スケートボードの金と銀を始め、現在、パリ五輪のメダル獲得数で世界一となっている日本。
サーフィン競技も東京五輪の二つに続いて獲得できるか?
パリから12時間も時差があるタヒチで開催中のサーフィン競技は現地時間7月28日に大会2日目を迎え、敗者復活戦のR2が全て進行した。
勝者はQFの一つ手前となるR3に進み、敗者は17位タイで去ることになる。
この日は終日弱いオフショアでクリーンだった初日と一転、風の強さが安定せず、白波が立った時間帯もあった。
サイズは朝の時点で4ftプラス。公式は3-5ftレンジ。実際には更に大きなセットが入っていた。
リスタートされたり、ターン勝負となったヒートもある不安定な1日だったが、それが自然を相手とするサーフィン競技の面白さでもある。
プーと呼ばれる法螺貝の一種でできた楽器を吹き、タヒチらしい神聖な儀式の後、女子R2から再開。
日本代表「波乗りジャパン」は全て見応えあるヒートでR3進出、意外な選手が9ポイントを出したり、中国のスーチー・ヤンがオリンピック初勝利を決めたり、華やかで話題満載の2日目となった。
松田詩野の逆転劇
追加枠を合わせて4名が出場している日本代表。
初日のR1では稲葉玲王のみがトップ通過でR3へ。
松田詩野、五十嵐カノア、コナー・オレアリーの3名はR2に回った。
大会2日目、最初に登場したのはR2H3の松田詩野。
初日のR1では良いバレルをメイクしながらも、東京五輪の金メダリスト、アメリカのカリッサ・ムーアに完敗していた松田詩野だったが、この日は素晴らしい逆転劇を演じた。
R1で同ヒートだったポルトガルのテレッサ・ボンバロとの対戦はターン中心の勝負で始まり、クロスゲームで進行。
ステイビジーに波に乗っていたテレッサが僅かにリードしていた。
後半、松田詩野はアンダープライオリティで波を掴み、バレルイン。難しいセクションを抜けて見事にメイクした。
会心のガッツポーズまで出たこのライディングにジャッジは7.67を出して逆転に成功。
テレッサを抑え、R3進出を決めた。
「素晴らしいコーチと一緒にここにいられて本当に嬉しいです。ジェイクはチームのために知識を共有し、自信を与えてくれます。東京五輪を逃してとても失望していましたが、今はタヒチでのオリンピックで競っています。最高の気分です」
R3はスペインのナディア・エロスタルベとのグーフィーフッター対決となる。
カノアらしい勝利
男子R2H1では五十嵐カノアがジュニア時代からのチームメイトで親友。ヒート前の自己紹介タイムでも「子供時代からのブラザーさ」とカメラに向かって話していたイタリアのレオナルド・フィオラヴァンティと対戦した。
カノアは序盤にしっかりと波を見極め、グラブレールでバレルに入り、綺麗にメイクして7.17をスコア。波選びに苦戦するレオナルドを尻目にカノアは後半にも2本の良いバレルをメイク。6ポイント台を重ねた。
この日のバレルはスピードを調整する技術が求められたが、カノアは身体を上手く利用して対応していた。バレルを抜けてからのボーナスセクションではエアリアルをする余裕もあり、終了間際には特に重要なプライオリティをパドルバトルで手に入れてカノアらしいクレバーな試合運びだった。
「レオとは初めてのチョープーでセッションをしたよ。あの頃の二人共は本当に下手で凄く怖かった。12歳だったし、上手くなるなんて思っていなかった。でも、少しずつ頑張って、どんどん良くなろうと互いにプッシュし合っていたんだ。実際、彼が僕をプッシュすることが多かったと思う。今日はリズムを保って、海とつながっていることが大事。一つのミスか、あるいは一つの良い決断でヒートの流れが変わるからね。正しい波をつかめれば、どちらもスコアを出すだけの実力がある。自分を限界まで追い込んで、できるだけ深くバレルに入ることが必要だった。この勝利は本当に辛い。今日は運良く自分に向いたんだ。これがサーフィンさ」
