(稲葉玲王) Photo: ISA/Beatriz Ryder

稲葉玲王が5位&松田詩野が9位 パリ五輪4日目

現地時間8月1日、パリから約1万5千キロ離れたタヒチを舞台としたパリ五輪のサーフィン競技は4日目を迎えた。

ストームにより2日間オフが続いた後のチョープーは素晴らしいコンディションに恵まれた3日目の波と一変。
南ウネリにサイド気味となる南東風が吹き続き、スラブと呼ばれるバレルが姿を潜めたマニューバー中心の勝負になっていた。
それでもヘッドオーバーサイズのパワフルなリッピング可能な波なので、チョープー以外の場所であれば良いコンディションの内に入るのであろう。

すでに予備日に入っている大会後半も予報が良く無いため、残っていた女子R3の8ヒートの後、QF男女合わせて8ヒートも一気に進行。
最終日でメダル獲得を争うベスト4が決定した。

(パリ五輪のマスコットもタヒチ入り) Photo: ISA/Beatriz Ryder

松田詩野は9位タイ

(松田詩野) Photo: ISA/Tim Mckenna

大会4日目に残った日本代表「波乗りジャパン」はR3の松田詩野とQFの稲葉玲王の2名。

最初に登場した松田詩野は、R3H5でスペインのナディア・エロスタルベと対戦した。
同じグーフィーフッター同士だが、ナディアは2023年、2024年とCS上位でCT入りも近い選手。

ヒートは序盤からナディアが積極的に乗っていた一方、松田詩野は慎重に波を選んでいた。

(松田詩野) Photo: ISA/Tim Mckenna
(ナディア・エロスタルベ) Photo: ISA/Tim Mckenna

ヒート中盤、両者続けて波に乗り、互いに2ターンで終えたライディングだったが、ナディアの方がクリティカルセクションを際どく攻めており、スコアも4.77(松田詩野は2.67)と伸びていた。

後半、松田詩野は1本目より攻めたライディングで3.17を返すが、ナディアもバックアップスコアを伸ばしてタイムアウト。
松田詩野は初めての五輪を9位タイで終えた。

(松田詩野) Photo: ISA/Pablo Franco

稲葉玲王は5位タイ

(稲葉玲王) Photo: ISA/Beatriz Ryder

CT選手の五十嵐カノア、コナー・オレアリーがR3で敗れた一方、日本代表の男子で唯一QF進出を決めた稲葉玲王はシルバー・バレットデザインのヘルメットを被り、ヒート前の紹介で両手を合わせてからパドルアウト。
対戦相手は同じグーフィーフッター、ペルーのアロンソ・コレア。ベスト8の中でCT経験がないのはこの二人のみで、互角のカードになった。

Photo: ISA/Beatriz Ryder
(アロンソ・コレア) Photo: ISA/Beatriz Ryder

序盤はビーチブレイクのような波でパワフルなターンを重ねてスコアを伸ばしたアロンソがリードしていたが、稲葉玲王は中盤にレイトテイクオフからバレルイン。フォームボールも上手く処理してメイク。ヒートのハイスコアとなる7.33を出してトップに立つ。

後半、アロンソはニード6.00でプライオリティを利用して波を掴み、バリエーション豊かなターンと途中の難しいセクションをメイクしたこのライディングに6.33がコールされ、逆転。
時間が刻々と過ぎ、チームジャパンがボート上でポジションの指示をする中、ニード3.17の稲葉玲王の元に1本が入らず…。
しかし、初の五輪は5位タイと大健闘だった。

CT選手が強かった女子R3

(キャロライン・マークス) Photo: ISA/Pablo Jimenez
(4年後にどれだけ強くなって帰ってくるか?スーチー・ヤン) Photo: ISA/Beatriz Ryder

女子R3に残ったベスト16の内、半数がCT選手。
この日のコンディションは1本のバレルで逆転というチャンスが皆無だったため、百戦連覇のCT選手が有利だった。

アメリカのキャロライン・マークスが中国のスーチー・ヤンを倒したのを皮切りにオーストラリアのタイラー・ライト、アメリカのカリッサ・ムーア、コスタリカのブリッサ・ヘネシーがCT枠以外から出場している選手を倒した。
今年のCTタヒチ戦で優勝したローカルのヴァヒネ・フィエロは、普段なら見向きもしないだろうチョープーのコンディションでスコアを出せず、同じフランス代表のジョアンに敗退した。

(ジョアン・ディファイ) Photo: ISA/Tim Mckenna

チームメイトを倒したジョアンは、「明らかに今日は彼女にとって最高の30分ではなかったわね。今日は競技経験が役立ったのかもしれない。私はコーチと共に自分のゲームプランに従い、マニューバーを駆使した。このコンディションではチューブライディングが難しかったので、それが最善の方法だった。次に進めて嬉しいわ」と話した。

