アラブ首長国連邦の首都・アブダビのフダイリヤット島にあるウェーブプール、サーフアブダビで開催されたCT第2戦『Surf Abu Dhabi Pro』で起きたある事故は当事者のフィリッペ・トレドの素晴らしいスポーツマンシップによって炎上せずに解決した。
その事故が起きたのは、Round of 16。
日本の五十嵐カノアとフィリッペのヒートで、先攻のカノアがハイスコアをまとめてプレッシャーをかけていた。
サーフランチイベントでの優勝経験があるフィリッペは優勝候補の筆頭だったが、1シーズン休んだブランクは大きく、精彩を欠いていた。
2本目のランでスコアを更新しなければ勝ちがない状況の中、カノアと同じアーリーウープの変形であるクラプトをメイクして最後のセクションで全身の力を込めたカービングハックを仕掛けるが、あり得ないことに水中カメラマンのティアゴ・ディズが目の前に現れ、ギリギリのところで衝突。
サーフボードのフィンが折れ、最後のターンも失敗に終わったのだ。
当たり前のルールだが、コンテスト中の選手の進路をカメラマンが妨害をしてはいけない。
衝突した直後はフィリッペも怒りを爆発させて、ティアゴも泣きそうな顔で場外に戻った。
その後、WSLの競技責任者レナト・ヒッケルがヘッドジャッジのルリ・ペレイラなどと協議して、「最後のターンが成功すれば加算されるだろうポイントは0.2〜0.5で、勝敗に関係なかっただろう」と公表。
再ヒートは行わないとの決定が下されたのだ。
フィリッペには次のレフトで逆転できる可能性もあったが、集中力が切れ、明らかに取り乱していた。
中盤のエアーセクションで彼らしくないミスをしてヒートを強制終了のような形で終えてしまった。
フィリッペ・トレドの素晴らしいスポーツマンシップ
今回の事故直後、フィリッペが怒りをあらわにしたのは、命がけで戦っている以上、批判されるべきことではないと感じる。
更にトレーニングセッションでもカメマンと選手との間で同じような危ない場面があったのにも関わらず、改善されなかったことにも原因があると言われている。
ここからがフィリッペ・トレドの素晴らしい点で、まずヒート終了後に対戦相手のカノアが声をかけるとハグを交わして「良いサーフィンだった」ときちんと相手を称えていた。
そして、ティアゴ・ディズのアカウントが炎上する前に声明を発表。
更に彼の元へ向かい、和解した場面を公開した。
ありがとう、応援してくれて。残念ながら起こってしまったことは仕方ない。
ティアゴが、最後のセクションで、正直… そこにいるべきじゃなかった。でも、それが現実だ。俺は大丈夫だし、ティアゴも大丈夫。俺が彼のカメラにぶつかったときの衝撃を考えると、もし直接彼に当たってたら、もっと深刻なことになっていたかもしれない。本当に危ないところだった。
その後、レフトを攻める気持ちにはなれなかったけど、まあ、それも流れだ。神様が決めたことだから、すべて受け入れるよ。みんな無事で、それが一番大事だしね。
でも、まだブラジリアンがイベントに残ってるし、女子の方でも頑張ってる選手がいる。だから、みんなで応援しよう! いいバイブスを送ってくれ!
心からありがとう。そして、次に向けて頑張るよ。行こう!
また、今回衝突したティアゴ・ディズもプロのカメラマンとして体を張って撮影していた。
ファインダーを越しで集中し過ぎたために周りが見えなくなってしまったのだろう。
このヒートでは、こんな素晴らしい写真を残している。
(染谷たかし)