(インタビューはサーフランチの施設内で行われた)

【前編】ケリー・スレーターがサーフランチ誕生の真相を語る

2015年の年末に公開されたケリー・スレーター開発のウェーブプール『サーフランチ』

カリフォルニア内陸部の「Lemoore」に建設されたこの施設は一般公開されなかったが、2024年に遂にアラブ首長国連邦(UAE)に「Surfing in Dubai」として商業施設がオープンした。

9年を経て世界各地にウェーブプールが建設された今でも革新的なシステムとして君臨している『サーフランチ』

首謀者であるケリーがサーフランチ誕生の真相などについて「CBS 8 San Diego」のインタビューに答えた。

最初に、この波のビデオがインターネットに登場した時の話をしたい。 どこにある波なのか、いろいろと憶測が飛び交ったよね。オーストラリアだとか、世界中の色々な場所が候補に挙がっていたけど、自分は周りの木々を見た時、セントラルカリフォルニアの農地に近い場所じゃないかと思ったんだ。 ずいぶん時間がかかったよね。何故こんな完璧な波を作れると思ったのか、その始まりについて教えてください。

波の最初のアイデアは、ドーナツ型の波を作ることだった。

中央に島があるドーナツのような形のプールで、永久に島の周りを波が回るようにして、常に2~3つの波が動いている状態を想定していたんだ。

でも、水の流れやその他の制約があって、少し方向を変えることにしたんだ。
そのアイデアに取り組み始めたのは2005年頃で、ジェフ(サーフランチの開発に関わった技術者)と出会ったのは2007年だったと思う。
それから一緒に仕事を始め、技術の研究を進めたんだ。

他にパートナーの一人に、当時クイックシルバーのCEOだったボブ・マクナイトがいた。
彼はUSC(南カリフォルニア大学)の卒業生で、「大学に行って、波のエネルギーについて教授たちと話してみたらどうか」と提案してくれたのさ。

そこで大学に行き、スタート地点に立ったんだ。

最終的には、教授の一人であるアダム・フィンチュムをフルタイムで雇用した。
彼はこのアイデアの科学的な基盤を沢山考案してくれて、どうすればスウェルを作り出せるかという問いに答えてくれた。

私は「このような波が欲しい」と伝え、彼らがそれをどう実現するかを考えた。
完璧なエネルギーを持つスウェルを作り出し、そのエネルギーを保ちながら散逸しない波を作るというのが目標だった。

科学的な用語では「孤立波」と呼ぶんだ。
サーフィンの世界では「ウィンドスウェル」や「グラウンドスウェル」という呼び方をする。

ウインドスウェルは、風によって局所的に発生したもので、波はバンピー 、チョッピーと言って不規則な状態。

グラウンドスウェルは、何千マイルもの距離を移動しながら整った形を作り、統一されたパターンや形状、そして波の長いラインを持つ。
つまり、エネルギーが一体となって均一に作用している状態なんだ。

アダム(開発者の一人)がそのソリトン、孤立波を作り出す方法を見つけ、当時の私たちの特許のベースになった。

そこから一つずつ物事が進んでいき、ジェフと私はこの土地を見つけたんだ。
以前はベーカーズフィールド(サンタバーバラから内陸に入った場所)にある別の土地を購入しかけた。
そこは魚の養殖池だった。

ここを建設する際、作業中の仮称は養魚池にした。
それは冗談みたいな名前で、周囲に隠す意図もあったよ。
実際、「Fishpond(養魚池)」と書かれたロゴやTシャツも作った。
作業に携わる人に着せていたんだ。

作業員の多くはサーフィンをしていない人だったけど、数人は怪しんでいたよ。
「怪しい養魚池だな」と気付く人もいた。
冗談みたいな話(英語でfishyは怪しい、うさんくさいのスラングもある)だけどね。
彼らは少し懐疑的だったけど、それも含めて面白かった。

この土地で作業を始めたのは、確か2013年か2014年頃で、2015年の終わりに完成した。
そして、遂に初めて波に乗る日がやってきたんだ。

(2015年末に公開された最初の一場面)

「初日」に一緒にサーフィンしたのがサンディエゴ出身のトッド・グレイザー(写真家)だった。
ちょっと宣伝しちゃうけど、トッドとは最近本を作った。

私たちは長年一緒に仕事をしてきて、写真やその他の作品をまとめた本を出版したんだ。
大きなエピソードの一つとして、このストーリーも含まれているよ。

トッドは、この土地と波の開発全過程に関わっており、初日の様子も全て撮影した。
だから、もう9年も一緒にやっていることになるね。

最初は小さなスケールから始めたんだよね?最初は小さいもので試して拡大して実物大するのは全く別次元の話だよね?

