ヒートを終え笑顔で上がって来た松田詩野(左)と都筑有夢路 Photo: THE SURF NEWS / Chiaki Sawada

世界選手権の代表選考合宿でトップ選手が競演!リラックスした素の表情も披露

今年9月、南米エルサルバドルで開かれる世界選手権「World Surfing Games」の選考を兼ねた波乗りジャパン強化合宿で、ショートボードの男女トップ選手が一堂に会し、ジャッジやコーチを前にその実力を披歴した。

試合形式でヒートを戦うが、順位付けはしないという特別の仕切り。選手は、海では真剣に波と向き合い、陸では通常の試合時とは違ったリラックスした表情を見せ、いつも以上にプライベートな一面も垣間見せた。

試合前、穏やかな表情の(左から)野中美波、松岡亜音、脇田紗良、中塩佳那

世界選手権は男女ともに3枠で、男子はCTに参戦する五十嵐カノアとコナー・オレアリーが内定。女子は2024年のCSランキング17位で日本人トップだった都筑有夢路と、QSアジア枠で1位の可能性がある都築虹帆が有力視されている。今回の合宿は、男女それぞれ、残り1枠を選考する場となった。

コーチ「どうしてこの相手か考えろ」

試合前、田中樹コーチから説明を受ける選手たち

「一番を狙うより、自分のサーフィンを出して。どうしてこの対戦相手と戦わされるのか考えて」。3月8日、千葉県鴨川市のマルキポイントで、ヒートに向かう選手に対し、波乗りジャパンの田中樹コーチはこう呼びかけ、ジャッジが何を求めているかを意識したサーフィンをするよう選手に渇を入れた。

強化合宿の出場選手は、男子9人、女子12人。全員が前日の7日、ラウンド1、ラウンド2の2ヒートずつ試合し、合計得点の上位6人が、この日のラウンド3、ラウンド4の2ヒートをこなした。各ヒートの組み合わせは、前日のスコアに関係なくコーチ陣が設定したものだ。

ジュニアの試合が行われていた早朝はセットで肩~頭サイズのファンウェーブだったが、シニア選手の出番になると、潮が引き、セットで胸サイズ、ワイド気味の波が目立つコンディションとなった。

【男子】
<ラウンド3>

ヒート1
稲葉玲生 11.83
西慶司郎   5.80
大原洋人   5.56

ヒート2
小林桂 12.84
安室丈   9.16
西優司   7.67

<ラウンド4>
ヒート1
大原洋人 10.16
西優司  10.06
西慶司郎   8.20

ヒート2
小林桂  12.17
安室丈    9.00
稲葉玲生   6.23

最も躍動したのは小林桂。癖波に臨機応援に対応し、ラウンド3、4ともに最高スコア。五輪出場経験がある大原洋人、稲葉玲生は、それぞれ一方のヒートで1位だったものの、もう一方では、波を掴めず3位に終わり、ムラがあった。

【女子】
<ラウンド3>

ヒート1
中塩佳那 8.80
松田詩野 8.30
野中美波 6.23

ヒート2
松岡亜音  10.16
都筑有夢路   5.64
脇田紗良    4.90

<ラウンド4>
ヒート1
脇田紗良  11.16
都筑有夢路   9.03
松田詩野    8.77

ヒート2
松岡亜音 8.37
中塩佳那 8.37
野中美波 5.23

2ラウンド通して好成績を挙げたのは、中塩佳那と松岡亜音。松田詩野は積極的に攻めたが、スコアに繋がらず。ラウンド3で振るわなかった脇田紗良はラウンド4でベストスコアをマークし、意地を見せた。都筑有夢路のラウンド3は、アップス中につまづいたり、リエントリー失敗など、まとまりに欠けるサーフィンだったが、ラウンド4で立て直した。

合宿を通した感想や反省点、最近の私生活について、男女5選手が囲み取材で語った。

松田詩野
「日本代表はみんなの目標」

「朝の時間と比べて風が入ってきて、波選びがすごい難しかったんですけど、そういったコンディションでもやっぱり手前と沖を使って、いい波を探すことの大切さを改めて感じました」。松田はジャッジが求めるサーフィンを心掛けたといい「この波でもパワーゾーンでターンする事が大事かなと思い、フィニッシュのセクションとかでしっかり決めてスプレーを上げたり、そういうのを狙ってました」と明かした。

「もう少し波に乗ってチャンスを作りたかった」と悔やんだが、日本代表については「選手みんな目標にしている位置。自分もすごくそこを目指してて、自分が選ばれた時は、代表っていう自覚を持って、さらに成長していきたい」と宣言。17日から開かれる2024/2025アジアQSの最終イベント、オーストラリア・フィリップアイランドでのQS3000へ向かう。

都筑有夢路
「サーフボードを試している最中」

都筑は、「友達と一緒にヒートができて楽しかったです」と笑顔。現在、サーフボード選びで試行錯誤中で、「ラウンド3は昨日も使ってた板なんですけど、なんかスピードが乗らない感じがしたので、2回目はいつもの板で。そっちの方が今日のコンディションにはスピードが出て良かったかな。板を知る事で、いいチョイスができる。どんな板なのか知るために沢山練習したい」と話した。

都筑はCSランキングが日本人トップのため、世界選手権出場はほぼ内定。「まだ調整中なんですけど。まさにスピードとパワーとフロー。全部をレベルアップさせて。まあ、自分的には、スピードかな。もっと上げて速いサーフィンしたいなと思って。それがISAの大会で見せられたらいいなと思います」

中塩佳那
「試合運び、戦術はうまい方かな」

充実した表情で合宿を終えた中塩は、「普段当たらない選手達と、ライディングを発揮するっていうのが、いつものQSだったりとは違う心と状況の中で戦ってたので、今後の試合に繋げられる強化合宿だったなっていう部分はありました」と、手応えを得た様子。

