2017年のトリプルクラウンは最悪のハレイワからスタートし、ハワイらしくないエアーゲームに、過去6度も栄冠を手にしている「サニー・ガルシア」もSNS上で苦言を呈すほどの展開。これに奮起してか、次のサンセットビーチではカリフォルニア勢が活躍をみせるものの、最終戦のパイプライン『Billabong Pipe Masters』は遂に最後までリアルなパイプラインが姿を現さず、’バックドアマスターズ’になってしまった。
それでも現地時間12月18日の月曜日に迎えた最終日はギャラリーがビーチを埋め尽くしたし、これから何度も繰り返されるだろうジョン・ジョン、ガブリエルの若いチャンピオンの手に汗を握るタイトル争いや、ジェレミーの大逆転劇を楽しむことが出来た。
やはり、パイプラインは特別なステージなのだ。
昨年、アンディ・アイアンズ以来の念願のワールドタイトルをハワイに持ち帰ったジョン・ジョン。
ポルトガルで決めた時にR3でガブリエルを倒してタイトルに貢献したジェレミーが今年のハワイでもガブリエルを倒し、今度はその瞬間にジョン・ジョンのタイトルが確定した。
運命的な対戦で複雑な思いをしたジェレミーだが、勝負の世界に生きる限り、それは常に覚悟しなければいけない。
「ワールドタイトルのために戦っている奴らと戦うのは好きじゃないよ。最悪さ。彼らは一年間一生懸命やってきた。最後にジョンとガブリエルが戦うべきだったんだ。負けた時のガブリエルの表情を見たら夢を潰してしまった感じさ。ギャビーに勝った後、嫌な気分になった…。でも、いつも彼らは勝っているだろ。今回は自分の番だよ」
フランス人として初めてパイプマスターの栄冠を手に入れた2010年のジェレミー。
ツアーで彼が得意としているのはハワイやタヒチ、フィジーなどのバレル。
2011年のタヒチではパーフェクト20をスコア、アンディ・アイアンズに敬意を表して作られた「A.I Award」を受賞。
2015年にはタヒチで優勝(ガブリエルとファイナルで対戦)。
そして、今年2度目のパイプマスターをブザービーターでジョン・ジョンから奪った。
母親と二人の兄弟と共にパイプラインの目の前で生まれ育ち、スクール時代には毎朝のようにサーフボードを持って登校するという逸話を持つジョン・ジョン。
誰よりもこの波を知り、バレルに滞在して『Volcom Pipe Pro』では4度の最多優勝記録を持つ彼が一度もマスターズを制していないのも何かの運命なのか?
2013年、最高のコンディションに恵まれたマスターズでは初のファイナル進出。
その時はケリーが勝って7度目のマスターズの栄冠を手に入れた。
2度目のファイナルはタイトル争いのプレッシャーから解放されて良い流れだったが、最後の最後に逆転されてしまい、再びお預けになってしまった。
ワールドタイトル、エディ・アイカウ。これでマスターズのトロフィーまで並んだら、彼のモチベーションは逆に下がってしまうのでは?という見解もある。
「面白い一日だったよ。タイトルを獲得した後、肩の荷が下りた。全体に見るとファイナルでは乗った波の全てで出来る限りのことをした感じさ。最後の波が入った時、自分は何もすることが出来なかった。それについては、楽観的に考えている。ジェレミーにはおめでとうと言いたい。簡単では無かったと思うよ」
ハワイではアンディ・アイアンズ以来のワールドタイトル、それも2年連続の偉業達成は元CT選手、ロス・ウィリアムスのコーチの存在が大きい。
’30分のヒートで2本の良い波に乗る。そして、感情的になってはいけない’という戦略は最後まで一貫していた。
サーフィンに関わらず、スポーツは精神的な部分が大きい。
それを上手くコントロールしたロスとジョン・ジョンのチームは来年も怖い存在になるだろうが、ガブリエルの成長も忘れてはいけない。
数年間まで感情を露にして暴言を良く吐いていた彼がこの日はタイトルを逃した後にすぐにジョン・ジョンの元へ向かい、ハグを交わし、落ち着いてインタビューにも答えていた。
「ヒートで全力を尽くした。本当に疲れたよ。負けない限り、チャンスはあったので絶対に諦めなかったね。長い一年、大きな浮き沈みに対応するのは厳しく、ストレスだったさ」
アニマル、ビーストと表現されるようにヒートでのガブリエルの姿はジョン・ジョンよりも感情的に見えるが、それはブラジリアンの気質であり、精神的な部分は成長している。
ヨーロッパレッグの2連勝がそれを裏付けている。
今年の『Billabong Pipe Masters』には他にも多くのドラマがあった。
ビード・ダービッジ、ジョシュ・カーの二人のベテランオージーの引退。
元JPSAプロの柄沢明美さんの長男、コナー・オレアリーのルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得。
カリフォルニア出身の選手では史上初となったグリフィン・コラピントのトリプルクラウン獲得。
あと1ヒートでリクオリファイを逃したブラジルの英雄、ファビオ・ゴウベイアの息子、イアン・ゴウベイア。
昨年、ファイナルに進出して日本中のサーファーを熱狂させた五十嵐カノアの再度の活躍。
2017年のWSLのスケジュールはこれで全て終了。
2018年は1月4日のワールドジュニアから始まり、QSは1月13日からのハンティントンビーチ。
CTは3月14日からのゴールドコーストが開幕戦だ。
『Billabong Pipe Masters』結果
1位 ジェレミー・フローレス(FRA)
2位 ジョン・ジョン・フローレンス(HAW)
3位 イアン・ゴウベイア(BRA)、五十嵐カノア(USA)
5位 ジョエル・パーキンソン(AUS)、ジュリアン・ウィルソン(AUS)、ガブリエル・メディナ(BRA)、イタロ・フェレイラ(BRA)
2017 Championship Tour ランキング
1位 ジョン・ジョン・フローレンス(HAW) 59,600pt
2位 ガブリエル・メディナ(BRA) 53,700pt
3位 ジュリアン・ウィルソン(AUS) 48,650pt
4位 ジョーディ・スミス(ZAF) 47,600pt
5位 マット・ウィルキンソン(AUS) 40,700pt
『Vans Triple Crown of Surfing』公式サイト
COVER PHOTO:© WSL/Cestari