Image: Real Surf Stories(YouTube)

13年を経て考えるボビー・マルティネスがWSLから去った理由

「こんなバカげたテニスツアーの真似事には参加したくない。くだらない大会にはもう出ない」

2011年、NYのロングビーチで開催された『Quiksilver Pro』の勝利者インタビューでのボビー・マルティネスのこの発言、そして引退は長いワールドツアーの歴史の中でも最も衝撃的なシーンだった。

ジャッジ問題に加え、CTとQSをワールドランキングとして総合してシーズン後半に入れ替えを行うというASP(元WSL)による大改革が行われていた時でもあった。
(17歳のガブルエル・メディナが入ったのもこのシーズン)

そもそもボビーはNYでのイベントを最後にツアー引退を表明していたので、この場で不満を一気に吐き出したのだろう。
この発言はライブ中継を通して世界中に配信され、今でも話題になるほど強烈だった。

そして、13年後の2024年。
米メディアのReal Surf Storiesがツアーで最も才能あるグーフィーフッターの一人と言われていたボビーが何故キャリアの絶頂期にツアーを辞める決断を下したのかを探った。

ボビーとASP(元WSL)の論争の向こう側には、情熱、信念、そしてプロサーフィンの厳しい現実が交差するマルチネスの物語があった。
彼の引退は単なる引退ではなく、一つの声明だった。
あの発言により、ジャッジング基準やスポーツの商業化に関する議論を呼び起こしたのだ。

彼を反逆者と見るか、革命家と見るかはともかく、この決断はプロサーフィンの頂点で競うことの意味を再定義するきっかけとなった。

サッカーとの比較

俺がツアーにいた頃、彼らはサーフィンをサッカーみたいにしようとしてたんだよ。
『サーフィンはサッカーと同じくらい人気がある』みたいなことを吹き込む人もいて、『ほら、デイヴィッド・ベッカムはイメージだけで年間2000万ドル稼いでるぞ』なんて話をしてた。
俺は『確かにサーフィンは世界中で行われているけど、サッカーと比べるのは無理がある』って思った。

サッカーは貧しい環境から生まれたスポーツで、どんな第三世界の国でも誰でもボールを拾ってプレイできる。
でもサーフィンは違うよね。
サーフボードを買うだけで1000ドルもかかるし、ビーチに行くためには車やガソリン代が必要だ。
そんな現実を無視して、スポーツを成長させようと無理なことをしているように感じるんだよ。

周りのサーファーたちはその話を信じ込んでたんだ。

特にオーストラリアから来たサーファーたちは、オーストラリアではサーフィンが国全体に受け入れられているから、みんな『俺たちは大物だ』って思ってた。
でも、俺はそんな国の出身じゃないし、そういう考えには馴染めなかった。

ジャッジへの不満

動画前半ではベルズ戦での対戦相手のタジ・バロウに対するスコアへの不満を取り上げている。

「あのジャッジには納得がいかない。俺が見た波が7点だなんてあり得ない。サーファーなら分かる、他のサーファーが本当に良いスコアが出る波だったかどうかって。俺はその波を全部見たけど、絶対に7点じゃなかった。俺はずっとサーフィンをやってきたから、そのくらい分かる。俺は彼が7点とか8点とか9点を取るに値しないって言ってるわけじゃないんだ。でも、あの特定の波が7点だとは思えなかったんだ。それで『違う、これは正しくない』って言ったんだよ。正しくないよ」

俺たちはみんな同じようにやっているのに、ジャッジは偏っている。これはどうにかしなければいけないと思うよ。バスケットボールでは、リングにシュートを決めれば2点、スリーポイントラインの外からなら3点。シンプルだろ?

