今年8月WSL(ワールド・サーフ・リーグ)のCEO(最高経営責任者)に就任したイギリス人女性のソフィー・ゴールドシュミット(Sophie Goldschmidt)が、2018年ツアースケジュール発表の同日(現地時間11/21)にサーフィン系メディア各誌との電話会議を実施した。
就任と同時にロンドンからサンタモニカに引っ越したばかりという彼女は、WTA(女子テニス協会)、NBA(米ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、RFU(英ラグビーフットボール協会)といった、数々のプロフェッショナルスポーツの世界展開や商業化の先頭に立ってきたバックグラウンドの持ち主だ。
この度の電話会議では、メディア側が事前にメールで送った質問に対しての回答であっため、追加質問はできないスタイルではあったものの、今後のWSLの戦略とともに注目が集まった。
その会議のハイライトを以下にお伝えする。
あなたのこれまでのスキルや経験は、プロサーフィン界に何をもたらしますか。
この3ヶ月で、私のたくさんの経験がより関係性のあるものになってきています。私はとても多くのことを学びました。これまではサーフィンのファンでしたが、新たに業界人となり、(これまで関ってきた業界とは)異なる機会(が広がっているサーフィン分野のこと)を学ぶのはとても魅力的です。私は、全てのスポーツは互いに学びあえるところがあると思っています。
ただ、サーフィンは比類のない好機に恵まれていて、だから私はこの役に就いたのです。サーフィンは、他のスポーツでは成し得ないことができます。世界中のファンへのアピールの仕方はとてもユニークです。私たちは、このスポーツの未来をとても楽しみにしています。私は、この(WSLの)組織も一般のサーファー達も、サーフィンというスポーツをいかに成長させていくかということに対して、とても革新的で斬新な姿勢で取り組んでいると思っています。いかにサーフィンを将来的に成長させていくかということと、いかに経済面やその他の点で持続可能なスケジュールを組めるか、それらを両立させていくかということが、戦略上の大きな焦点です。
現時点でのプロサーフィン界の強みは何ですか。
それは、(私達がビジネスの対象としている)サーフィンというものの核の話になると思います。世界のトップにいるアスリート達は、とても魅力的です。彼らは命がけで戦っている。彼らの勇敢さとスポーツマンとしての才能は、もっと世界に広められるべきだと思っています。彼らの名を、多くの人にとってより身近なものにしていくことは、私達のひとつの使命だと思っています。
今年新たに追加した2つのポイント(ケリースレーターのウェイブプールとバリ)はとても魅力的です。加えて、サーフランチ(ケリースレーターのウェイブプールの名称)とブロードキャスティング(ライブ配信)の技術はとても革新的で、これらはサーフィンにとって良い影響を与えるでしょう。また、オリンピックは、サーフィン市場を押し広げるまたとない魅力的な機会だと思っています。
私達は、いかに最大のインパクトを生み出せるか、常に研究し集中していかなければなりません。つまり、サーフィンのこれまでの伝統や価値を守りながらも、より多くの人をサーフィン惹きつけるためにいかに境界線を押し広げていくか、そのバランスを見出さなくてはいけません。このすばらしいスポーツを、さらに成長させていきたいのです。
あなたがより推進していきたい領域は何ですか。
2018年のスケジュールについての協議は、私が就任する前から始まっていましたが、私自身もその議論に多くの時間を費やしました。大会の開催スケジュールというのは、私達がサーフィン分野において進化させたいことの中核です。今回の決定については、長期的な変遷の中で重要な一歩だと思っていますが、この先さらに色々な変化が起こるでしょう。しかし、私達はいかにその変化を起こしていくべきかについて、とても深く考えています。
私達は、コンテンツ提供とその配信を拡大させていく機会に恵まれたと思っています。ファンの方々にイベントのライブ映像を無料で見ていただけているということはとても重要ですが、私達はコンテンツ提供の領域をさらに広げたいと考えています。
また、選手たちとより密接に協力して、彼らの知名度を向上させることにも注力していきたいです。限られたコミュニティの中ではとても有名な彼らも、その他一般のコミュニティにおいてもより知名度をあげることができると思っています。スポーツを成長させていくにあたり、ファンが選手と感情的に繋がりを持つことはとても有効なのです。
どのようにしてWSLを収益化させていきますか。
私達はとても幸運な立場にいます。私達は売上を拡大し続けています。また、WSLへの需要も拡大し続けています。私達の出資者の多大な協力により、サーフィンをいかに成長させていくかについてとても戦略的に進められています。長期的視点から、サーフィンを持続的に発展させていくために必要だと思われる分野については、これからも多額投資をしていきます。長期的視点をもちながら、このような立場で関われることを、とてもうれしく思います。
その他にオーディエンスに提供できる機会にはどのようなものがありますか。
私達のコンテンツ、特にデジタル配信においては、視聴者層がとても驚異的な数値を示しているのです。ここ2~3年の伸びは目覚しいものがあります。私達をフォローしている視聴者層の大半はとても若く、その他多くのスポーツはこの人口統計学的な(ピラミッド型の)分布を羨ましがるでしょう。
だから、私達はとても強い立場にいるのですが、一方で私達はハードコアなサーフファン以外にもサーフィンを広めていきたいと強く思っています。一般層というのは、私達(ビジネス)にとって常に重要な存在です。
