F+(エフプラス)
「Kissed by god」をゆきさんなりに翻訳していただけないでしょうか。 世界のトップサーファーとして君臨したAndy、父親としてのAndy、1人の男としてのAndyをもっと深く知りたいと思いました。
F+フォロワーより
質問というよりお願いでしょ、これ。
…していただけませんね、これは。版権の問題とかあるし、超面倒くさいし(笑)。ただ、私なりにあのフィルムのリリース当時のことと、アンディのことを書いておきます。
Kissed by god、神に祝福された男、とでも訳すのかな。このフィルムに関しては発表当初から賛否両論で、賛のほうは派手に世間に流れたけど、否のほうは表立っては誰も言わなかった。死者にムチ打たない的な遠慮もあったと思うし、日本でも死んじゃえばみんないい人だから。でも業界筋では否定論が陰でよく語られていた。
もう時効かな、とも思うので書いてしまえば、否定的サイドでは魅入られたのは神にではなく悪魔にだろう、とか、美化されすぎとか、ネガティブな部分をあえて公表することで、アンディを英雄に祀り上げたいためのスポンサーのキャンペーンだとか、ドラッグ中毒患者をあんな風に英雄化してはいけない(教育上よくない)とか、まぁとにかくひどい言われ方だった。でも現実には死後もアンディをブランド化して商売が継続しているので、英雄化を狙ったというのも、あながち的外れな話でもないのかな、と思う。薬物中毒死したアスリートが死後英雄になりブランド化するって、さすがサーフィン業界、と皮肉たっぷりに茶化す人も少なくはなかったし、それも一理あるといえばあると思う。何をどうとりつくろっても、サーフィンというのはそういうカルチャーがルーツだ。
そして、アンディに近かった人やこのフィルムキャンペーンに否定的な人の中には、気分が悪くてラストまで観ていない、という人も結構いた。あ、上記すべて海外での話です。日本国内ではそこまで深い議論はされなかったと思う。日本の業界やサーフィンジャーナリズムにそこまで求めてはいけません(笑)。
個人的にはよくできたフィルムかなと思うけど、そこ、違うんだよな、の部分もあり、あれが真のアンディ・アイアンズのすべてだとは思えないけど、ドキュメンタリーとはいえ所詮エンターテインメントのフィルムなので、作られる部分というのはあるから、その辺は割引いて観たほうがいいのかなと思う。
まぁ、このご質問者のように、これでアンディに興味がわくとか、魅力を感じるとかという人がいれば、制作サイドとしては成功なんだろうと思う。
ちょっと変人チックな部分のあるケリーと対比すれば、アンディはもっと直情的で裏表のない、いい人だったと思う。表も裏も見せるので、誤解されることもあっただろう。
今のアスリートと呼ばれる、がんじがらめの優等生ぞろいの選手たちの中には、決してハマらなかっただろうな。
まぁ、あの年代であの白人ルッキングで、ハワイの中でもローカル色の強いカウアイ島で育つということは、当然子供の頃からやらなきゃやられる、という壮絶ないじめにあうわけで、アンディの強がりはもう幼いころからの刷り込みなんだと思う。なんだよお前、こんなこともできねぇのかよ、とからかわれれば、できるさ、となんでもやってのけて、相手を黙らせる。それが酒でもドラッグでも危険行為でも、無謀なことをやればやるほど仲間には恐れられる存在になる、みたいなしょうもない力関係の中ではぐくまれた人間性の底には、いじめられたくないと恐怖におののく、弱い本当のアンディがいたと思うし、それを知っているからこそ、弱い者いじめなんてしない優しいアンディがいたと思う。
負けず嫌いしか選択肢のなかった幼少期、これは弟のブルースも同様だし、この兄弟間での激しい競争も彼らの人生に大きく影響している。これはショーンとケリーのスレーター兄弟も同様で、コンペティターの根底部分の負けず嫌いの根源ともいえる。そういうことを考えても、アンディにとって勝負ごとに負ける、というのは受け入れがたいことだったし、あのケリーとのタイトル争い、2003年の最終戦の最終ヒートの結果が逆だったら、あそこでアンディは終わってたんじゃないかと思う。
まぁでも、なんにしても世界一になるというのはそれなりの何かを持っているのだと思うし、神だろうが悪魔だろうが、何かに魅入られた人ではあったんだと思う。
アンディのことは今年のカレンダーコラムの3月の回で書いているので、そちらも合わせてお読みいただければと思います。