3月30日、静岡県牧之原市の静波サーフスタジアムで「第3回ジャパンオープンオブサーフィン」が行われ、都筑有夢路と村上舜が優勝。今年の「ISAワールドサーフィンゲームス(WSG)」日本代表の座も手にした。
2019年から始まった本大会は、第1回、第2回ともに五輪出場予選に位置付けられるWSGの出場権を懸けて争われた。今回も同じくWSG日本代表を選考する大会ではあるものの、現時点では直接的な五輪選考とされていないため、選手達もリラックスして挑んだようだった。
また、大会会場も、前回までは東京五輪開催地の千葉県一宮町の釣ヶ崎海岸(志田下)で行われたが、今回は静岡県牧之原市の人工サーフィン施設「静波サーフスタジアム」で実施。
近年の日本では初のウェイブプール試合となり、海の試合とは異なるフォーマットでの進行にも注目が集まった。
ジャパンオープンの試合フォーマット
今大会はR1、R2、セミファイナル、ファイナルの計4ラウンドで、選手は18名→8名→4名→2名に絞られる。各ラウンド毎に1選手が乗れる波本数が4~8本で設定されており、そのベスト2本の合計点が持ち点で、上位選手が次ラウンドへ進出する仕組み。
選手には事前に波の本数と方向(レフト/ライト)、波の種類(マニューバー/エアー)を示した「造波スケジュール」とライディング順が提示される。
海と異なり波の取り合いはないが、もし波をキャッチできなかった場合もやり直しは無し。
選手が一気に絞られるR2以降は、エキスパートレベルの波のうち、マニューバー向きの「パブリック」と「プロローワー」、エアー向きの「ハイボール」など、静波サーフスタジアムならではの名称で波を生成。面が荒れる連続波の順番で不公平がないよう、演技順も入れ替えながら進行していく。
タイムスケジュールがきっちり管理されているため、次の演技スタート時刻が常に告知され、選手紹介なども都度行っていく形が印象的だ。
また、競技人数が多い予選ラウンドは、試合進行中のポイントコールがなく、全てのライディングが終了後に全体順位とベスト2スコアのみを発表。
選手側からは、1本毎のポイントが把握できないと次の戦略が立てられないとの声があり、現場でも現在順位やニードスコアが分からず、見どころが掴みづらい展開だったが、LIVE放送も配信されたセミファイナル以降はライディング終了毎のポイントコールや暫定順位も発表され、緊張感のあるヒート進行となった。
この日は分刻みのスケジュールが組まれ、朝8時半から18時近くまで休みなく進行。スケジュールの立てやすさは人工施設の利点ながら、この間ぶっ続けの対応となる運営側の難しさもありそうだ。
全36名の選手が出場し、都筑有夢路と村上舜が優勝
今大会には、今月行われた強化合宿とアジアオープンで選ばれた国内トップの男女各18名を選出。
選手によってプールの経験回数に差があることが不公平感に繋がらないかとの懸念もあったが、当初の予想よりも海の試合で成績を残している選手が比較的順当に勝ち上がった印象だ。
ウェイブプールでの試合は、目の前の波で確実に決めなければならないプレッシャーとの戦いともいえるが、逆に波取りや駆け引きはなく、やるべきことは明確。自分のライディングだけに集中すればよいと、リラックスしている選手が多かった印象。
選手達は試合中であっても、一緒に順番待ちをしている選手と自分のライディング直前までにこやかに話しており、海の試合とは異なる様子も話題になっていた。
「海だったら試合の1時間前から波を見ます。でも海と違って今回の試合は、波も決まっているし、考えることがいつもより少なかったので、リラックスして楽しんで出来ました。」
都筑有夢路
しかし試合会場の終始和やかな雰囲気とは裏腹に、自分のライディングのみがジャッジされるシビアな場でもある。LIVE放送では、2選手が同じ波で行ったライディングをリプレイで比較するなど、よりライディング技術そのものに注目が集まるような試合となった。
女子のセミファイナルは、都筑有夢路、松田詩野、川合美乃里、脇田紗良の4名。脇田が1本目の波を見逃すプールならではハプニングも発生したが、その後は予定通りに進行。8点台を2本揃えた松田と、7点台+6点台を揃えた都筑が決勝に進出。
