折れていた鈴木さんの第二頸椎の歯突起(本人提供)

首骨折、脱腸、釣り針貫通…初心者も要注意!サーフィン中の大ケガに学ぶ教訓

少しずつ春の気配が感じられるようになり、サーフィンにとって絶好の季節が近づきつつある。今シーズン、初めて挑戦する人もいるだろう。そこで、ビギナーにもベテランサーファーにも、今一度、気にかけてほしいのが、サーフィン中のケガ。

プロやビッグウェーブに挑むサーファーばかりが、深刻なケガに見舞われるわけではない。波が小さくても、いつも入っているポイントでも、一歩間違えば命に関わる重傷を負うリスクがある。

日常生活では到底起こりえないような大きなケガをしたサーファーたちの経験談から、どうすればよかったか、教訓をシェアしよう。

※注意:この記事には一部、刺激の強い画像が含まれています。閲覧の際はご注意ください。


ダンパー小波で浅い水深

鈴木さんがケガをしたシダトラポイント Photo:Chiaki Sawada

2023年6月、千葉県八千代市の会社員、鈴木さん(37)は千葉北の通称「シダトラ」でサーフィンしていた。東京五輪の会場となった釣ケ先海岸「志田下」に隣接し、ブレイクはいつも少々速め。この日も腰~腹のスモールサイズながら、ダンパー気味の掘れた波だった上に、水深がとても浅かった。

当時、鈴木さんはサーフィン歴6年ほど。「けっこう突っ込む方でした」と振り返る。この日もテイクオフを試みた。

「漕ぎながら5、6メートルぐらい先のフェイスを見ていたら、掘れてないように見えたんですよね。その後、視線を板の先に移したら、後ろの波が急に巻き上がった。いつものパーリングとは違ったんです。波と一緒にゆっくり叩きつけられるような、今までにない特殊な感じでした。とっさに板を横に投げて受け身の姿勢を取ったら、後頭部が海底にぶつかった」

痛みはなかったが、背骨に違和感を感じた鈴木さん。「危険かな」と思い、海から上がり、砂浜を歩いている時、首を上げたら「ガクンと頭蓋骨が前にずれる感覚があった」という。ウェットスーツを自分で脱ぎ、知人にサーフボードを預け、最寄り駅まで車で送ってもらい、電車で八千代市まで2時間かけて帰宅した。

「痛みはなかった」と振り返る鈴木さん Photo:Chiaki Sawada

「その日は木曜日で休診が多く、開いてる病院を探すのが大変だった」。最初に診察を受けたのは、ケガから約4時間後の15時ごろ。小さなクリニックの医師は「レントゲンが不鮮明なんだけど、もしかしたら首の骨が折れてるかも」と告げ、総合病院への紹介状を書いた。

頸椎カラーと呼ばれる首を固定する医療用具を装着して帰宅。「医師が『いつでも救急車を呼べるように枕元にスマホを置いて寝てください』と言うから不安で。でも、まさか折れてるとは思わなかったんです」

「絶対安静」で頭蓋骨にネジ留め

翌日の金曜、第二頸椎の歯突起骨折と判明した。だが、診察した医師は「週明けに入院していい」と、緩い判断。ところが、月曜に再診した頸椎専門の医師はすぐに「絶対安静」を命じた。金曜の医師の判断は誤診とまでは言えないかもしれないが、鈴木さんの首は、医師曰く「5ミリずれていたら、全身不随か呼吸停止していた」状態で、本来ならトイレも行ってはならず、即入院すべき症状だったという。

鈴木さんのケガについて医師からの説明書(本人提供)

入院3日目には、局所麻酔で頭蓋骨に穴を開けてネジで留めるハローベストという器具をつける手術を実施。「毎日ネジを巻き直す時、頭蓋骨が締め付けられ、痛かったです」

その3週間後、全身麻酔で折れた骨をボルトでつなぐ手術を受け、2週間後に退院。仕事復帰までは、さらに2週間かかった。

「自宅でのリモートワークでしたが、首の疲れで座っているのも数時間が限界。とにかく湯舟で血行を良くしたり、コラーゲンやカルシウムのサプリを継続的に摂取したり、首の骨のために生きた。お陰で先生も驚くほど回復が早かった」。それでも、首の骨が癒合し十分な強度が確保され、頸椎カラーが取れてサーフィンできたのは、ケガから9カ月後だった。

「挑戦」と「無謀」をはき違えるな

「当時、波を見る能力が未熟だったことと、波キャッチのコツを掴み始め、嬉しさのあまり、どんな波でもなりふり構わずひたすら突っ込んでいた。ケガの後は『大ケガをして海から退場しない限り、いい波は無限に来る』と意識して、無理に乗ろうとしなくなった」と鈴木さん。

長い療養期間中、自分を見つめ、大事なことに気づいた。「サーフィンは『挑戦』のスポーツだけど、『無謀』を正当化しちゃいけない。自身の安全を十分に確保できる知識、経験、体力、技術がなければ、挑戦は無謀になる。退場のリスクを負ってまで、この波にいきたいか、常に考えるようにしています」


フィンが刺さり脱腸

Iさんが重傷を負った2日後、筆者も偶然、布良浜から車で5分の相浜にいた Photo:Chiaki Sawada

「47年間サーフィンしてるけど、こんなことは初めてだったよ」。そう語るのは、さいたま市の会社経営のIさん(65)。2023年8月、台風のうねりが入っていた千葉県館山市の布良(めら)浜でのこと。