波のサイズにはある種の閾値(いきち・境目となる値)があり、それを超えないと適切にスケールアップできない。
閾値は約8インチ(約20cm)ほどかな。
そのサイズ以上であれば、波の物理的な動きはスケールアップしても正しく機能する。
ただし、もし1~2インチ(約2.5~5cm)や3インチ(約7.5cm)の波を作った場合、同じようにスケールアップさせることは難しいんだ。

ある種の閾値があることを私たちの科学者たちが発見し、理解した。
そして、それをベースに開発を進めた。
また、私たちは円形のプールではなく直線的なプールを作ったという点も大きな違いだった。

スイッチを入れる決断のタイミングについてだけど、「よし、いよいよ行こう」とスイッチを入れるその瞬間、これがうまくいくという確信はあった?それとも、「さあ、この仕組みが本当に動くか試してみよう」という感覚だったの?

私たちは膨大な金額、時間、そして多くの労働時間を費やした。

多少の懐疑的な気持ちも混ざっていた。
適度な心構えを持つことって大事だよね。

『疑う』という言葉は使いたくないけど、もしうまくいかなかった場合に備えて、それを受け入れる準備はしていた。
ただ、私たちはこれがうまくいくと非常に自信を持っていた。
正直、自分は全く疑っていなかったんだ。

この波はもちろん機械で作られたもので、機械的だけど、それを『サーフィン界の第八番目の不思議』と呼んでいる。あなたはサーフィン界で史上最高のサーファーで、最高の仲間たちもいる。その仲間やツアー外の人々はどんな反応だった?

とても興味深い反応だった。

これまで何百人もの人々がここに来てくれて、『人生最高の日だった』『子どもたちや家族と一緒にサーフィンするのがとても楽しかった』という感じだった。

ここは、友達と一緒にサーフィンするには最高の場所の一つだと思う。
しかし、競技的な観点では、多くのサーファーたちは気に入らず、ファンの間でも賛否両論だった。

サーフィンする場所として見ると、ここに来た人たちは全員が大好きだと言ってくれる。
全員が口を揃えて『素晴らしい』と言う場所。

この施設には、きちんとした役割があると思うんだ。
競技的な面で言えば、プールで同じ仕様の波を何度も再現するというアイディアは、個人的には興味深いと思っている。なぜなら、それによって公平な競技環境が生まれ、純粋に技術を評価することができるからね。

一方で、自然の中で行われるサーフィンにはまた別のスキルが必要になる。自然相手の競技では、未知の要素が絡むため、それが競技としての面白さを生み出すんだ。

それが、この場所に対する意見が分かれる理由の一部かもしれない。
また、この波は特定の種類のサーフィンやサーファー、体格により適している部分もあると思う。

この完璧な波だからこそ、自分が改善すべき点や取り組むべき課題が明確になると思う。
完璧な波の中でミスが起きるとしたら、それは波のせいではなく、自分自身のせいだからね。
この場所はトレーニングに本当に最適だし、友達と一緒に楽しむのに最高なんだ。

ここに友達を招待して、初めてこの波を体験する彼らの姿を見ることや、以前来たことのある人たちがまたここに戻りたいと夢中になるのを目の当たりにすることが大好きな時間なんだ。

本当に楽しいよ。
実際、自分でサーフィンするよりも、他の人たちがサーフィンしている姿を見たり、その体験談を聞いたりする方が好きかもしれないね。

まるでオズの魔法使いのようですね。魔法のようなものを作り上げて、今では皆がそれを楽しんでくれる様子を聞いたり見るのが楽しいという感じだよね。

確かに。ジェフと私は、ここを訪れた人たちがどれだけこの場所を楽しんでくれているかを見て、大きな誇りを感じている。

これを実現するために、主に地元の人々を雇用したと話していたけど、南カリフォルニアからも人材を集めている。優秀な人材をこの地域に引き込み、このプールで働かせるという視点について教えて。

そうだね。

ここで働いている、またはこのプロジェクトに関わってきた人たちの多くは、サンディエゴやその周辺地域の出身なんだ。
サーフィンに関わるプロジェクトを行う以上、やはり海岸近くの人たちが必要になる。

それに、すでに知識や経験がある人たちを雇うのは自然な流れだった。ここで働いているサーフィンのインストラクターやライフガードなどの多くは、そのような背景を持つ人々だよ。
ここで働いている人たちはサンディエゴ周辺の人が多い。
更にここに来る多くのフォトグラファーたちもサンディエゴ出身の人が多いんだ。
彼らは、1日単位で雇われることが多い。

偶然というわけではないけど、ジェフもそのエリアの出身だね。
自分はサンクレメンテに泊まっている。
施設やオフィスも長い間サンディエゴに拠点を置いているので、サンディエゴ周辺からの影響がかなり色濃く反映されていると思うよ。

後編に続く。

(空海)

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