前田マヒナと言えば、東京五輪の日本代表に近いトップコンペティターだが、その一方で16歳でポルトガルのナザレに挑戦するなど生まれ育ったハワイの土地柄もあり、ビッグウェーブにも情熱を注いでいる。
2020年11月に開催された五輪最終選考会となる2021年5月の『ISAワールドサーフィンゲームス(WSG)』の出場枠をかけた『ジャパンオープンオブサーフィン』の時もメディアの前で「今年はビッグウェーブに挑戦する」と公言していたほどだ。
その前田マヒナがオアフ島・ノースショアのアウターリーフにトライした映像を自身のYouTubeチャンネルで公開した。ハワイ語で“海の女性”という意味の、動画タイトル『Na Wahine O ke Kai』の由来とは?
動画の概要と、前田マヒナ本人へのインタビューを紹介する。
『Na Wahine O ke Kai』
自身もインストラクターを務める「Sunset Beach Jiu-Jitsu」でキッド・ペリグロからビッグウェーブに必要なトレーニングを指導され、準備を整えた彼女は誕生日スウェルと喜びながらノースショアのアウターリーフへ向かい、巨大な波に乗る。
「今年はビッグウェーブに挑戦すると決心したの。自分をアピールしたいと思っている。それは簡単なことではない。自分を励ましながらって感じよ。興奮と恐怖が入り混じったような感情。それが普通の人間の感情だと思うの。このプロジェクトに向けての準備は精神的にも肉体的にも厳しいものだった。キッド・ペリグロ、マーク・ヒーリー、パオロ・リスタ、ロス・ウィリアムスと一緒にトレーニングの過程を経たことは最高の経験になったわ」
キッド・ペリグロが用意したプログラムは、水中での呼吸法や、野外でのフィジカルトレーニング、ブラジリアン柔術など多岐にわたった。
それらをストイックにこなすことでビッグウェーブに対する自信も積み重なってきた。
「普段のコンテストの準備と似ているわ。このコロナ禍を利用して自分自身を整え、トレーニングをして大きな波に乗れるという確信を得たかったの。とても緊張しているし、大きな不安もある。私達は多くの条件に翻弄されてきたわ。だから、どうしてもやり遂げたかったの。超ラッキーなことに私の誕生日の2日前にウネリが入ったきたのよ。それには早めの誕生日プレゼントとして感謝しているわ」
前田マヒナがオアフ島・ノースショアのアウターリーフにトライするというこのプロジェクトの映像には彼女自身のインタビューに加え、キッド・ペリグロ、マーク・ヒーリー、パオロ・リスタ、ロス・ウィリアムスが登場している。
「このプロジェクトに参加した時、素晴らしい指導者に恵まれたと感じたわ。それは人生にも言えることよ。次の世代の人達のために私自身がそのような人になりたいと思っているの」
前田マヒナインタビュー
Q. 今回ビッグウェーブに挑むにあたって、動画に登場する4人にはどんなことを教わった?
A. キッド・ペリグロは、ジナツチカナチュラルやブラジリアン柔術、護身、呼吸法、プールトレーニングなどフィジカル面のコーチをしてくれた。ロス・ウィリアムスはフルタイムのサーフコーチ。マーク・ヒーリーにはビッグウェーブについて教わり、パオロ・リスタにはビッグウェーブのこととビッグウェーブアシストのことも教わったわ。
Q. 今回挑戦したハワイの波と、ポルトガルのナザレの波とはどのように違うと感じる?
A. 今回のハワイの波はかなりアウトだったの。多分1.5マイル(約2.4km)くらいかな。波はピークが山みたいにシャープなAフレームだった。波のパワーとか美しさはナザレと似てるかな。ナザレは巨大なビーチブレイクで、カレントもそんなになくて岸にかなり近い。
でも、どちらのスポットでも母なる自然に対峙して、アウトではオープンマインドでいなきゃいけないという点は共通している。
Q. 周りでビッグウェーブに挑戦している女性サーファーはいる?
A. ビッグウェーブに挑戦している女友達は何人かいるわ。なかにはビッグウェーブサーファーとして認識されていない人もいる。女友達の何人かには本当に勇気づけられた。でもハワイアンのビッグウェーブサーファーは本当にスペシャルな存在で、男性サーファーにも背中を押されているわ。
Q. 今後ビッグウェーブのコンテストに出場する可能性は?
A. もし出場させてもらえるなら挑戦してみたい。そうなったら事前にかなり入念な準備をしたい。その道に軽く進む人もたくさんいるけど、準備無しで挑めるほど簡単なものじゃないと思っているの。もし参加できる機会がもらえるなら、本当にハードにトレーニングを積んで勝つつもりで挑むわ。“勝つ”というのは、大会に勝つという意味かもしれないし、生き延びることにかつという意味かもしれないけど。
Q. Chuck Andrusのハンドシェイプガンを乗ることになった経緯は?
A. “チャックおじさん”は信じられないぐらい素敵な人。ハワイの習慣では血縁がなくても自分より年上の人を“おじさん”と呼ぶの。おじさんのボードを始めて見たとき何かスペシャルなものを感じた。ビッグウェーブに挑戦すると決めるずっと前から、いつも彼のボードに乗ってみたいと思ってた。
チャックおじさんはハワイアンで、英語とフランス語とハワイ語と日本語が喋れる。初めて会った時から意気投合して、私の父のことも長い間知っているの。彼はレジェンドでもあり、私の挑戦を信じてくれている。おじさんはいつも日本語かハワイ語で、賢明な言葉を送ってくれる。その中でも一番記憶に残っているのは、このプロジェクトのタイトルでもある「Na wahine O Ke Kai」という言葉。「海の女性」という意味よ。
賞金が同額になるなど他のプロスポーツ界よりも男女平等が進んでいるサーフィン界。ビッグウェーブの世界でも年々女性サーファーが台頭してきているが、前田マヒナも新たな進むべき道を見つけたようだ。
(空海)