「しょっちゅう入ってるポイントで、普段は波がないんだけど、この日は胸ぐらいのファンウェーブを1人で貸し切り。ミッドレングスでロングライドしたら、最後にバックウォッシュで飛ばされて、板が裏返った。やばいと思いながらスローモーションみたいにお腹から落ちて、フィンがぶすっと刺さった」

真夏だったが、ロングジョンを着ていた。痛みはないが、右下腹部のウェットがこぶし大に膨らんでいたという。駐車場まで300メートルほど歩くうち、足に力が入らなくなってきた。偶然会った顔見知りに助けてもらいながら、救急車を呼んだ。

駆け付けた救急隊は、Iさんのウェットスーツを切ってから、焦った様子を見せた。ドクターヘリを呼んでいる。仰向けのIさんには見えなかったが、救急隊のやり取りを聞くうち、腸が出ていることが分かった。ドクターヘリはお盆期間中で手配できず、救急車で1時間かけて鴨川市の総合病院に運ばれた。

「切った部位は2、3センチなのに、その穴からソーセージみたいにぷりぷりした小腸が両手で抱えるぐらい外に出ちゃってた。手術前に、先生からは感染症に覚悟し、人工肛門で数カ月治療になるかもって言われた。だけど、運よく腸も傷ついてなくて、感染症もなくて、キレイに腸を戻してくれたおかげで、9日間で退院できたんです」

「夏でもウェットスーツ」が奏功

傷が数センチずれていたら、膀胱の損傷や大動脈損傷で即死の可能性もあった。「夏でもケガが嫌だから裸ではやらない。ウェットスーツを着ていたのがよかった。着てなかったら出てきた小腸がばらけて海水に浸かり、どうなっていたか分からない。奇跡的に治った。変なこと言うようだけど、布良浜は毎年、犠牲者が出るような場所。お盆でお墓参り行った後だったから、引きずりこまれそうだったのを、ご先祖様が助けてくれたのかなって」

Iさんはケガから2カ月余りでサーフィン復帰。昨年は見事、支部予選を突破し、全日本選手権に出場するまで回復した。


ルアーを外そうとした瞬間…

ロングボーダーの自営業タケシさん(47)は毎週末、千葉県印西市から茨城方面へ向かうことが多い。2023年11月、友人と一緒に茨城県鹿嶋市の荒井海岸でサーフィンしていた。インサイドまで長く乗り、ゲッティングアウトしてる最中、何かがリーシュにからんだ。海藻か何かと思い、そのまま沖へ戻ると、ルアーが引っ掛かっていることに気づいた。

タケシさんの親指を貫通した釣り針(友人提供)

砂浜にいるヒラメを狙った釣り人のものだ。外そうとした瞬間だった。大物がかかったと勘違いした釣り人がリールを巻いたのだ。勢いよくはねた釣り針は、左手親指の腹から入り、爪を貫通して返しが引っ掛かり固定されてしまった。釣り人はリールを巻き続け、針はどんどん食い込む。岸に向かってずるずると引っ張られ、右手でパドルしながら「巻くのやめて」と叫んだ。

ようやく状況を悟った釣り人は恐縮。荒井海岸での釣りは初めてだったという。釣り糸を切り、救急車で病院へ。部分麻酔で指の腹側の傷口をメスで切って広げ、針を抜くことができた。友人がタケシさんの車を運転して病院に来てくれ、駐車場でようやくウェットスーツを脱いだ。

ルアーは触るべからず

ウェットスーツのまま治療を受けたタケシさん(友人提供)

タケシさんは翌日から、ゴム手袋をし痛み止めを飲みながら仕事をしたという。「18歳から30年間サーフィンやってるけど、こんなこと初めて。まさかサーファーがいるところにルアー投げると思わないから。釣り糸も見えないし怖いよ。友達が釣り人の連絡先を聞いてて、治療費と慰謝料2,000円もらった。友達がいてよかった。教訓と言えば、ルアーは自分で取ろうとしちゃダメ。魚と思われて引っ張られる。そのまま岸に戻るべきだった」


筆者もフィンで5針縫う

フィンが刺さり縫った傷 Photo:Chiaki Sawada

筆者も昨夏、ダンパーでワイプアウトした際、海中でサーフボードが裏返り、左足の小指と薬指の間にフィンが刺さり、5針縫った。要因は「ケガするわけない」という油断だったと思う。小指の付け根に麻酔の注射を打たれ、縫われる間、激しく後悔した。

サーフィン復帰は幸運

海へ入る前は慢心を捨てよう Photo:Chiaki Sawada

今回紹介したサーファーたちは、運よく、日常生活にもサーフィンにも復帰できた。しかし、不幸にも、サーフィン中のケガで、命を落とした人、重度の後遺症が残った人、サーフィンできなくなった人もたくさんいるはずだ。

話をしてくれた3人は、自分の経験が役に立つならという心意気で取材に応じてくれた。誰でも、ほんの少しの意識付けで、大きなケガを回避できる可能性がある。ぜひ今回の教訓を糧に、サーフィンを楽しみましょう。

(沢田千秋)

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