2019年にデヴォン・ハワードがツアーディレクターに就任してから、クラシック回帰が鮮明になっているWSLロングボードツアー。
それはデヴォンと同世代であり、カリフォルニアのセカンドジェネレーションの主と呼ばれているジョエル・チューダーがツアーを引退してから「シングルフィン、9’2”以上、ノーリーシュ、シェアライド可能」など独自のルールを設けて始めた『Duct Tape Invitational』が大きな影響を与えたことは間違い無い。
ヌーサやマリブなど開催地にもこだわった完璧なツアーは今までコンテストに興味がなかったロガーの心さえも掴んでいるのだ。
そのジョエルが17年ぶり、3度目のワールドタイトルを獲得。
45歳のワールドチャンピオンはケリー・スレーターさえも上回る大記録だ。
美しいマリブの波で訪れたもう一つの歴史的な瞬間
参加選手全員がリーシュコードを着用というサーフランチのルールにより、ある意味今のロングボードツアーの意向に反した『クエルボ・サーフランチ・クラシック』から数週間。
リーシュコードをすることが逆にタブーにもなっているマリブで10月11日〜12日に開催されたロングボードツアー最終戦『ジープ・マリブ・クラシック』
ジョエルの3度目のワールドタイトルを獲得に加えて2017年、2019年にワールドタイトルを獲得しているハワイのホノルア・ブロムフィルドがロングボード女子では最年少の22歳で3X達成という記録も生まれた。
「期待していなかった分だけ、実現して本当に嬉しいわ。最年少で3度のロングボードワールドチャンピオンになれて最高よ。ヌーサでは5位と決して良い結果ではなかったけど、優勝したサーフランチででタイトルを獲得するチャンスがあることを実感したの。私はサーフィンが大好きよ。今回は父が一緒に来てくれたの。そのことに感動している。父は私の守り神なの。ずっと尊敬していたジョエルと同じ壇上に上がれたことも特別ね」
ホノルア・ブロムフィルド
サーフランチではただでさえ難しいロングボードでのバレルライドをスイッチスタンスでメイク。
唯一のパーフェクト10を出していたホノルア。
クラシックスタイルにこだわった彼女のライディングはマリブの美しい波に溶け込むような優雅さだった。
なお、ファイナルではフランスのアリス・レモーンがホノルアを倒してロングボードツアー初優勝を成し遂げた。
ジョエル vs ハリソン
初日にカレントリーダーのエドゥアルド・デルペーロが早々と敗退したため、メンズのタイトル争いはジョエルとヌーサのハリソン・ローチ、ハワイのカイ・サラスに絞られていた。
マリブで一番のダークホースとなったイギリスのベン・スキナーがQFでカイ・サラスを倒し、タイトル争いはSFへ。
ハリソンが勝つか、ジョエルが負けるかでタイトルはハリソンが獲得。逆にハリソンが負けて、ジョエルが勝てばタイトルはジョエルというシチュエーションだった。
クラシックスタイルのハリソンもまたデヴォンが改革したのをきっかけにツアーに参加した一人。
『Duct Tape Invitational』の仲間でもあるジャスティン・クインタルが2019年にワールドタイトルを獲得したことが刺激になり、本気でタイトルを狙ってきたが、SFではベンを相手にタイトルのプレッシャーで冷静さを欠いてしまい、自力でのチャンスを失ってしまった。
一方、常にマイペースなジョエルはアメリカイーストコーストで今のツアーでは少数派となったモダンスタイルのトニー・シルヴァニを倒した。
この瞬間にジョエルの3度目のワールドタイトルが確定。
更にベンとのファイナルも制した。
「目標はあったけど、ここでの優勝は期待していなかったよ。今回は様々な要素が絡み合っていたよね。会場には両親が応援に来てくれて、父に関しては27年ぶりだよ。感動したね。この勝利は自分のメンターであるドナルド・タカヤマに捧げる」
ジョエル・チューダー
3度目のワールドタイトルへの軌跡
1976年6月11日生まれ。
カリフォルニア・サンディエゴで育ったジョエル。
ASP時代、ナット・ヤングや、2012年にこの世を去ったドナルド・タカヤマの指導を受けていたジョエルは僅か15歳で初優勝を成し遂げる。
これは当時のASPでは史上最年少記録だった。
