現地時間4月16日、西オーストラリアのマーガレットリバーで開催中のCT第5戦『Western Australia Margaret River Pro』は2日連続で進行した。
公式4-5ftレンジのメインブレイクでメンズElimination RoundのH2から再開。2つのヒートを同時進行させるオーバーラッピングヒートを使用してRound of 32へ。
後半は風の影響で難しいコンディションに変化したが、今後の波予報を考慮して中断はされず、夕方までにベスト16が決定した。
この日のハイライトはなんといっても11xのキングことケリー・スレーター(USA)のツアー離脱。
本人が泣いてしまうような特別な1日になった。
ケリーの最後の相手は世界一の男
キャリア後半は何度となく引退やツアー離脱の噂があったケリー。
WSLからワイルドカードをもらって参加していた今シーズンは結果を残せず、この日はコール・ハウシュマンド(USA)、ヤゴ・ドラ(BRA)とのElimination Roundは切り抜けたものの、カレントリーダーで今一番勢いがあるグリフィン・コラピント(USA)とのRound of 32では逆転されて敗退。
この時点でミッドシーズンカットでのCS落ちが確定してしまった。
まだ正式に引退という発表はないが、52歳という年齢とパートナーのカラニとの間に生まれてくる子供のことを考えるとこの結果は確実に転機になるだろう。
ヒート終了後はセレモニー的に担がれながら階段を登り、インタビューや1日の最後に行われるポストショーにも参加していた。
「感情的な面ではこれから実感するだろうね。今週は奇跡を起こせなかった。過去に何度か奇跡を起こしてきたので、今回も少しは期待していたんだ。残り1分になっても、波が来るかもしれないと思っていたよ。でも、世界一のグリフィンに負けた。彼とは長い付き合いでもある。50歳を超えても若い選手たちと競えて、まだやれると思えたのは楽しかったさ。新しい世代を見て、グリフィンとの対戦で現役を終えるのは最高だと思う」
この時点で涙ぐんでいたケリーだったが、最後までインタビューは続いた。
「ずっとこの波とは相性が悪かったんだ。引退試合には望まない波質だね。フィジーのワイルドカードに申請したので、様子を見たい。もし、フィジーに出場できたら、またグリフィンと対戦して借りを返せるかもしれないね。まあ、人生には終わりがあるし、適応しなければ生き残れない。今はモチベーションが湧かず、他の選手みたいに全力で取り組む気になれないんだ。この先は何も決まっていないけど、レナートがゴールドコーストのCSに出場しないかと誘ってくれた。スナッパーロックスの波が良ければ、ただ楽しむだけに参加するかもしれない」
キングケリーの軌跡
1972年2月11日生まれのケリーは現在52歳。
1990年にトラッセルズで初優勝を飾った後、1992年に20歳でワールドタイトル獲得の最年少記録を樹立した。
ここから30年以上にも及ぶ奇跡のような彼のストーリーが始まる。
年上のトム・カレンからロブ・マチャド、シェーン・ドリアンなどの同じモーメンタム世代との対戦を経て、若いアンディ・アイアンズとの数年間に渡る因縁の対決。
そして、自分の子供のようなジョン・ジョン・フローレンスなどと世代を超えた名勝負を残してきた。
その間の記録としては今後破られることはないだろうと言われている11度のワールドタイトルを始め、CT56勝。8度のパイプライナー、3度のトリプルクラウンタイトル、エディでの優勝。
最年少記録と共に39歳のワールドタイトル最年長記録も持っている。
この30年間、ケリーとワールドツアーとは切っても切れない関係で、ツアーもケリー人気に支えられてきた。
また、ビジネスマンとしても優秀なケリーは2015年のパイプラインで自身のサーフボードブランド、『Slater Designs』を披露。
ウェアブランド、『Outerknown』の始動もこの年で、日本ではロンハーマンでローンチパーティーが行われた。
更に同年のCTシーズンオフにはウェーブプール『サーフランチ』を自らのライディングの映像で公開して大きな話題になった。
普段は自らのブランドの服を着て、自らのサーフボードブランドで自ら創り出した波に乗る。
サーフィンの才能だけではなく、全てが完璧。