(タティアナ・ウェストン・ウェブ)
Photo: ISA/Tim Mckenna

R3でスコアを伸ばしていたのは、タティアナとブリッサ。
中でもタティアナはアメリカのケイトリン・シマーズが全くリズムが合わずにトータルでも1.93と最悪のスコアだったのに対してフロントサイドでパワフルなレールサーフィンを披露。稀に入るウェストボウルにもアジャストして小さなバレルもメイク。序盤に6ポイントを2本まとめて圧勝していた。

「今日は望むようなコンディションではなかったけど、勝てて感謝している。ここで沢山のキャンプを行い、今日のような波でも多くの時間をサーフィンしていた。だから、自分がどこにいるのかを非常に意識しやすく、良い波を捉えることができたの。ケイティと対戦する時、ほとんど彼女が勝っている。彼女は本当に強いコンペティターよ。サーフィンがとても上手で、勝負にも強い。彼女には特有のエネルギーがある。時々彼女自身が気にしていないように振る舞うことがあるけど、実は意識してやっていて、どれだけスマートな試合運びをするか知っているの。だから、彼女と対戦するのは凄い緊張する。本当に上手なのよ」

Photo: ISA/Beatriz Ryder

男子ベスト4は優勝候補と一人のダークホース

(ガブリエル・メディナ)
Photo: ISA/Tim Mckenna

男子QFは稲葉玲王とアロンソ以外、全てCT選手か、CT経験者のカード。

R3で五十嵐カノアを倒したガブリエル・メディナはジョアオ・チアンカに対しても全く手加減せず、同じ波とは思えないバレル、ボーナスセクションでのパワーハックで8.10をスコア。4ポイント止まりだったジョアオをコンビネーションに近い数字で倒した。

「この波は自分にとって特別な意味がある。何故か分からないけど、特別なエネルギーを感じるんだ。ここにいるだけで心地良いし、海に入るのも大好き。何か特別なものがあるんだよ。今日は本当に難しかった。どのコンテストにもサバイバルする日がある。今日はまさにその日だね。勝てて嬉しいよ。ジョアオは本当に危険な相手。彼がどれだけ優れているか知っているよ。でも、どちらか一人は勝たなければいけなかった」

カノアとのヒートの決め手となったライディングの最後にサーフボードと共に宙を舞ったあの写真はSNSの力で拡散が止まらず、Instagramのフォロワーが一晩で100万人以上も増え、現在は750万以上のいいねを獲得している。

「本当にクレイジーだよね。サーフィンに関するものがインターネット上で急速に広まることは、嬉しいよ。自分の大好きなスポーツだからね。あの写真は確かにバズった。インスタグラムが大変なことになっている。もう、追いつけないよ。あの写真は本当に良い。でも、人々は自分がヒートを勝ち取ったからではなく、あの写真自体が良いと喜んでいると思うんだ」

(自国同士の勝負を制したロボ)
Photo: ISA/Tim Mckenna

次にガブリエルと対戦するのは、同じオーストラリアのイーサン・ユーイングを倒したロボことジャック・ロビンソン。
このカードは両者共に8ポイント台を出し、トータルでも男子QFで最もスコアが伸びた白熱した試合だった。

ちなみにロボは大会前にアンディ・アイアンズを追悼する意味で旭日旗デザインのサーフボードを用意していたが、韓国側の抗議により却下されたことがSNSで話題になっていた。

(ジャック・ロビンソン)
Photo: ISA/Tim Mckenna
(イーサン・ユーイング)
Photo: ISA/Tim Mckenna

カウリ・ヴァーストとジョアン・ドゥルーのフランス代表対決は、意外にもバレル勝負となった。

ローカルのカウリだけではなく、ジョアンも何度もバレルをメイクして最後には7.50をスコア。
しかし、カウリは7.33と8.00を揃え、ローカルナレッジを活かしてこの勝負を制した。

「チームメイトとヒートを戦うのは辛いね。これが競技の最も難しい部分だけど、勝てて本当に興奮しているよ。彼は最高のチューブライダーの一人で、兄のような存在。私たちは一緒に暮らし、沢山のトレーニングセッションをこなした。彼は私のサーフィンを良く知っているよ。自分には素晴らしいヒートだった。戦略が上手くハマったんだ。沢山の波に乗り、スコアを出してリズムを掴んだ。次のヒートに進めて嬉しいよ。波はかなり難しかったけど、楽しみながらサーフィンをして沢山の波をつかみ、チャンスを作った」

(チームメイト同士のヒートは辛い。勝ったカウリが号泣する場面も)
Photo: ISA/Beatriz Ryder

「とても刺激的だった。二人が全力を尽くし、戦争に行ったような感じだった。このヒートの後は感情が溢れたよ。彼がファイナルに進む方が良かったのかな。私たちは同じコーチのジェレミー・フローレスがいる。彼をとても誇りに思っているよ。今週は本当に楽しい雰囲気。素晴らしいチームで、みんなが支え合っている。朝も女子R3で同じシナリオがあった。私たちは特別なもの。強い力、マナを持っている。良いエネルギーがあり、それが私たちの強さなんだ」