1998年には初のワールドタイトルを獲得。
最も得意だった『U.S. Open』では8度も優勝しており、2004年には2度目のワールドタイトルを手に入れた。
まだ28歳だったジョエルは当時のトライフィンでのショートボードよりの技を評価するようになったツアーに疑問を感じてこの舞台から一旦去った。
そして、2010年に『Duct Tape Invitational』を発動させ、ロングボードの伝統を伝えるために世界中でイベントを開き、2019年には湘南・鵠沼でも開催され、多くのギャラリーを集めていた。
この『Duct Tape Invitational』が世界中のロガーに共感を得てWSLの方針さえも変えさせ、再び戻ってきたのだ。
2019年、NYでのツアー復帰戦はヒート中にカニエラ・スチュワートとシェアライドをしてお互いのサーフボードをチェンジするジョエル流のパフォーマンスを披露して話題になった。
2000年のヌーサではライトのファーストポイントが整わず、手前のビーチブレイク、「メインビーチ」が舞台になったのにも関わらず、時代を超えたクラシックスタイルを存分に見せてハリソン・ローチ、ザイ・ノリスなどのヌーサローカルや、カニエラ、最後は『Duct Tape Invitational』で主役級のロガー、21歳のケヴィン・スカヴァーナまで倒してしまい、16年振りの優勝を成し遂げた。
それは偶然にも師匠のナット・ヤングが最後にワールドタイトルを獲得した時と同じ43歳にも重なっていた。
その後、世はパンデミックでサーフィンコンテストも中止になる。
2021年はこのヌーサのポイントが持ち越され、サーフランチ、マリブでの合計3イベントでワールドチャンピオンが決定。
ジョエルはその内の2つで優勝というパーフェクトゲームを達成したのだ。
「自分の子供にこの姿を見てもらえて良かった。前回ここで試合をした時、まだジューダもトッシュも生まれていなかったよ。父親になると子供が生まれる前の経験について語らなくなる。だから、直接見てもらえて良かったし、遂にケリーに勝ったと言えるようになったね」
ジョエル・チューダー
田岡なつみが5位 井上鷹が9位
冒頭の「LOG RAP」にも登場するほど世界的なロガーとなっている田岡なつみ&井上鷹。
サーフランチで5位に入っていた田岡なつみはマリブのファーストラウンドで強豪のクロエ・カルモンを抑えて1位通過。
QFまで進出して今回も5位でフィニッシュした。
サーフランチで17位だった井上鷹はRound of 16まで進出。
今回は9位でフィニッシュ。
総合ランキングでは田岡なつみが7位。
井上鷹が17位。
『ジープ・マリブ・クラシック』結果
メンズ
1位 ジョエル・チューダー(USA)
2位 ベン・スキナー(GBR)
3位 ハリソン・ローチ(AUS)、トニー・シルヴァニ(USA)
5位 ケヴィン・スカヴァーナ(USA)、カイ・サラス(HAW)、ジャスティン・クインタル(USA)、カニエラ・スチュワート(HAW)
ウィメンズ
1位 アリス・レモーン(FRA)
2位 ホノルア・ブロムフィルド(HAW)
3位 クロエ・カルモン(BRA)、ゾエ・グロスピロン(FRA)
5位 田岡なつみ(JPN)、キラ・シール(HAW)、リンジー・ステインリード(USA)、ケリア・モニーツ(HAW)
2020/2021 ロングボードツアー最終ランキングトップ5
メンズ
1位 ジョエル・チューダー(USA) 20,000pt
2位 ハリソン・ローチ(AUS) 16,725pt
3位 カイ・サラス(HAW) 14,750pt
4位 ベン・スキナー(GBR) 14,000pt
5位 エドゥアルド・デルペーロ(FRA) 13,475pt
…17位 井上鷹(JPN) 5,830pt
ウィメンズ
1位 ホノルア・ブロムフィルド(HAW) 20,500pt
2位 アリス・レモーン(FRA) 17,975pt
3位 クロエ・カルモン(BRA) 14,750pt
4位 ケリス・カレオパア(HAW) 13,500pt
5位 ソレイユ・エリコ(USA) 12,500pt
…7位 田岡なつみ(JPN) 11,750pt
WSL公式サイト:http://www.worldsurfleague.com/
(黒本人志)