という年齢も驚きだったし、そのサーフィンスタイルは当時ステファニー・ギルモアがもたらした女子サーフシーンのカービング全盛時代に、もうひとつ新しいスナップやテールスライドを加えるものだった。
14歳といえば中学生の年齢で、身体もまだ子供子供していて、脚なんか鉛筆みたいに細くてまっすぐで、パワーというよりアクロバット的な、軽く素早く、くりくり回る、みたいな印象だった。今でこそテールスライドもスナップもみんな普通にやるけれど、当時の女子にはまだ見慣れなかったスタイルで、ジャッジにとってはそれがとても新鮮に映ったのだと思う。カリッサの見せた新しいサーフィンにベテラン選手が翻弄された。
ファイナルも優勝したチェルシー・ヘッジスがきっちりいい波に乗った、というだけで、内容的にはカリッサのサーフィンのほうが格段に目をひいた。
高校はオバマ大統領の母校でもある、ハワイのプナホウハイスクールという名門校に進学した。その在学中の2009年、またもワイルドカードで登場したCTのサンセットで優勝。この時の2位がサリー・フィッツギボンス、3位ステファニー・ギルモア、4位アラナ・ブランチャードだった。
そして2010年、CTでのルーキーイヤーを迎える。この年はASPが新しいツアーシステムに対して試行錯誤していた年で、年間何度かQSとCTの間で入れ替えをするとか、QSの試合で獲得したポイントは翌シーズンに持ち越せるとか、なんか、ちょっと今の試行錯誤に似ているといえば似ている感じの、何か新しいことができないか、的な試みの最中だったと思う。結局シーズン内での複数回の入れ替えのようなことは、スケジュール的に現実的ではなく、いつどこで次の試合へのチケットを買うか、という問題が立ちはだかったため、このアイデアはあっという間に立ち消えた。
ルーキーイヤーのカリッサもワイルドカード時代と同じく順風満帆だった。ルーキーにして年間2勝をあげ、タイトル争いに絡んだ。最終ランクは3位だったが、もちろんルーキーオブザイヤーを獲得、そして翌2011年、早くもワールドタイトルを獲得する。2010年から2015年までの6年間は、奇数年カリッサ、偶数年ステファニーと、ワールドタイトルが1年おきにカリッサとステファニーの間を行き来した。
デビュー以来2017年の5位が最も悪い成績で、それ以外はすべて3位以上。5度のワールドタイトル(なぜかすべて奇数年)に加えて、サーフィンとして初めてのオリンピックの金メダルもゲットした(こちらも2021で奇数年)。まさにサーフィン女王の名にふさわしい活躍ぶりで、それは8月に30歳になる今シーズンも継続中。2022年は優勝こそまだないものの、コンスタントに上位の成績を残しているし、ランキングも2位につけている(※執筆時、その後に第8戦目で優勝し現在は1位)。カリッサにはスランプという言葉は無縁な感じだ。
ワイルドカードの頃は華奢だった体型も、デビューと同時にどんどん変わっていて、太ったり絞ったりしながらパワフルなサーフィンに適した身体になっていった。それと同時に軽く見えたスナップにパワーが加わり、カービングにもメンズのそれのようなきわどさとパワーが加わっていった。思い返せばいつも、カリッサのサーフィンは新しくて、その時その時の流行しているメンズサーフィンを思い起させるようなものへ進化し続けているように思う。
それは彼女が目指してきたものが、14歳の頃からずっと、いつの時代もメンズのサーフィンだったし、これからもそうなんだろう。サーフテクニックの上での男女差を限りなく詰めようとしている、というか、初めから「女子のサーフィン」という枠が念頭にない選手のひとりだ。
カリッサの170㎝70キロという体格は、まぁ、今のメンズ日本人選手のちょっと小柄なほうと同じような感じで、それを考えると、みんなカリッサのようにうまく身体とレールが使えているのかどうか、はなはだ疑問だ。
カレンダーのサーフィン写真は2021年のマーガレットリバーのもの、顔写真は2016年ゴールドコーストでのもの。カリッサといえばこの笑顔。14歳の時から全く変わらない愛くるしさだ。