海の霊が奉られているウルワツ寺院から見下ろす美しいレフトのラインナップは5つ星のリゾートホテルで大きく様変わりした今も世界中のサーファーを虜にしている。
岩場に挟まれた小さなビーチからゲッティングアウトする瞬間は誰でも厳粛な気持ちになるだろう。
そのウルワツでサメ騒動で中断されたCT第3戦『Margaret River Pro』の続きがクラマスでのCT第5戦『Corona Bali Protected』の後にスケジュールが組まれ、『Uluwatu CT』として6月8日〜9日の2日間に渡って開催された。
今シーズンのCTはフィジーが無くなったため、レフトのポイントブレイクはタヒチとポルトガル、パイプラインの3戦のみ。
ライトのポイントブレイクはゴールドコースト、ベルズ、クラマス、J-Bay、ブラジルもほぼライトの波だったので、ナチュラルフッターにやや有利とも言える。
そのため、ウルワツでのイベントはグーフィーフッターにとってボーナス的な貴重なチャンスだったが、いざイベントが始まるとクラマスで圧勝したイタロ・フェレイラはR3であっけなく敗退してしまったし、QFに唯一残ったガブリエル・メディナもワイルドカードのマイキー・ライトに敗れてしまった。
ウィメンズサイドではブラジル戦前に国籍をブラジルに変えたタティアナ・ウェストン・ウェブがフロントサイドの利点を活かしてSFで難しいバレルをメイク。
2016年の『Vans US Open of Surfing』以来の優勝が目前だったが、ラスト2分でナチュラルフッターのジョアン・ディファイに逆転されてしまった…。
クラマスではイタロのパーフェクト10を始め、エアリアルがハイスコアに結び付いたが、ウルワツではマニューバーにジャッジクライテリアがシフト。
最も優れたエアリアルに贈られる『AirAsia Big Air』を獲得したフィリッペ・トレドでもスコアは伸びなかった。
そのジャッジクライテリアに上手くはまったのはクラマスでMCのポッツことマーティン・ポッターに「ブラジルのサニー・ガルシア」と最上級の褒め言葉をもらったウィリアン・カルドソ。
フィリッペを始め、クラマスのQFで僅か0.07のクロスゲームで負けたマイキー・ライト、最後には今シーズン絶好調のジュリアン・ウィルソンをシンプルにパワフルなターンだけで制圧した。
「今にも心臓が破裂しそう。このまま優勝出来るんじゃないかなと思ったのはQFを通過した時点かな。もう気持ちが高ぶっていたよ。ファイナルの後半、ジュリアンが良い波に乗ってしまった時は不安だったね。でも、彼に必要だったスコアには届かなかった。この瞬間のために今まで頑張ってきたようなものさ。昔から自分を支えてくれた皆に感謝したい」
ウィリアン・カルドソ
ベルズから続くブラジリアンの連勝がまたしても更新され、これで4連勝。
イタロが2回、フィリッペ、ウィリアン。
ランキングを見ても今回の2位でトップに返り咲いたジュリアンを除くとトップ5の内、4名がブラジリアンだ。
ちなみにウィリアンのニックネームは「パンダ」
映画「カンフー・パンダ」が由来で本人も気に入っているらしく、「panda」と大きく書かれたTシャツも愛用している。
本物のパンダ同様に見た目は穏やかでも凶暴な一面があるのか、ウルワツでの彼のサーフィンは誰よりも強烈だった。
昨年はメインスポンサーを失って年齢的にも崖っぷちに立たされていたが、トリプルクラウンの結果によって念願の夢の舞台に上がることが出来た。
粒揃いのルーキーの中で最年長の32歳、今年の彼のサーフボードには多くのステッカーが貼られている。
マーガレットリバーでメンズよりもラウンドが進んでいたウィメンズはQFから先が行われ、カレントリーダーのレイキー・ピーターソンや、バリ島のレジェンド、リザール・タンジュンをボードキャリーにしたカリッサ・ムーアが早々と敗れるなど、いくつかの番狂わせがあったが、ランキングではレイキー、ステファニーのトップと2位は変わらず。
それでも優勝したジョアンは11位から一気に5位にランキングアップしてウルワツがシーズンのターニングポイントになった。
ファイナルでタティアナを逆転した波はポッツからバトンタッチしたバートン・リンチに言わせると「まるでジェットコースターのような波だった」
バランスを崩しながらも最後までワイプアウトせずに乗りこなし、勝利に導いたライディングは彼女の執念でもあった。
「今シーズンは少し変だったの。サーフィンの調子は良かったのに、望むような結果が出なかった。でも、このパーフェクトなバリの波での優勝、夢が叶ったわ。今日のタティアナは凄いサーフィンをしていた。全ての波で8ポイントを出すような勢いだった。終了間際、私が6ポイントを必要な場面で波が入り、これが最後のチャンスと思ったわ。良い波だったけど、バンプで乗りにくく、ふらふらしながらターンを繰り返したわ。スコアが出たのは幸運だった」
ジョアン・ディファイ
全11戦(ウィメンズは10戦)の内、5戦が終了して上位陣は固まってきたが、今年は成績に波がある選手が多く、まだまだタイトルの行方は不透明と言えるだろう。
残念なのは2年連続でワールドタイトルを獲得したジョン・ジョン・フローレンスがスランプに加えてウルワツの前のフリーサーフィン中に膝を故障してウルワツを欠場。
怪我の状態は明らかにされていなく、現時点の成績を考えても今年のタイトルは絶望的だ。
『Uluwatu CT』
1位 ウィリアン・カルドソ(BRA)
2位 ジュリアン・ウィルソン(AUS)
3位 コロヘ・アンディーノ(USA)、マイキー・ライト(AUS)
5位 コナー・コフィン(USA)、ジョーディ・スミス(ZAF)、ガブリエル・メディナ(BRA)、フィリッペ・トレド(BRA)
ウィメンズ
1位 ジョアン・ディファイ(FRA)
2位 タティアナ・ウェストン・ウェブ((BRA)
3位 ステファニー・ギルモア(AUS)、タイラー・ライト(AUS)
5位 カリッサ・ムーア(HAW)、ブロンテ・マコーレー(AUS)、ニッキ・ヴァン・ダイク(AUS)、レイキー・ピーターソン(USA)
(空海)
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