キング、G.O.A.Tの称号もサーフィン界では今後彼以外に与えられることはないだろう。
ケリーを最後に倒した男
ケリーの最後の相手として最もふさわしい男と言えるグリフィンは、まだ25歳。
ケリーが5年連続でワールドタイトルを獲得した最高の時期に生まれてきた。
2024年は躓いたハワイレッグでの結果を一気に挽回してポルトガルで優勝、ベルズで2位に入り、ランキングトップになっている。
ヒート終了後のインタビューでは、「本当に驚いた。彼が担がれながら階段を上がる姿を見て本当?と思ったよ。サーフィン界では、あれが引退表明のサインなんだよね。しかも、自分のヒートの後だったから、凄く光栄だった。本当に圧倒されたけど、受け止めようとしたよ。彼は最高だよね。みんなに多くのものを与えてくれた人物さ。サーフィンを職業にできるのも、彼がサーフィンをここまで広めたおかげだよ。本当に凄い人なんだ。彼のビデオを見て、自分も彼みたいになりたいと思っていたのさ」と話していた。
アメリカ資本のWSLで最もワールドタイトルに近い選手でもある彼は、パリ五輪のアメリカ代表でもある。
JJF vs ギャビー
ケリーがイベントを去った後、注目はミッドシーズンカットに集まるが、Round of 16では「JJF vs ギャビー」のゴールデンカードが実現する。
Elimination Roundを切り抜けたジョン・ジョン・フローレンス(HAW)はRound of 32でデイヴィッド・シルヴァ(BRA)との8ポイント台の勝負を制し、トータル17.13のハイエストを揃えるほどリズムに乗っている。
一方のガブリエル・メディナ(BRA)はライアン・カリナン(AUS)とのグーフィー対決に競り勝った。
「波が来れば本当に良くて、やる気が出たよ。最近少し調子が悪かったから、サーフィンできるのを楽しみにしていたんだ。でも30分くらい待っていて、これは想定外だなと思った。もっと波に乗れれば良かったね。クリーンで良い波だったよ」
ジョン・ジョン・フローレンス
「同時進行のヒートは好きだけど、今日は波数が少ないね。もちろん勝てて嬉しいけど、次のラウンドはもっと波数が欲しい。ここ数年、波の特徴や攻略法を研究してきた。自分の実力を証明できてきたし、毎年来るのが楽しみなんだ。ジョンとの対戦は最高になるだろう、楽しみにしている」
ガブリエル・メディナ
8名のCS落ちが確定
最初の5イベントのランキングにより、メンズは36名から22名、ウィメンズは18名から10名に絞られるミッドシーズンカット。
まさに運命の分かれ道、選手生命にも関わる重要なイベントで、この日はRound of 32で敗退した8人の選手のCS落ちが確定した。
イアン・ジャンティ(HAW)
イーライ・ハンネマン(HAW)
フレデリコ・モライス(POR)
ケイド・マトソン(USA)
カラム・ロブソン(AUS)
デイヴィッド・シルヴァ(BRA)
ジェイコブ・ウィルコックス(AUS)
ケリー・スレーター(USA)
イーライ、ケイト、ジェイコブはルーキー。
フレデリコ、デイヴィッドはCSから返り咲いたばかり。
ツアーではケリーのように常にトップに居続ける選手は一握り。
多くの選手が入れ替わる本当に厳しい世界なのだ。
リオが残り、コナーは危険なライン
一方、Round of 32の勝利でミッドシーズンカットを切り抜けたのは、ラムジ・ブキアム(MAR)、イーマイカラニ・デヴォルト(HAW)、イタロ・フェレイラ(BRA)
和井田理央(IND)は敗退したものの、他選手の結果によりシーズン後半戦進出を決めた。
ガブリエル・メディナ(BRA)、ライアン・カリナン(AUS)、レオナルド・フィオラヴァンティ(ITA)、マシュー・マクギリヴレイ(RSA)、リアム・オブライエン(AUS)もカットラインをクリアしている。
ライブランキング20位のコナー・オレアリー(JPN)はRound of 32で敗退しており、他選手の結果に委ねられる。
また、ミゲル・プーポ(BRA)、サミュエル・プーポ(BRA)はRound of 16で直接対決する。
セス・モニーツ(HAW)、カイオ・イベリ(BRA)もCT生き残りをかけて戦うことになる。
ネクストコールは現地時間4月17日の7時15分(日本時間の同日8時15分)
WSL公式サイト
http://www.worldsurfleague.com/
(空海)