今年1月、WJC(WSLが開催するジュニアの世界選手権)で準優勝した中塩は、自分の強みについて「NSA時代が長かったので、試合数を重ねて、いろんなシチュエーションを経験している。どんな波でも対応でき、技術もそうだけど、試合の運び方、戦術はけっこううまい方かなと自分では思う」と分析。優勝したルアナ・シルバ(ブラジル)がCT入りしたため、準優勝の中塩がワイルドカードでCSへクオリファイする可能性もある。

だが、本人は「とりあえずはオーストラリアですぐQS最終戦があるので、それに出て、ファイナル以上行けば、(アジア枠でCSクオリファイの条件)QSランキング3位以上になれるので、まずは結果残してクオリファイするっていうのが一番です」と、あくまで本ルートでの突破を目指す。

早稲田大との両立は「大変」

中塩と言えば、早稲田大学スポーツ科学部でコーチングを学ぶ文武両道の選手。来年度から4年生で「両立は大変」と笑いながら、ジュニア選手の指導に役立てるため、日々学業にも励んでいるという。

大原洋人
「ちょっと空回りした」

ラウンド3で苦戦した大原は率直な反省を口にした。「この強化合宿は、試合に勝つ、負けるよりも、もっと違う面を期待してるっていう風に(コーチが)言っていたので、それだったら、もっと自分らしい演技をしていきたいなっていう思いが、1回目は強くなり過ぎて、空回りしたっていうか。試合で勝ち上がるとか、ヒート内で点数を稼ぐとかよりは、1本1本ただ全力で自分の乗った波でできる演技をしようっていう風に思ってたら、ちょっと空回りした」

日頃、「自分のサーフィンだけに集中して、自分の課題に向き合って練習している」という大原は、この合宿について「限られた、世界の大会で通用するであろう選手だけが集まり、試合形式でゼッケンを着て、ジャッジに自分のサーフィンをスコアされて、自分自身のサーフィンがどういう位置にいるかとか、周りの選手達のサーフィンを見て、ただ自分で練習するよりはすごく良い時間だったな」と、ポジティブな感想を発した。

ラウンド4を終えた大原洋人(左)と西慶司郎

今夏は愛娘とサーフィン?

今回の合宿にも両親や妻子が駆け付けた。「一番身近でサポートして応援してくれてる人に強い思いが自分はあるので。そういう人が生で目の前にいる時間って、やっぱり限られてるので、自分の日頃の成果を見せるじゃないけど、そういう事をしたいなっていう気持ち」

長女の瑛愛(えま)ちゃんは3歳になり、海が好きだという。「今年の夏とかはちょっとずつボードに乗せて、一緒に波乗ったりとかできたらいいな」と父親の一面をのぞかせた。

稲葉玲生
「タヒチの五輪は自信になった」

寒さに震えていた稲葉は「1回目のヒートは自分の理想通りできて良かった。2回目ちょっと調子悪かったのと、作戦ミスが重なっちゃって。もう寒すぎて体が固まっちゃいましたね。ヒートの間隔が短いんで、1回着替えて温まったりっていうのができなかったので、せめて、そこ(待機場所)にストーブでも置いてくれたらなっていう感じ」と、冗談めかして要望した。

昨夏、タヒチでの五輪出場経験は「やっぱ自信にはなりましたね」と明言。「あのレベルで全然戦えるなっていう事も分かったし、まだまだ全然いけるなっていう風に思えたんで、自信はあります」

日本の波のため10kg減量

五輪時はビッグウェーブ対応で増量し、体重は80kgほどだったが、現在は約70kg。10kgも減量した。「国内とかアジアの大会を回るようになったんで、できるだけ絞って、太らないようにはしてます。運動と、体質的に炭水化物とかビールで太りやすいんで、そこをコントロールしながらっていう感じです。日本は特に波がすごいちっちゃいっていうか、体重が邪魔するんで。みんな、今回出てるメンバー全員、多分60kg、50kg台とか小さいんで。その分やっぱスピードとかキレとか見映えが良くなるんで、そこで戦えるように」

結婚し「しっかり生活が管理されてるんでよかった」とにこり。モチベーションにも繋がっているという。

トップ選手が率先しビーチクリーン

試合後は、ジュニアの選手も一緒にビーチクリーンに参加した。波乗りジャパンのイベントでトップ選手が実施することにより、一般への理解と浸透を目指している。

ビーチクリーンについて、スポンサーから意義を聞く選手たち

それぞれの選手にとってのビーチクリーンとは。

松田詩野「私たち選手は海っていう自然の環境がある中で競技ができている。活動を通して、サーフィンの良さも広めていきたい」

都筑有夢路「海に毎日入って練習させてもらっているので、海に感謝の気持ちを持って、一生懸命やりたい」

ゴミ袋を受け取る松岡亜音

大原洋人「ゴミはクシャクシャってやったらポケットに入るぐらいの大きさ。いつでも、ちょっとポケットに入れて、家帰って捨てればいい。海はきれいであってほしい」

稲葉玲生「サーフィンは地球温暖化ともすごく身近なんで、少しでも、できる事から始めるっていうので、ビーチクリーンは大事かな」

ビーチクリーンに勤しむ(左から)稲葉玲生、脇田紗良、中塩佳那

今回の合宿の結果を受けた日本代表の選考結果は、オーストラリア・フィリップアイランドでのQS3000終了を待ち、4月ごろ、記者会見で発表される予定。

シニア、ジュニアの選手や保護者、関係者も参加したビーチクリーン

All photos by Chiaki Sawada

(沢田千秋)

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