サーファーにはまだ認知度が低い徳之島。この島に波乗りをファーストプライオリティーとして訪れる人は限りなく少ない。釣りやダイビングでは人気が高く愛好家の中でもコアな人たちが集まることで知られている。
2021年に世界自然遺産として登録された徳之島は奄美群島の島の一つ。鹿児島県の離島の中では下から3番目。沖縄の並びの延長上に島は位置する。
周囲約90km、1時間ほどで島を一周できてしまうこの島は、東西は車で10分ほどで行き来でき、南北は縦に細長い。今回私が訪れた10月前半から半ばは朝晩の気温は10度後半、太陽が上がると28度前後となりとても爽やかで過ごしやすい気候だった。日中は夏の陽気で、ボードショーツだけでサーフィンするローカルの姿が見られた。
秘められていた波
今まで公にされていなかった徳之島のサーフシーンが、島で初となるWSL(ワールドサーフリーグ)プロジュニアの試合開催により多くの人に知られることとなった。徳之島生まれで、現在徳之島町おもてなし観光課課長をされているサーファーの吉田広和さんに幾つかの質問をしてみると、島には約50名のサーファーがいること、島にサーフショップは無いこと、皆が意識して良いサーフコミュニティーを維持していることなどを話してくださった。
花徳浜(けどくばま)
プロジュニアの試合会場ににもなった花徳浜(けどくばま)は島の東側に位置する。約1km続く白い砂浜のビーチは、珊瑚礁と崖が多い近隣の離島と比べると珍しい。東向きが絡んだウネリに反応良く、風向きは西よりがベスト。
ベストタイドはその時の地形にもよるとのことだが、満ち過ぎるとバックウォッシュが入りやすく、ミドルタイドから引き潮の間でいい時間帯を探すのがいいかもしれない。
花徳浜は夕方になると闘牛のトレーニングコースにもなる場所で、波がブレイクしている横で1tにもなる大きな闘牛が歩く様子はこの島ならではの風景だ。
普段は穏やかな性格の闘牛とのことだが、試合を間近に控えた闘牛もいるので飼い主さんに近寄ったり写真撮影は可能なのかを聞くとよい。闘牛の送迎トラックもサーファーと同じ駐車場を使うので邪魔にならないように気をつけよう。
里久浜(りくばま)
花徳浜の一つ隣の里久浜も地元サーファーの皆さんが愛する美しいサーフスポット。西高東低の爆弾低気圧から届くウネリにいい具合に反応するため冬場も楽しめるとのこと。綺麗に整地された駐車場とトイレ・シャワーも完備されている。
こじんまりとしており広くないビーチなので、もし人数と波のバランスがオーバーしていると感じたら、ビーチでゆっくりリラックスしてその時がくるのを待ってみよう。
一番寒い真冬で3mmのフルスーツ、10月後半からスプリングやロングジョンがあると◎。奄美大島の気候を参考にすると分かりやすい。
サーフボードは、ショートボードからミッドレングス、ロングボードまで好みのボードで楽しめる。ただ飛行機に乗せる重量や長さの規定があるので要注意。
大都市からのダイレクト便がないことで人が集まりにくく、よほどこの徳之島まで来てくださる人に悪い方はいないでしょう、と優しくおっしゃる吉田さん。今後もしこの島へサーフボードを持っていく機会がある方は、この島の方々の気持ちに寄り添ってのんびりと島の波長に合わせて波待ちをしてみてはどうだろうか。
朝日からのスタート
なんと言っても徳之島の魅力は大自然と世界的にも珍しい野生生物たちが生息しているところ。島では朝のファーストライトと同時に野鳥たちの声が聞こえてくる。渡り鳥や、固有種の昆虫や季節を感じさせる虫の音、季節風に乗って様々な種類の美しい蝶々の姿に出会うことができる。
ファーストライトから30分も経てば東の海から朝陽が昇るので、早朝の涼しい時間帯はゆっくりと島に陽の光が広がっていく様を眺めるのもいい時間。
