F+(エフプラス)
2週続けてハワイのトリプルクラウン界隈を思い出したり書いたりしている過程で、いやいや、本当にハワイを取り巻く状況って大きく変わったなぁ、と感慨深かった。
21世紀初頭まで、ハワイのビッグウエイブに乗れないサーファーなんてダメ。みたいな価値観があって、そのハワイを攻めるにはローカルたちに敬意を表して少しずつ認めてもらって……みたいな、実力主義の対極にあるような序列があったし、ビジター、特にオージーとかブラジリアンたちはツアーで、ハワイに来たら覚えてろよ、的な圧をかけられていたのもあながち冗談ではなく、いろんな意味でハワイというのは特別だった。それが今のように特別色が薄れたのにはいくつかの要素があると思う。
まずひとつは、ビッグウエイブといえばハワイ、という価値観の崩壊。世界で唯一無二の大波ではなくなり、タヒチ、マーベリックス、ナザレなど、世界各地のビッグウエイブスポットが紹介されたことだ。特にタヒチのチョープーの海面に穴が開いたような、ボッコリほれ上がった写真のインパクトは大きかった。え、実はハワイじゃないんじゃん、みたいな。
それと同時にサーフィンのテクニックもボードも進化し、CTのパイプで初のハワイみたいな選手もそれなりに試合をこなせるようになった。昔なら何年も通ってようやくパイプのピークに近寄れる、そんな感じだったけど、今やみんないきなり普通に攻める。それはビッグウエイブがハワイのものだけではなくなったことも大きいと思う。
ふたつ目にはASPからWSLに変化していくときのツアーや選手たちの管理の変化があげられる。バッドボーイズ的なヒールの排除。それをルールブックに明記していく。WSL批判しちゃダメとか、ジャッジにケンカ売っちゃダメとか、インタビューで暴言はいちゃダメとか、よく読むと本当にWSLにとってのいい子ちゃんでいなければならない。もとよりハワイといえばどちらかというとヒール系の選手が多くて、ビーチでのパンチアウト事件とか普通に起こっていたけど、WSLになったら優等生でいなくてはならなくなった。まぁ、ケリーたちの優等生ニュースクールノリが世界的に定着しつつあった時代でもあるので、この辺はあらがえない流れだっただろう。とはいえ、WSL独裁政権はけっこうハワイには大きな影響を残したと思う。サーファーの均質化というか、特殊なカラーの排除というか、徹底した契約管理によって、個性は消えていった。個人的にはつまらないなぁ、と思う。お騒がせは困るけど、いればいたでそれなりに楽しかったし(笑)。
それでもWSLとは関係のないところでサーフィンをしているローカルも多かったので、ハワイローカルのノリのようなものは一定期間保たれていたけど、今やプロサーファーとしてお金を稼ぐとなれば、WSLと無関係ではいられない世の中になってしまった。サーフィン業界全体が縮小し、動くお金が小さくなった近年、プロサーファーの存在がビジネスに与える影響を費用対効果で計算される時代になると、世界のトップ5ですら危うい現実がある。トリップサーファーとかソウルサーファーとか、キャラクターの個性とか、今思えばそれらがお金になったなんて、夢物語でしかない。でも今はランキングとは無関係のフォロワー数とかでスポンサードが左右されるから、ある意味同じことか。
3つ目はZ世代以降のサーファーたちのハワイ離れだ。パイプのバレルを抜けられなくてもワールドチャンピオンになれる、それは昔から数字的にはそうではあるんだけど、やはりリスペクトという部分で冬のハワイをやらないサーファーはダメだったものが、今は別に飛べるからいいじゃん、よそで勝てるからいいじゃん、みたいなことにもなりつつある。世界的に若いサーファーたちは誰もが冬のハワイを目指す、という時代ではないし、業界人たちも12月になったらハワイに集合という時代はだいぶ前に終わった。現状では、ツアーの中のコンテスト会場のひとつという感じで、それ以上でも以下でもなさそうだ。それはスケジュールの変更で、シーズンの最終戦ではなくなったことも大きい。
ハワイでのサーフィンを取り巻く環境は大きく変化したと思う。トリプルクラウンにしろエディ・アイカウにしろ、今や観光資源だ。アメリカ本土や世界中から、サーフィンを見たことがない人たちがやってくる。ビッグウエイバーのプライドをかける場所、というストイックなものとはだいぶ価値観が違ってきている。そしてそれらのイベントをしっかり支える経済力は、今のサーフィン業界にはない。あのワイメアのエディ・アイカウですらスポンサー探しに四苦八苦する時代だ。
それでもハワイの波は相変わらず美しいし、スリリングだし、そこをホームとすることにプライドを持つのは正しいと思う。ただ、時代と共にその価値観は確実に変化していると思う。