アンティーク家具に囲まれた、スペイン・バスクの海沿いの家

World Beach House – 世界のビーチサイドの⾃宅を紹介

ムンダカから車で30分ほど南下した、バラエティ豊富な波が立つバスクコーストに住むアーティストカップル。彼らの家と隣のアトリエを訪ねると、そこは厳選された“好き”と、飾らない日常から作られるナチュラルな空間だった。


ジュエリーデザイナーのイネスがパートナーと暮らす家とアトリエは、ビーチから歩いて5分のところにある。「最近は開発が進んじゃって」と、できたばかりの幹線道路を指差して言うものの、周囲に高い建物や集合住宅はない。空が広く緑が豊かに生い茂り、スペインのバスクカントリー風情が十分に感じられる。潮風がほんのり漂う、風通しのよい場所だ。

壁に立て掛けられたジョシュ・ホールのロングボード、その両サイドを固めるのがフェンダー・テレキャスター。この部分だけ白壁をはがし、レンガ風の下地を露出した
ハンドメイドのボードケースに収められているのはイネスのツインフィン。彼女が4歳のとき、スペインサーフィン界のパイオニアである父親に連れられてサーフィンを始めた

「赤い屋根に白い壁、典型的なバスク様式の外観が気に入ったのと同時に、中が改築しやすそうだと思って2年前に購入したの。最初の1年間はほぼ内装工事の期間。もちろん工事はすべて自分たちの手でやったわ。でなければ1年間もかからない(笑)。玄関ドア以外に、家の中で空間を遮断するものは何もない。つまり壁という壁、ドアを全部取り払ったのよ。空間をできる限りオープンにしたくて」

ベッドルームから。白壁に自然光が反射し、部屋全体を明るく照らす。雨戸はついているがカーテンのない窓。光の様子で時間の流れが自然にわかる
ダイニングの天井から見た風景。冬になるとパートナーがウェット姿のまま玄関のドアを開けて帰ってくるそう。「洗濯機の隣にある暖炉で暖を取るのが最高なの!」
古いテーブルの上には、カメラマンであるパートナーがCAで撮影したカタログと日本の書籍をディスプレイ。伸縮自在のランプはカタロニア地方のアンティーク物

家に対しての2人の大きなこだわりは、空間のみ。
「インテリアのテーマは特にないわ。好きな物と使う物を置いている。ただそれだけ」
置いてある家具も多くはなく、そのほとんどがアンティークだ。
「100年かもっと前の物が多いかな? 知り合いからもらったり、親戚からの物だったり。たまに骨董屋さんで発見したり。長く使えて頑丈な作り、かつ好きなデザインを探していると、自然とアンティーク品に辿り着くの。それも地元スペイン・バスクの物がほとんど」

レザーのソファとシングルフィンは’70年代のイギリス・ジャージー産! パートナーが近所の農場で見つけてきた
こちらはアトリエにあるパートナーの作業机。モノクロのサーフフォトは彼の作品
オーストラリアで撮影したサーファーのポートレートと白い大理石のテーブル。これまたアンティーク。自宅もアトリエも、置いてあるインテリア一つ一つに物語がある
トリップで訪れた世界各地のビーチで貝殻や植物を拾い、それを独自のセンスで金属加工し組み合わせている。後ろの鏡は、元々古い洋服ダンスの一部だったもの

塗ったばかりのペンキの白さがまだ残る壁と味のある家具。広いスペースに新しさと懐かしさがうまく共存している。そこに潤いを与えているのが、イネスがサーフィンの行き帰りや日々の散歩の途中に摘んだ草花たち。古いものに囲まれていても、時間が止まった印象がないのはそのおかげだろう。

作業台の上に飾られた時計は昔の船の客室で使われていたレア品。パートナーのお父さんが船乗りをしていて、その時代から受け継いだ“船からの贈り物”
アトリエの壁の一部を大きな黒板にし、To Doリストをメモ。手前に置かれた作業机は300年前にビルバオで使われていたもの。クルミの木でできているとても丈夫な机

家はまだ製作途中だという。
「ダイニングまわりはまだ仮の状態。いずれ2人用テーブルと椅子を外して、ベンチのような長椅子を壁に沿って作りたいの。友達が来たときにワインを飲みながらピンチョスをつまめる、くつろの場所を作りたい」
仲間と快適に過ごせる空間……2人の家作りは、こんなふうにシーンを想像するところから始まる。

Photo:Roke

(Michiko Nagashima)

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