決勝では、マニューバーで2本のエクセレントスコアを叩き出した都筑有夢路が優勝を決めた。
男子セミファイナルに進出したのは、村上舜、大原洋人、新井洋人、西慶司郎の4名。全選手13点以上のヒートスコアを揃える中、8点台、9点台を出した村上と大原がファイナルに進出。
ファイナルは、ジャパンオープン初代王者の村上と、2代目王者の大原の戦い。大原が1本目のライディングから5マニューバーで8.83を出しヒートをリード。対する村上は5本目でフロントサイドのフルローテーションエア―をメイクし9.43で逆転、そのまま逃げ切る形で2度目の優勝を手にした。
今大会の結果により「2022年ISAワールドサーフィンゲームス」日本代表の一枠は都筑有夢路と村上舜に決定。
残るもう二枠は、2021年のWSLワールドランキング上位者1名と、NSA推薦枠1名。正式発表はWSGの試合会場が確定後となるが、仮に村上舜が怪我による欠場となった場合、その枠はNSA推薦枠に充てられる予定だ。
ウェイブプールでの試合は今後どうなるか
海とは異なるウェイブプールで開催された今大会。プールならではの見どころや面白さがあったと同時に、様々な課題も見え隠れする大会となった。
・波とジャッジング
注目が集まるエアー波については、男子選手は高さのあるエアー合戦になったものの、女子に関しては果敢にエアーに挑戦する選手とマニューバーでかわす選手に分かれたヒートも。今回のジャッジングは海での試合と同じ基準での採点となるが、エアーの回にマニューバーでスコアを伸ばす選手もおり、ライディングの組み立て方も作戦のひとつとなりそう。
また、選手人数が多いR1ではより多くの波を出せる中級用の波を使用したが、選手からは高得点を出すためにもっとハードな波でやりたいとの要望も。これは今後に改善していきたい点だという話しも挙がった。
・ポイントコールとライブスコア
波が同じで、アクションの回数も同等となりがちなプールの試合観戦は、選手・観客ともにライディングの細かな違いに注目することとなり、その評価基準やニードスコアの把握が重要となりそう。また、ライディング本数が増えると緊張感がなくなってしまうため、運営側は選手人数やタイムスケジュールとの兼ね合いも難しさのひとつとなりそうだ。
・怪我のリスク
脇田紗良はセミファイナルで板に額をぶつけ、村上舜は最終ライディングでかかとを骨折。村上は怪我をする前のライディングでも、インサイドまで攻めすぎて危ない場面があった。パフォーマンスレベルが上がれば怪我のリスクも高まるのは海も同じだが、プールならではの対策なども今後の課題となるのか。
・LIVE放送の魅力とプールならではの展開
LIVE放送では、同じ波で行なわれた2選手のライディングや、同じ選手の1本目と2本目をリプレイで見比べるなど、選手のライディング技術を詳しく見られる面白さもあった。また、全選手、乗る本数も波の種類も同じだからこそミスが許されない緊張感があり、毎回逆転が期待できるスリリングな展開が面白いという声も挙がっていた。
日本サーフィン連盟の副理事長であり、大会実行委員長の井本公文氏は、ウェーブプールでの試合開催の難しさについて以下のようにコメント。
「時間が細かく区切られていたので、運営管理しやすい部分もありましたが、(時間の隙間がある海と違って)常に気を抜けない難しさもありました。また、波に乗り過ぎて選手は疲れていないか、公平さに問題はないかなど、テクニカルディレクターと検証しながら作り上げたもので、時間もかかりました。」
「今後に改善していくべき点はありますが、“舞台は同じだから、精一杯戦わないとスコアは出せない” と話していた選手もいました。各選手が(波運などはなく)精一杯チャレンジできる、その環境作りはできたのではないかと感じています。」
将来のオリンピックをはじめ、海のない国・地域でのサーフィンコンテスト開催なども視野に入れると、今後も需要は高まりそうなウェーブプールによるコンテスト。
まだ手探り状態ながら、海との差別化や、双方の良さを活かす形での開催を期待し今後の進化に注目したい。
(THE SURF NEWS編集部)