「最終的にはオリンピックに出ること自体が素晴らしいことなんだ。でも、誰もがメダルを取りたいと思っているし、みんな同じ目標を持っている。メダルを取るのは簡単ではない。自分に集中する必要がある。みんな同じことを言うけど、本当にそうだよ。特にチョープーではね。チェスゲームのようなものではなく、誰が海とのリズムを上手く保てるかが重要なんだ。でも、僕にとって成功は金メダルだけだよ」
「今日は起きたら、自分が大会全体で最も厳しいカードを引いていたことが分かり、心臓がドキドキした。オリンピックの最初に負けたくないという思いが強くなり、本気で挑む必要があった。コーチに『今日は少し緊張しているんだ』と打ち明けたら、『そんなことを言うのは久しぶりだね』と返された。それがポジティブな影響を与えてくれて、リズムに乗る助けになったんだ」
「オリンピックメダルの重みについて話すことがある。文字通りの物理的な重さではなく、その影響のこと。今朝、弟が東京五輪の銀メダルの写真を送ってくれたんだ。弟はこの写真には二つの見方があると伝えてきた。一つは「多くの期待』さ。すでにメダルを持っているからね。もう一つは『以前にも達成した』という見方。今朝、弟が写真を送ってくれて、本当に感謝しているよ」
R3は優勝候補、ブラジルのガブリエル・メディナとのカード。
東京五輪ではSFで対戦してカノアが勝利していたが、舞台がチョープーとなればガブリエルに分がある。
しかし、今日のような試合運びができれば勝算はある。
10歳差の勝負を制したコナー
カノアの次のヒートでドイツのティム・エルターと対戦したコナー・オレアリーも終わってみれば圧勝だった。
このヒートは序盤にポテンシャルがある波が入らず、10分間ノーライドでリスタートになった。
再開後、ロースコア止まりだったティムに対してコナーは辛抱強く波を待って中盤にようやく1本目にテイクオフ。プルインからバレルの中に留まり、抜けてからのボーナスセクションで強烈なレイバックを決めて7.33をスコア。
ティムも1本だけバレルをメイクするが、ポジションが浅く、スコアは伸びず…。一方、コナーは後半にも長いバレルをメイクしてダメ押しの7.17を重ね、トータル14.50でティムをニード10ポイントまで追い込んでR3行きを決めた。
ティム20歳、コナー30歳。10歳の年齢差は経験にも表れていた。
コナーはR3でオーストラリアのイーサン・ユーイングと対戦する。
なお、唯一R1からストレートでR3に進んだ稲葉玲王は日本男子のトップバッターとしてブラジルのフィリッペ・トレドと戦う。
当初、フィリッペはバレル勝負のチョープーでノーマークの選手だったが、R2ではチョープーでキャリア最高のサーフィンを見せていた。2xワールドチャンピオンでもあるフィリッペを倒せば、稲葉玲王にとって大きな自信にも繋がるだろう。
ハイエストはフィリッペとロボ
この日、トータルスコアで最も高い数字を揃えたのはブラジルのフィリッペ・トレドだった。
ビリー・ステアマンドと戦った最終ヒートで9.67と7.33を重ね、トータル17.00。CTでは苦手とされていたハードなバレルを克服していた。
「今朝起きた時から考えていた戦略を遂行したんだ。最初に少しプレッシャーをかけて、インサイドポジションをキープすることさ。ハイスコアを出すまではポジションを変えないつもりだった。R1で犯したミスを繰り返したくなかったよ。7ポイントを出した後、ビリーも8ポイントを返してきたので、『ここからが勝負だ』と思った。プライオリティを獲得した後、『いい波が来るまでラインアップを離れない』と決めたんだ。あの波が来て、バレルと勝利を得ることができて本当に幸運だった」