陸上競技では、例えば100メートル走ならスタートしてゴールしたタイムが全てだ。それで終わり。
他のオリンピック競技でも結果は明確だろう。

つまり、黒か白かはっきりしてるんだよ。でも、サーフィンにはグレーゾーンが多すぎる。ジャッジングが曖昧すぎるんだ。
しかも、ジャッジ自身がサーフィンもまともにできない。彼らがサーフィンするのを見たことあるけど、そんな人たちが『君は0.01ポイント差で負けた』なんて言える立場か?って思うよ。

今でも間違っている点がある。
上手いサーファーがスコアを出すのを見るのは納得しやすいけど、普通の人が評価するのは違うんだよ。ツアーにいる連中はそこに辿り着くためにめちゃくちゃ努力してるんだ。俺はその努力がどれだけ大変か知ってる。

今の選手たちはスコアや順位に頼って生活してる。つまり、彼らは生計を立てているんだよ。
サーフィンをプロフェッショナルにしようとしてるのに、ジャッジたちは自分たちがプロだと思い込んでるだけで、実際は全然そうじゃない。
だから、そこを改善しないといけないんだ。

現状では、今のジャッジと同じことができる人は沢山いるし、もっと上手くやれる人だっている。それなのに、選手たちは現状以上に良くなることが難しい。
彼らが『最高の選手たち』だからこそ、もっと公平に評価されるべきなんだ。選手たちが本当にふさわしい評価を受けられるように、ちゃんと制度を整えるべきだよ。

問題のインタビュー

(インタビュアーのトッド・クラインも困惑していた問題のインタビュー)
Image: Real Surf Stories(YouTube)

まず言いたいのは、ASPが俺に罰金を与えるだろうけど、俺はこんなくだらない『テニスもどきツアー』には関わりたくない。
プロサーファーたちはみんなテニス選手になりたがっているようだね。

シーズンの途中で切られるような仕組みはどうなんだ?
俺たちのレベルの選手と一度も戦ったことがない奴が、なんでワールドランキングで俺たち100人以上の上にいるんだよ。
そいつらはここに来たこともないし、俺たちと戦う権利を得たこともないのに、なんで俺たちがそいつらと同じランキングで評価されなきゃならないんだ?おかしいだろ?
だから俺はもうこんなバカげたコンテストには出ないって決めたんだ。

この場所には俺のスポンサーがいるから出場したけど、正直こんなくだらないコンテストには出たくなかった。ニューヨークは大好きだし、この街にいるのは楽しいけど、ASPは完全にダメだ。
これは俺の最後のコンテストだよ。

ケリー・スレーターの反応

(影響力が強いケリーもこの問題に巻き込まれた) Image: Real Surf Stories(YouTube)

ボビーが抱える問題についてあまり深く関わりたくないけど、彼が何かに本当にフラストレーションを感じているのは分かるよ。
一部の人には、彼がなぜそこまで苛立っているのか明確じゃないかもしれないけど、彼自身はそう感じていて、それを表現したんだ。
それがASPと衝突する形になったのは残念だけど、彼の気持ちを伝えようとしていたのは理解できる。

彼は本当に素晴らしいサーファーで、特に彼のバックハンドの動きや大きなカーブは誰もが楽しみにしているよ。
もしかしたら何か変わって、彼がまたコンテストに戻ってくるかもしれないね。

ボビーがテニスプレイヤーになる!?

あの衝撃のインタビューから数ヶ月後、トッド・クラインが再びマイクを持ってボビーにインタビューをした。

トッド:NY以来、何をしているの?

ボビー:テニスをしてたよ。バックハンドやサーブを練習してスパイクを磨いてたんだ。

トッド:来年はプライムに出てクオリファイを目指すの?

ボビー:それはないね。

なんでまたツアーに出る必要があるんだ?
もし、クオリファイをしたとしても、誰かが自分のポイントを奪ってツアーに残れないかもしれない。
ツアーがしっかり運営されて、すべてが100%確定するまでは戻らない。
そうでなければ、俺をもう二度と見ることはないだろうね。


ボビーが不満を持ったワールドランキングは数年で廃止されたが、ジャッジの問題は今でも度々話題になる。
サーフィンが採点競技である限り、難しい問題でもある。

(空海)

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