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「スタイルマスターにしてレールワークの女王、ステファニー・ギルモア」-F+

波情報BCMの会員特典「BCM x F+ 2022年カレンダー」では2001年から2021年までのワールドチャンピオンを紹介。各月の採用写真について解説するF+つのだゆき編集長オリジナルコラム企画を、THE SURF NEWSでは特別に翌月10日頃に公開します。今回は4月を飾ったステファニー・ギルモアについて。

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F+(エフプラス)

ステファニー・ギルモアは1988年1月29日生まれなので、もう34歳になったわけだ。彼女の人生の半分をCTサーファーとして見ているのかと思うと、ちょっと感慨深いものがある。
あぁ、その前にひとつ謝らなくちゃならないけど、カレンダーのステファニーの名前の下にワールドタイトル獲得年が記されているんだけど、ひとつ、2010年が抜けていますね。ステファニーは7Xワールドチャンプ。お詫びして訂正します。

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ゴールドコーストでの優勝(2005年)Photo: snowy

初めて彼女を見たときには確か17歳とかだったと思う。ゴールドコーストの試合でワイルドカードで登場した高校生。この試合のために特別に学校から休みをもらって出場したという話を聞いたときには、本当にびっくりした。今でこそ高校生ぐらいの年齢でプロレベルのサーフィンなんて普通にあるけど、17年前にはまだまだそんなことが少なかったから。そしてそのままなんとCTで初優勝をあげる。2位はメガン・アブボだった。この時は優勝と同時にロンゲストバレル賞も手にしている。のびやかなマニューバーだけでなく、マシンウエイブのスナッパーロックスやキラのバレルで培ったチューブライドの技術も、高校生とは思えないレベルの高さだった。

会場だったスナッパーロックスのあるクイーンズランド州からボーダーを少し南に下がったニューサウスウェールズ州、キングスクリフの出身で、もちろんスナッパーは彼女のホームブレイクのひとつだ。
このGCエリア出身のサーファーというのは、ワイルドカードで優勝の宝庫というか、ジョエル・パーキンソン、ミック・ファニング、そしてステファニーとみんなこの辺のサーファーで、ワイルドカードでCTに出場し、そのまま優勝している。まぁ、このエリアというのは過去のワールドチャンピオンがゴロゴロいるところで、しかも現役のCTサーファーも日常的にみられる場所でもあるので、レベルアップのためのお手本には不自由しないだろうし、地元の諸先輩が同じコンテストに出ているので、余計な緊張をすることもないかもしれない。その辺が有利に働くのかどうかはわからないけど、この集中度はちょっと特異かな、と思う。

サーフボードにはリップカールのディケールが(2009年)Photo: snowy

現在はクイックシルバーのステファニーだが、ジュニアからデビュー当初はリップカールの秘蔵っ子で、将来を期待されていた。
17歳の頃から長身で手足が長いことを生かした、ダイナミックでパワフルなカービングは型破りで圧倒的だったし、そのスタイルは無駄な動きやクセがなく本当に美しかった。ヒートで出てくるたびにジョエル・パーキンソンそっくりなスタイルだな、と思った。何しろレイン・ビーチェリーとかソフィア・ムラノビッチとか、現コミッショナーのジェシー・マイリー・ダイヤーが現役でツアーにいた時代だ。女子のヒートは休憩ヒートという、今ならジェンダー何とかに思いっきり引っ掛かりそうな女子冷遇時代。リサ・アンダーソンの次、そのまた次の世代が起こす女子サーフィン革命前夜だ。

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2007年、ルーキーイヤーでワールドタイトル獲得 Photo: snowy

その後高校卒業して順調にクオリファイ、2007年にルーキーイヤーを迎える。そしてルーキーイヤーでワールドタイトルを取る。これはたぶん過去ケリーとステファニーだけだと思う。ケリーは翌年少しランキングを下げたが、ステファニーはそのまま2010年までタイトルを4連覇する。ちょっと考えてみてください、これすごくないですか? CT入りしてから4年間、ワールドタイトルしか取ってないんですよ。ずっと世界一。ハンパないですよね。

当時のことを思い返してみると、それはごくごく普通というか、そうなるよね、という結果だったと思う。とにかく今までの女子サーフィンの枠を大きく破ったダイナミックなパワーとフロー、そして限りなく滑らかで美しいスタイルは他の女子サーファーにはないものだった。その上笑顔も魅力的で、ハッピーギルモアとか言われて大いに人気を博し、オーストラリアでは超有名人になった。有名人になるというのはリスクも伴うことがあり、彼女の場合は2010年の年末に自宅前で襲われて、左手首骨折という大ケガをしたりして、しばらくサーフィンから遠ざかるような時期もあった。

パイプライン(2010年)Photo: snowy

4連覇のあと、ステファニーvsカリッサ時代がやってくる。2011年はカリッサにその座を譲って3位、しかし2012年には奪還、翌2013年はカリッサ、2014年にはステファニーが奪還と、まさにこのふたりの間をタイトルが行き来した。
その後しばらくトップから遠ざかるが2018年に7度目のタイトルを取る。

ベルズビーチ(2016年)Photo: snowy
Jベイ(2018年)Photo: snowy
ベルズビーチ(2019年)Photo: snowy

ステファニーのトレードマークともいえるカービングの写真を過去から並べてみると、上がっているスプレーがどんどん縦に、どんどん分厚く、大きくなっているのがわかる。ワールドタイトルを取った後も、そして現在もまだ進化を続けている。

Photo by joli

このカレンダーの写真は昨シーズンのマーガレットリバーのもの。

顔写真は2017年のベルズの表彰式でのものだと思う。

サーフィンはデビューから17年間、変わらずの美しいスタイルに、最近はこのようなスナップ系のシャープな技も組み込んできている。このね、スナップしても止まらないのがまたすごいところだと思う。普通こうしてスナップピシッって行くと上で止まるんだけど、ステファニーの場合はここからのレールの切り替えがスムーズで止まらない。スタイルマスターにしてレールワークの女王。オープンフェイスの波で真価を発揮する、止まらない、流れるような優雅なライン、それがステファニー・ギルモアの最大の魅力だ。

F+編集長つのだゆき

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