どちらか一方だけを重要視するということではありません。私達はこれからもコアなサーフファンを大切にしていきますし、彼らが興味のあるコンテンツも提供していきます。しかし、カジュアルなファンにサーフィンにより興味を持ってもらうには、他の方法も有効だと思うのです。
BWT(ビックウェーブツアー)、サーフランチ、2020オリンピック・・・その次にプロサーフィン界で何が起こると思いますか
まずは、それらの目標を達成していくだけでも、まだまだ長い道のりが待っていると思っています。BWTは昨年からまだ始まったばかりで、私たちがとても楽しみにしているマーベリックも追加されたところです。
サーフランチについては、私達はまだテストイベントを1回行っただけで、来年は初めてCT戦も実施する予定です。きっとそのイベントから多くのことを学ぶでしょう。私達は、今もなおサーフランチのテスティング、調整、テクノロジーの改善を続けています。サーフランチからは、「イベント実施」という点で多くのことを学ぶことになると思います。
2020オリンピックは、とても大きな転機となるでしょう。私達が今まで関わってこなかったマーケットとも関わることができるようになると思います。
また、繰り返しになりますが、コンテンツ配信メディアの拡大、いかにより多くのオーディエンスを囲い込んでいくかと、ライフスタイル分野に事業拡大していくかということは、トップアスリート達のコンペティションと同じくらい重要なことと位置づけています。
ケリースレーターウェーブカンパニー(The Kelly Slater Wave Company)の事業を成功させるには、おそらくたくさんの資本を必要とするでしょう。あなたは、この好機に対して潤沢に投資する準備ができていますか?また、そうだとしたら、その資本はどこから得られるのでしょうか?
私たちは、ケリースレーターウェーブカンパニーについて、とてもしっかりとした事業計画を立てています。現時点では試験的な設備ですが、それはまだこの事業が初期段階だからです。このウェーブシステムをより本格的に展開していくために、多面的に可能性を探っています。嬉しいことに、現時点で多くの関心を寄せていただいています。
現在、6つのプールの建設計画があり、それぞれ既に始まっているかもう間もなく始まります。それぞれの市場によって、またWSLがそのプールをどのように使おうとするかによって、アプローチの方法はかなり異なります。それぞれの計画は検討するべき事項が多くあり変動性もありますが、幸い資金の点においては、巨額の出資サポートがあり、また多くの投資先も候補があります。
Leemore(サーフランチのある米カリフォルニア州の街)に立ち寄った人は皆とても感動していきますが、そこまでこの事業に対して急いでいるわけではなく、入念に戦略を練っています。サーフランチがサーフィンにとってどれ程意味のあることになるかという野望は、加速度的に大きくなるばかりですが。私達は、これからも海にコミットし続けるし、海で開催するイベントが重要であるということに変わりはありません。
しかし、このウェーブカンパニーはゲームチェンジャーになるだろうということを、私たちや選手たちは実感しています。9月のテストイベントに参加した多くの選手は、その後もプールを訪れ、非常に多くの好評・フィードバックが寄せられています。
ウェイブプールネットワークはどのようにしてイベントに組み込まれるのでしょうか?そして、そのネットワークは、完成したらどのようなもの(規模)になるのでしょうか。
ちょうど今、ウェイブプール事業の本格展開について計画を立てているところです。次の9月に初めてCTイベントを開催するとアナウンスしたところです。2018年以降、より多くのイベントを開催したいと思っています。しかし、実施規模や回数、スケジュールについては未定です。
サーフランチで行われるCTイベントでは、評価基準や方法がどのようなものになるのでしょうか?
何も詳細は決まっていません。(サーフランチ用の)新しい評価方法については、サーファーや委員会などと多くの意見交換をしながら、現在詳細を詰めているところです。新しく出来上がる評価方法については、自信を持っています。
海で開催されるイベントとは異なる評価方法になる予定です。
アスリートを評価するという観点では、もちろん公正公平なルールであることが求められますが、観客にとっても盛り上がるような評価方法である必要があると思っています。
ファンがサーフランチのイベントに参加する機会はありますか?
はい。一般公開イベントを計画中です。
2つの有力候補地が来年のスケジュールから外れましたが、どのようなお考えでしょうか?
開催地を決める過程で、かなり議論を費やした議題です。これは周期的に起こることで、過去にも似たようなことがおきました。フィジーはこの10年で2-3回候補から外れました。ほとんどのメジャーイベントはいつもと同じ場所で開催する一方で、いくつかはローテーションで交代することが望ましいと思っています。
2018年のCTスケジュールからフィジーを外すにあたり、何が考慮されたのでしょうか?
投資資金の不足が最大の理由です。私達の期待とは裏腹にフィジー政府からのサポートが得られませんでした。しかし、私達はバリ島クラマスでの開催を心から喜んでいます。私はまだ行ったことがないのですが、来年行くのがとても楽しみです。
来年、ウェブキャスト(ライブ中継)に課金する予定はありますか?それとも、全イベントが無料で見られるのでしょうか?
来年度のWSLの全イベントは放送されます。そして、私たちのプラットフォームでは無料で提供予定です。
WSL内部からはソフィーに対して期待の声が上がっている一方で、世間ではライブ配信の課金なども含め、サーフィンを商業化していく姿勢に対して懐疑的な声もあがっているようだ。WSLの今後の動向に、引き続き注目していきたい。
COVER PHOTO: WSL