R1でフランスのジョアン・ドゥルーに逆転負けをしたオーストラリアのロボことジャック・ロビンソンが9.87のハイエストスコアをマーク。
ペルーのルーカ・メシナスとのヒートはポテンシャルがある波が極端に少なくなり、1本目に乗ったのが17分経過後だった。その波で9.87を出し、2本目で7.00。ルーカもヒート中2本しか乗っていなく、合計4本の勝負だった。
「ボート上からすでに勝負は始まった。何度もファイトを仕掛けてきたけど、それもこのスポーツの一部さ。あの状況で集中力を保ち、他に気を取られないようにするには長年の経験が必要なんだ。ハイスコアを出した波は本当に美しかった。振り返ると、みんなの姿があり、太陽が輝き、波が舞っていた。素晴らしい午後だった。そこにいたことが、ただ幸せだった」
R3はアメリカのジョン・ジョン・フローレンスと対戦。
このラウンドのゴールデンカードだ。
ジョアンの闘志
R1では額がリーフにヒットして流血しながらもヘルメットを被ってヒートに戻ったフランスのジョアン・ディファイ。
その闘志に感動した会場は大きな声援があがっていた。
R2では優勝候補、オーストラリアのモリー・ピックラムと対戦。女子ではこの日のハイエストとなる7.83を出してトータル11.83でR3進出を決めた。
「ワイプアウト、縫合、脳震盪テスト。そして 昨日は本当に良い波をつかむチャンスがなかったことが、非常にフラストレーションだった。部屋に帰ると『明日の朝はモリーとの対戦』と言われ、感情的になったわ」
モリーを倒したジョアンだったが、次はラスボスとも言えるローカルのヴァヒネ・フィエロが対戦相手。
互いに島出身ながら、フランスを代表しての出場となる。
中国のスーチー・ヤンが五輪初勝利
この日の女子R2H1、つまりオープニングヒートでは中国代表でサーフィン競技最年少のスーチー・ヤンがペルーのソル・アギレと対戦。
風とウネリが安定しなかった最初のヒートでバレルよりもターンでスコアを稼ぐ戦略に変えたスーチーはサーフボードも途中交換してこのヒートを制した。
サーフィンを初めて2年、10歳でISAのワールドジュニアに中国代表として出場。13歳にはWSGに出場。2024年、14歳で出場したWSGで13位に入り、アジア枠での出場を決めたスーチー。ビザの問題でタヒチでのサーフィン経験はなく、五輪直前のトレーニングセッションで初めてこの波に乗り、R1では見ている方が怖くなるようなチャージを繰り返していた。
「ここに来るのは初めてよ。とても幸せ。サーフィンするには良い場所。大きなバレルが好きなの。トップサーファーたちのビデオを見ていたので、ここでサーフィンするのがとても楽しみだった。波をキャッチしてバレルに入るのは簡単だけど、そこから出るのはとても難しいわ。故郷は内陸で山しかなく、海はないので、サーフィンはかなり珍しいものなの。自分のヒートでの勝利が故郷でのサーフィンの宣伝になり、もっとサーフィンが普及してくれると思う。特に私のように国外でサーフィンする機会が増えれば良いと願うわ」
更に同じアジア人としてスーチーの活躍はカノアにも影響を与えていた。
「彼女にはインスパイアされているよ。フリーサーフィンで凄い頑張っていた。数少ないアジア人サーファーとしてお互いにサポートしている。これからもずっと応援し続けたいサーファーだよ」
大会3日目のファーストコールは現地時間7月29日の6時15分(日本時間7月30日1時15分)で、条件が揃えば男子R3から再開される予定。
現時点では風が悪化して明後日以降はしばらく大荒れになる予報だが、まずはファーストコールをチェックしたい。
ISAパリ2024公式サイト:https://isasurf.org/event/paris-2024/
(空海)
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