男子ベスト4はガブリエル、ロボ、カウリの3人の優勝候補の他、ダークホースのアロンソ・コレア。
SFの後、銅メダルを掛けての3位決定戦が行われる。

(嘘のようにバレルをメイクしまくったカウリ・ヴァースト)
Photo: ISA/Beatriz Ryder
(ジョアン・ドゥルー)
Photo: ISA/Beatriz Ryder

東京五輪の金メダリスト、カリッサが…

(カリッサ・ムーア)
Photo: ISA/Pablo Jimenez

この日、最後に行われた女子QFの4ヒートの一番の話題は東京五輪の金メダリスト、カリッサが敗退を喫したことだろう。

フランスのジョアンがまるでホームのレユニオン島「St. Lieu」でサーフィンするようにバックハンドでスコアを重ねる中、カリッサは3ポイント止まりで2大会連続のメダルを逃してしまった。

「本当に辛いわ。全てをこのために捧げていた。一年間全力を尽くし、ツアーを離れる決断をした。ここに来て、最高のパフォーマンスを発揮するために数ヶ月を過ごしたの。夢が叶わないと、やっぱり辛いわね。でも、どれほど楽しかったかも感じている。振り返って中途半端にやってしまったと思うよりは、全力で挑戦できたことが大事だわ」

Photo: ISA/Tim Mckenna
(ジョアンとハグを交わすカリッサ)
Photo: ISA/Pablo Jimenez

「全力を尽くして、終わった時に誰かが恐れずに挑戦することを励ますことができればいいと思う。勝ち負けに関わらず、恐れずに挑戦し、失敗を恐れないで欲しい。ここまでのプロセスがとても楽しかった。海でも普段の生活でも多くの成長を感じられたし、バックサイドのバレルライディングにとても誇りを持っている。今回の挑戦で一生の内に乗れなかったと思うような波にも乗れたわ。もちろん、決勝戦に進めないことはとても残念だけど、自分のキャリアを終えるにふさわしい場所だったと思う。これが計画だった。今年の初めにツアーからの退場を発表した。少し休息を取るつもりよ。これまでの人生がずっと忙しく、自分の全力を尽くせたことを誇りを持っている。最後にイベントだけでなく、私の人生全体を通じて支えてくれた全ての人に感謝の気持ちを表したい。コミュニティが後ろにいることがどれほど心強いかを感じているわ」

(Photo: ISA/Pablo Franco) カリッサ・ムーア

ジャングルで育った子がメダル獲得なるか?

(ブリッサ・ヘネシー)
Photo: ISA/Pablo Jimenez

多くのヒートがクロスゲームとなったQFでブラジルのルアーナ・シルヴァを倒したコスタリカのブリッサ・ヘネシーはSFでタティアナと対戦する。

8歳までコスタリカの電気もないジャングルで育ったブリッサが、もしメダルを獲得すればコスタリカ初の水泳以外のメダル並びに20年以上ぶりのメダルとなり、その経歴も含めて大きな話題になるだろう。

ヒートには使い慣れた古いグレン・パングのボードを使用していた。

「このボードは本当にボロボロだけど、大好きなの。古い相棒で、膝をぶつけたり、飛行機の際に傷がついたりしているけど、今のところうまくいっている。メダルを取ったら、これを飾りたいわね。本当に難しいヒートだった。正直、最良のメンタル状態ではなかったけど、自分の秘めたやる気を見つけた。『このヒートではあまり見栄えよく勝てなくてもいい、ロースコアでも勝ち抜くことが大事』と言い聞かせたわ。サーフィンはこれが現実。チャンスはあったけど、難しい波だった。こういうヒートは、勝ち抜いた時に一番良い気分になる。やっと息をつけたわ。勝つことは、実は達成感よりも安堵感が大きいと思っているのよ」

(普段からパーソナルトレーナーを務めるカヘア・ハートがコーチ)
Photo: ISA/Beatriz Ryder

「以前にコービー・ブライアントが言っていたことを思い出した。『ある人は負けないようにして、ある人は勝とうとしているが、最高のアスリートはただその状況を理解しようとしている』という言葉。私もこのプロセスを理解しようとしている。学ぶことが沢山あり、この旅を楽しんで、ベストを尽くしたいと思ってるわ」

3年前の東京五輪にも出場して5位タイとメダルに一歩届かなかったブリッサ。その時は同じコスタリカのカルロス・ムニョスが来日に間に合わず、出場できなかった因縁もある。

「コスタリカを代表することが、私にとって全てよ。あそこで育ち、サーフィンへの愛を見つけた場所だからね。子どもたちにもっと多くの機会を提供することが重要だと思っている。才能は沢山あるけど、道を開き、可能性があることを示すことが大事。コスタリカのためにもっと多くの機会を与えることが私にとってす全てよ」

ネクストコールは現地時間8月2日の17時45分(日本時間8月3日12時45分)
すでに1日のオフが決まっており、早くても最終日は日本時間8月4日になる。

ISAパリ2024公式サイト:https://isasurf.org/event/paris-2024/

(空海)

▼パリ五輪サーフィン特設ページ

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