photo by Masaki Tsukamoto
サーフィンがもっと上達するなら、使う?使わない?
浮かび上がっては消えていたアシンメトリー(非対称)サーフボードと時代のトレンドがついにリンクするかもしれない。
シリーズ「サーフィン新世紀」②
非対称(アシンメトリー)サーフボードです。そろそろ一本どうですか?興味ありますか?僕は興味ありませんでした。サーフボードは左右対称が正しい。そう頑固に思っていました。非対称は未熟なテクニックをフォローする小手先のアイデアに過ぎないと思っていたんです
でも非対称サーフボードがザサーファーズジャーナルで取り上げられています。今年2月の号です。ザジャーナルで記事になるくらいに非対称サーフボードは今盛り上がりつつあります。そんなこんなで非対称に僕も興味を持ちました。そうこうしていたら、昔見た写真をとつぜんに思い出しました。ハワイのビッグウェーバー、ケン・ブラッドショーが持っていたワイメア用のガンがじつは非対称だったんです。The Surfers Journal Vol10 No1に掲載された写真をご覧ください。テールが非対称です。ワイメア用かな?テールの後端をじっくり見てください。
サーフィンはターンの繰り返し
非対称サーフボードのそもそものコンセプトは、サーファーがサーフボードにサイドウェイ(横スタンス)で立つことが由来です。スキーのように両足をそろえて立つならばサーフボードを非対称にする必要はないんです。でもサーフィンはサイドウェイだから左右のターンが違う、つまり爪先に荷重するターンと踵に荷重する二つのターンがある。これを別の言い方をするとフロントサイドターンとバックサイドターンといいますね。サーファーならば常識だけど、この二つは全く違います。だからサーファーは二つのターンを練習しなければならない。一般的にフロントサイドのターンが簡単で、バックサイドが難しいという意見が多いです。例えるならばバックサイドのターンはまるでバイクに横すわりして運転しているような感覚です。だから苦手に感じる人が多い。そこで難しいバックサイドのターンを簡単にしようというコンセプトがこれまでの非対称のサーフボードでした。でもこのコンセプトには反対意見が多く、左右対称のサーフボードがこれまで主流を占めてきました。どうして?サーフボードはいわば船ですから左右対称でなければ直進できないからです。じゃあ非対称はダメなのか?そんなことありません。どうして?サーフボードは波のフェイスを斜滑降していてどちらかのレール側に荷重しているからです。つまり船のように平水面を直進することはほとんどない。だからサーフボードは非対称でも機能する。とくにアベレージサーファーが好むスモールウェーブならターンの連続だからです。
それだけでなく、非対称サーフボードはサーフィンの技術の欠点を補おうとする小手先な発想だ。だからサーフボードは左右対象が正しいとされてきました。でもその考え方がちょっと変わってきたんです。サーフィンの限界を非対称ボードでさらに追求しようというコンセプトに変わってきたようです。そのトレンドが始まりつつあり、たぶん急速に発展する可能性があるのです。ブライス・ヤングのフッテージをご覧ください。非対称ボードのこれからの可能性が理解できるでしょう。
左右対称のボードでサーフしても上手なブライス・ヤングですが、非対称ボードでの踵荷重のスナップはシャープで、バレルの中でのフィット感には新鮮な印象を受けます。
さて非対称サーフボードが注目される理由がもう一つあります。それはウェーブプールです。まだプールがどのような発展をするかは未知数ですが、ウェーブプールと非対称サーフボードが将来リンクするのではと私は思っています。ウェーブプールは過去にもあって日本でもかつて賑わったことがありましたが、あっという間に消滅しました。しかし現在のウェーブプールは過去のウェーブプールが抱えていた問題を解決しています。娯楽施設としての可能性はイギリスのウェーブガーデンが示しているし、波のクオリティーはあのケリーのサーフランチが達成しています。サーフボードメーカーのテストコースとしてウェーブプールが活用されるのは時間の問題です。そしてウェーブプールでのコンテストが開催となると何が起こるでしょうか?より長くバレルに入ってトップターンの回数や難度の高いエアーを決めようと思ったら、行き着く先はもう非対称のサーフボードしかないでしょうね。そう思いませんか?何故ならば、もし実力の同じ選手が、同じ波で戦った場合、勝敗を決めるのは高度にチューニングされたサーフボードだからです。
さらに非対称サーフボードがトレンドとなる理由がもう一つあります。じつはそれはサーフボード・ファクトリーの存在です。21世紀になりどんなものでも3Dプリンターで作ることができる時代になりました。でもいまでもサーファーはカスタムメイドされたハンドシェープが大好きです。つまりサーファーの好みに合わせてサーフボード・ファクトリーは微調整が可能。痒いところに手がとどくわけです。非対称サーフボードはサーフボード・ファクトリーのためにあると言っても過言ではありません。サーファーは非対称サーフボードに乗るたびに次のボードはどんなテール形状にしようかとか、フィンプレースメントはどうしようかとか悩んでしまうかもしれないけれど、それはうれしい悩みでもあるわけです。サーファー同士が駐車場で非対称のテールデザインを比べ合う光景も見かけるようになるかもしれません。カスタムオーダーだからこそ可能な非対称サーフボード。でもシェーパーは非対称の注文が増えると対応に苦慮するかもしれませんね。
(李リョウ)