まさに禁断の地、サンタバーバラの市街から車で30分ほどだが国道からは全く見えない

カリフォルニア「ザ・ランチ」の波がついにパブリックとなるのか?

シリーズ「サーフィン新世紀」19

一般サーファーを拒み続けてきた、『波の宝庫』がついに解禁!?あなたは賛成?それとも?


プライベートビーチとして一般サーファーの立ち入りが難しかったザ・ランチに、州条例により誰にでもアクセスできる許可が下りることになるようだ。ザ・ランチとはカリフォルニアのサンタバーバラ郡にあるホリスターランチのことを指す。(一部他の牧場も含む)ランチとは牧場の意味であるが、このホリスター牧場は海沿いにあり、海岸線は約20kmも続く。

その20kmにはワールドクラスのサーフブレイクが数多くあり、名前が付けられているリーフやポイントブレイクだけでも9つもある。しかしこれまで、そこでサーフィンすることは難しかった。(一部のサーファーを除く)。リンコンやCストリート、トラッスルズのような波が9つもあるにも関わらず、陸側が私有地であるためにサーファーがアクセスするのが難しく、しかも写真の撮影が制限されていたために、幻のようなサーフエリアとなっていた。

ロングボードの時代にはここでフォトセッションが行われ、写真家ロン・ストーナーなどが歴史に残る作品を残している。それが一層このエリアを神格化し、多くのサーファーの興味を引く結果となった。

そのためにランチでサーフィンがしたいために牧場の柵を乗り越えたサーファーが、警備員に発砲されたり、サーフボードを没収されたりという事件が過去にいくつもあると聞く。そういえば、没収されたそのサーフボード(数百本はあるだろう)がホリスターランチのどこかに格納されているという都市伝説もある。ちなみに映画ビッグウェンズデーはこのザ・ランチで撮影された。

The surfers Journal Vol2-2 Razers photo by Gerald Saunders
ホリスターランチの波の一つレーザーズ

なぜアクセスできなかったのか?2つ理由。

ホリスターランチは、私有地が海辺りの崖まで続いていたために、アクセスが難しかったというのが一つ目の理由。海や海岸は、基本的にアメリカ合衆国の国有地であるから、誰にでもその自然を享受する権利がある。だから干潮時に砂浜を徒歩でサーフポイントまで歩いていく権利は誰にでもある。と、一応はなってはいるが、満潮になると砂浜は海で隠れてしまうし、警備員もいるから実際には無理。

船に乗ってポイントまでアクセスする方法もじつはある。「ランチボート」という言葉がサンタバーバラにはあり、サーファーのあいだで売買されたりしている。しかし、おいそれとボートで出かけたとしても、そのエリアの波は、ローカルサーファーたちにプロテクトされているから、彼らの招待を受けていなければサーフィンは難しかったと想像できる。

2つ目はホリスターランチは富裕層向けに宅地として土地を販売していて、約百名ほどの住人が、ホリスターランチ・オーナーズ・アソシエーションという組合を組織している。その組織が、プライベートを保つために一般の人のビーチへのアクセスに対して抵抗してきた。そのHPを読めば分かるが、広さは14000エーカー(約57㎢、千代田区の約五倍の広さ)で24時間のセキュリティー、海に面した8.5マイルの海岸は133の区画を所有するオーナーがプライベートビーチとして利用できるとある。

住人の中には映画監督の故ブルース・ブラウンやパタゴニアの創立者イボン・シュイナード、元世界チャンピオンのトム・カレンがいる。(彼らがその組織に参加しているか、もしくは一般のアクセスに反対しているか否かは不明)

ちなみに12マイル(約20km)の海岸線に存在するワールドクラスのサーフブレイクの名前を挙げると、レーザーズ、ドレークス、リトルドレークス、ユタ、ライツアンドレフツ、セントオーガスチン、レフツアンドライツ、コホリーフ、コホポイント、パーコスと、一級品の波がずらりと並ぶ。

これまで40年間、カリフォルニア州の行政は、ホリスターランチ側へ、海岸へのアクセスがもっと自由になるための努力をしてきたが、社会的に影響力の強い人々が住んでいて、強制的な手段を取れなかったのだろうと思われる。海や海岸は、誰もが公平にその自然を親しむという権利が保証されているものの、ホリスターランチに住む人々はプライバシーが保てなくなるために行政の要望に抵抗してきた。だが彼らは自然環境を保護したいという側面を持っていることも無視はできない。サンターバーバラミュージアムの自然保護の研究や小学校の課外授業などにも協力している。

しかし今年になってカリフォルニア州が Bill 1680(条例)を発行し州知事がサインした。そして2022年までにその海岸へ一般の人々がアクセスできる道路を建設することが条件とある。この条例には、もしアクセスを何者かが妨害したときは罰金を科すとある。将来は公園やキャンプサイトに公共トイレそして管理事務所も作られるようになるかもしれない。そうしたらサーフィン新名所として話題になるだろう。

The surfers Journal Vol2-2 Drakes photo by Gerald Saunders
ホリスターランチの波ドレークス、混雑しないほうがいいかな〜

ザ・ランチの解放についてはLAタイムスなどが報じているが、サーフメディアの反応は渋い。そこにはサーファーにしか理解できない複雑な事情が絡んでいるからだろうと思う。例えば「さあ皆さんご自由にサーフィンしてください」と行政が言ってもディズニーランドのパスポートのようにそこで好き勝手にできるわけではない、排他的なローカリズムが歴然と存在するからだ。これはザ・ランチだけのことではない。日本のサーフポイントにもローカリズムが存在し、秩序が保たれている。海はみんなのもの、だとしても、ブレイクする波は、みんなのものではない。暗黙のルールがそこにはあり言葉では説明できないものだ。例えていえば、サーファーにとって通い慣れたサーフポイントは、「自分の庭」のような存在なのだ。

禁断の地として伝説化していたザ・ランチのサーフポイントに、波に飢えた数百名のサーファーが浮かぶ光景は、正直見たくはない。僕だってもちろんザ・ランチでサーフィンしてみたいけど、僕が望むのは、スキップ・フライがコホでニーパドルしていたような、誰もいないザ・ランチの波。混雑してしまったらどこも同じじゃないかと思うし、こういう場所は、手に届かない神聖なサーフブレイクとして残したままでもいいんじゃあないか、と思う気持ちを僕ならずカリフォルニアのサーファーも感じているのかもしれない。

(李リョウ)

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