シリーズ「サーフィン新世紀」⑤
海に漂う50,000,000,000,000,000個のゴミ。
人間はゴミを作る動物だ。ざんねんだけど人がゴミ作らない日はない。
コンビニで買い物をしてそのプラバッグを10歩も歩かないうちにゴミ箱に捨てる。そんなナンセンスな経験がじつは僕にもある。
自然に分解しないプラスチックのゴミは深刻だ。しかもプラゴミは猛烈な勢いで河川や海に捨てられ続けている。そのゴミの総数がどのくらいか知っているだろうか?なんと5京個(1兆の5万倍)以上のゴミが海に漂っているという。しかも海へのゴミの投棄のなんと85%がアジア圏という恥ずかしい調査結果もある。
これをどう解決したらいいのだろうか?捨てたゴミは拾う以外に方法はない。サーファーは誰かが海に捨てたゴミを拾い続けてきた。ビーチクリーンで綺麗になった海岸は美しく清々しい気持ちにさせてくれる。
でもパドルアウトしたらどうだろう。海に漂うゴミを見ない日は無い。ゴミを見ると悲しい気持ちになるのは誰もが同じ。
そのゴミをなんとかしたいという気持ちは僕の心の片隅にもあった。そしていつの頃だったか、海に漂うゴミを拾う決心をした。
サーフィン中にゴミを拾って小さくたたみ、ウェットスーツの袖(そで)や裾(すそ)に挟み込んだ。夏になるとサーフトランクスのワックスポケットに漂うゴミを入れた。SUPでクルージングを楽しむときには網袋を肩にかけ、漂うゴミを見つけるとパドルで拾って網袋に入れた。
このやり方をもう何年も続けている。わずらわしさのないこのやり方は試してみると分かるけれどすごく簡単。だから続けられる。ゴミ拾いはこれなら続けられるぞ、という気持ちが大切だと思う。
でも砂浜でゴミを拾うのは、僕にとってはじつは簡単なようで難しい。片手でサーフボードを抱えているし拾ったゴミをどう処理していいかも悩むからだ。自転車の場合は片手運転になってしまう。海岸にはゴミ箱は無いし、ポケットに入れて持ち帰るとなると、そのためにサーフボードをどこかに置かなければならない。砂まみれのゴミをポケットに入れるのもなんとなく嫌だ。サーファーは海から上がったときにできるだけ砂が体に付着しないように心がける本能のようなものがある。
でも海に漂うゴミならば、海水に洗われているから嫌な感じはない。汚れているように見えてもそれは藻が付着しているだけで汚くはないし、嫌ならば他のゴミを選べばいい。それにウェットの袖や裾にプラごみを突っ込んでもサーフィンに支障はない。着替えるまでその存在を忘れてしまうほどだ。
この美化運動(というほどではないけど)を世界中のサーファーが行ったら少しは海が綺麗になるんじゃあないかなといつも思っている。
例えば日本で1日に一万人のサーファーが海のなかで一つのゴミを拾ったら、たった1日で1万個のゴミが海から確実に消える。海に漂うゴミを見つけたらこの美化運動を思い出して欲しい。やってみると砂浜でゴミを拾うよりもずっと簡単なことに気づくはず。
-この難問題を解決するかもしれない大プロジェクト
しかしこのようなミニマムな運動だけではプラゴミの問題は現実的には解決しない。もっとアクティブにかつマキシマムに海洋のゴミを処理する方法が必要だ。人類の未来を左右するこの難題を解決するのはこれまで不可能と思われてきた。
ところがすばらしいアイデアが実現のあと一歩手前まで来ていることを最近知った。
このアイデアの話は数年前に遡る。オランダのボヤン・スラット(Boyan Slat)という名の高校生が、海流を利用して海のゴミを集める装置を考案しクラウドファウンディングを活用して世界に発信した。その結果一千万円ほどの開発費を集めることができ、プロジェクトを推進することが可能になった。
このプロジェクトはSNSなどで話題になったからご存知の方も多いと思う。でもここまでは『絵に描いた餅』。実現するにはさまざまな壁が待ち受けているからこの高校生がどこまでがんばれるだろうかと私は当時思っていた。海流を流れるゴミをキャッチするというアイデアはすばらしいが、その装置の開発だけでも莫大な資金と時間と人材が必要だからだ。
海のゴミについて調べているうちにこのプロジェクトを思い出し、どのようになったのか調べてみた。するとこの計画が関係者の努力によって今年中には実現するということが分かった。プロジェクトの名前はザ・オーシャン・クリーンナップ:THE OCEAN CLEANUP
このプロジェクトを簡単に説明すると、太平洋の海流のゴミが溜まりやすいところに巨大な網を張って流れてくるゴミをキャッチするというものだ。太平洋には太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Patch)という無数のゴミが集まるエリアがありそこにこの装置を張り巡らすという計画だ。
この装置は円筒形の長いアーチ型でその下には特殊な網が垂れ下がっている。このアーチの長さは約1000m。シーアンカーで海上を漂うようになっているこの装置は、海流よりゆっくり漂うために海流に乗って流れてきたゴミを自然にキャッチする。
キャッチできるゴミの大きさは1平方センチのマイクロプラスチックから10平方メートルくらいの漁網までとその幅が広い。ゴミは定期的に船で回収し陸に水揚げされ再資源となる。この装置は複雑な機械を駆動させてゴミを拾うわけではなく自然の流れに任せるのだから駆動させるエネルギーも必要なく太陽光だけで賄えるという。
計画ではこの装置を、海流の流れによってゴミの集まるところに無数に設置するという。計画では5年で海に漂うゴミの半分を処分できるという。
回収したプラスチックは再生利用するが数十億ドルの資源としての価値があり、結果的にはプロジェクトの収支は黒字になるという。
今年から本格的に始動、そして最終的には2050年までに海のゴミを0にするとしている。
このプロジェクトのドネーション等、詳しい内容を知りたい方は下記URLまでアクセスください。
https://www.theoceancleanup.com
(李リョウ)