その日のお天気と風向きで行き先を決めるのがおすすめ。
世界自然遺産の島なので空港やお店に行けば観光名所や推しスポットのパンフレットが手に入る。またインターネットのマップで探せば、バナナの葉をプレートにした島ランチを頂けるお店や、島のサトウキビを使った島スイーツなどのカフェも見つかる。
それも合わせて、もう一つこの島でのおすすめの過ごし方は、誰もいないビーチを探してのんびりそこで過ごすこと。近隣の離島と比べても観光客が少なく、そこがこの島の魅力でもあるので、プライベートビーチや、ビーチに併設されている誰も居ない可愛い公園で過ごすのも贅沢な時間。
お弁当文化が根付いている徳之島では、スーパーやコンビニエンスストアでも手作りのお弁当やおにぎりが置いてある。ぜひ綺麗で静かなビーチでブランチやランチ、ティータイムを過ごして欲しい。
自然と独自の島文化
野生に咲く美しい鮮やかな花、ジャングルを感じさせる亜熱帯植物、野生になる木の実、自然が長年作り上げた地形など、徳之島には圧倒的な大自然があるので、それを見て触れて息する島を感じたい。
また島には今も盛んに闘牛が行われる。泥染や機織りなどの独自の島文化もあり、希少な島といえる。
そして島の至る所に太平洋戦争の跡地や慰霊碑があり、島の自然と合わせて語り継がれる必要がある歴史を知ることもできる。
1日で島を一周するのもよし、数日に分けて深く島を探って周るもよし。徳之島での運転はとてものんびりで島時間を味わうのにもってこい。ゆっくりと青い海と鮮やかな緑の景色を楽しみながらドライブしてみよう。
島の滞在
島でのステイは古民家の民泊や町営のバンガロー、キッチン付きのユニットに滞在するのもおすすめ。飲食店ではお持ち帰りができる所が多いので、テイクアウトして滞在先で食事をしたり、または島野菜を買って宿で調理すれば島で暮らしているような時間が経験できる。
また徳之島には幾つかの無料野営キャンプ場があり海に面したすてきな場所もあるので、海好き・アウトドア好きには嬉しい(使用する際は町役場に申告する必要があります)。
長期で滞在できるのであれば、西側と東側の両方での滞在を楽しむのもおすすめ。西側であれば海に沈む夕陽が見られる。夕焼けショータイムは島でのいい思い出になること間違い無い。
島の繁華街・亀津
徳之島の夜の町を楽しみたいのであれば、亀津に宿泊するのがおすすめ。亀津には幾つかのビジネスホテルや旅館等があり、ホテルの窓から珊瑚礁の海が見えたり、大きな船の出入りが望める港ビューがある宿も点在。
亀津の夜は居酒屋や、郷土料理屋、寿司屋にのれんが掛かり所々賑やかな雰囲気に。島民の憩いの場となるお店が多く陽気な方が集まるので、皆さんのお勧め料理とお勧めスポットを聞いて次の日の新たな楽しみにするのもいいかもしれない。
徳之島でのおすすめ料理は、シビ(島近海で獲れるマグロ)、島タコなどのお刺身、豚軟骨トロトロ煮、鶏刺し、島ラッキョウ(季節もの)などなど。
奄美諸島でしか生産が許されていない黒糖焼酎を呑みながら島ならではの料理をいただきたい。
島へのアクセス
空からのアクセスは鹿児島、奄美大島、沖縄(沖永良部島経由)、そして海のアクセスは鹿児島から沖縄本島を繋ぐフェリーで島に来ることができる。
フェリーで沖縄から奄美諸島をアイランドホッピングするのも楽しそうだ。
人の優しさに触れ、ゆっくりとした時間の流れを感じ、とんでもなくきれいな空気を味わうことができるのがこの島。ここの人たちが大切にする宝石のような波と島の波動。神聖な空間にお邪魔しますという姿勢で訪れることで、訪問客もまた満たされた幸せな時間を過ごせるのが徳之島。この島を新たな旅の行き先の一つとして加えてみるのはいかがだろうか。
徳之島観光連盟ホームページ
http://www.tokunoshima-kanko.com/
(間屋口香)