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新型コロナで海水浴場が閉鎖された今夏。神奈川県ライフセービング協会の取り組み

新型コロナウイルスの感染拡大を懸念して、各地の海水浴場が開設見送りになった今夏。
例年海水浴場で講じられる施策がなくなることで、安全上の問題や治安悪化を不安視する声が上がり、日本サーフィン連盟(NSA)と日本ライフセービング協会(JLA)は「海を熟知しているサーファーとライフセーバーが協力して海の安全を見守ろう」と共同声明を発表した。

一方、各自治体もそれぞれ対策を進め、なかでも年間300万人以上の海水浴客が集まる神奈川県は全国的にも注目が集まっていた。異例の夏の取り組みとして、県はJLAと包括協定を締結。
さらに、「Swim Between Flags」や監視用ドローンなどの新たなライフセービング手段を導入し、現在は来夏に向けてより有効的な活用方法を探っている。

9月、神奈川県 黒岩知事へ今夏の活動報告をしたJLA Photo: JLA

JLAの県支部であり、神奈川県内のライフセービング活動を担った「神奈川県ライフセービング協会(KLA)」事務局長の和田朋也氏に、今夏の状況と新たな取り組みを聞いた。

KLA 和田朋也事務局長 Photo: THE SURF NEWS

神奈川県内のレスキュー件数は昨年の8分の1

神奈川県ライフセービング協会は県からの受託事業として、今夏来場者数の少ない3つの海岸を除き県内20以上の海岸をパトロール。

神奈川県によれば、海水浴場の利用客数は昨年の約320万人に比べ今年は約71万人。そのうち、レスキュー件数は昨年の398件から大幅に減少し47件(*KLA算出値、2020年7月18日~8月31日)。昨年の8分の1以下に収まった。

レスキュー件数が大幅に減少した要因は、県の遊泳自粛要請などによる利用客数の大幅な減少によるところが大きいが、その他にも台風などの事故が発生しやすい天候条件の日が少なかったことも関係しているとみられている。

また、海水浴場にはならない七里ガ浜、鵠沼海岸、茅ヶ崎ヘッドランドなどは、普段から地元の加盟クラブが監視しているが、これも間接的にサポート。更に、通常管轄下ではないサザンビーチ茅ヶ崎も自主事業としてパトロールを行った。

サザンビーチ茅ヶ崎での自主活動に対し茅ヶ崎市長から今月感謝状が贈られた Photo: KLA

新たな取り組み① Swim Between Flags

今年6月、藤沢市は今夏の特例措置として『夏期海岸藤沢モデル2020』と冠した夏期の海岸利用ルールを発表。例年、遊泳エリアとマリンスポーツエリアを砂浜の白杭と海上のブイで分けていたが、今年は「Swim Between Flags」でエリア境界を区分することとした。

この赤黄色の旗と旗の間が遊泳エリアとなり、その日の状況に合わせて柔軟に範囲を設定できる Photo: KLA

「Swim Between Flags」は、オーストラリア等のライフセービング先進諸外国で取り入れられている概念で、ライフガードがその日の状況に合わせて赤黄色の旗を設置し、旗と旗の間が遊泳エリアとなる。

つまり、その日の波のコンディションや人の混雑状況に合わせて、柔軟にエリア変更することが可能となり、例えば「誰もいない海水浴場エリアで波が割れているのにサーフィンできない…」といった夏の海水浴規制にありがちな問題は避けられる。

実際、今夏の藤沢市でも、当初は片瀬漁港~江ノ島水族館をマリンスポーツ自粛エリアとしていたが、現場での運用をしながら銅像前もマリンスポーツ自粛エリアとする代わりに、江ノ島水族館前の自粛エリアを縮めるなど柔軟な対応がされていた。

新たな取り組み② ドローン監視

藤沢市の産業振興課が「ライフセーバーの負担を減らせないか」との考えから、SFC(慶応大学湘南藤沢キャンパス)のドローンコンソーシアムと提携。更にその話が広がり、神奈川県としてドローンを活用した監視に取り組むこととなった。

今年は試験的に片瀬西浜の1か所で展開し、7月17日から8月23日の土日祝日を中心に19日間実施した。1時間おきに定期巡回し、沖合から引地川河口、片瀬漁港、江ノ島などを偵察。危険な遊泳客を見つけたら、ドローンから直接呼びかけた。

今後は救命用具の投下など更なる活用に期待がかかるが、砂浜に大勢の人がいる際の安全確保等が目下の課題だ Photo: KLA

期間後半は、ライフセーバーとドローン班の連携が進み、定時巡回以外の時間に飛ばすこともできた。通常は近づきづらい悪質なマリンジェットの追跡にも有効だったという。また、事前のデモンストレーションではドローンからの救命俯瞰の投下も行った。

ドローンでの監視はいくつも有効な点があったが、これはコロナ禍の今年だからこその特別措置であり来年以降は予算が付くか不透明だという。例年のように砂浜に大勢の人がいる場合や、海上保安庁のヘリが飛んでいる場合は飛ばせないなどの制約もあり、様々な条件をどのようにクリアするかが今後の課題となりそうだ。

ライフセーバーと公的機関の連携

海水浴場の安全確保や救助活動には、ライフセーバーのほか公的救助機関の存在も欠かせない。大まかに砂浜は警察、波打ち際がライフセービング、少し沖は消防、沖は海上保安庁と担当が分かれていて、事故の際にはそれらの連携が求められる。

ライフセーバーが民間組織であることで、公的機関との連携時には様々な障壁があるが、神奈川県のなかでも年間150万人の海水浴客が訪れる藤沢では連携が進んでいるという。

Photo: KLA

2007年8月の2人の中学生が引地川河口で流され亡くなった事故をきっかけに、当時の西浜サーフライフセービングクラブ理事長(現KLA理事長)が「救助の際は各機関の協力が欠かせない」と藤沢市消防局に働きかけ、2010年より総務省消防庁も巻き込み検討会が発足。2013年に消防・警察・海保とライフセーバーが覚書を締結した。

以前は、ライフセーバーが民間組織であることから個人情報を貰えず、捜査時の連携がしづらいこともあったが、覚書の締結によりライフセーバーのユニフォームを着ていれば捜査指揮本部に入れることとなり、水難事故時の迅速な救助活動を行うための体制が整った。

異例の夏、コロナ禍だからこそできた取り組みを将来へ。

異例の夏となった今年。ライフセービング団体が監視していた例年海水浴場となるビーチでの事故は大幅に減った一方で、例年海水浴場ではない海での事故は増加したとの報告もある。

茨城~静岡の沖合を管轄する海上保安庁第3管区によれば、マリンレジャーに伴う海浜人身事故は、昨年の69人から82人に増加。うち、サーフィン中の事故は8人から11人に、SUP中の事故は2人から8人に増えたが、その殆どが極めて初心者的な事故であり「海水浴場がだめなら、他の海で、他のスポーツをやろう」という動機が多かったのではないかとみている。

結果的に、監視体制が手薄な場所で事故が増えた今夏。来年の夏は通常通りに戻るのが一番だが、万一今年のような展開になった場合には、今年を参考に新たな監視体制が求められるのかもしれない。

一方で、今回紹介したSwim Between Flagsやドローン監視のように、コロナ禍がきっかけとなり画期的な取り組みもなされた。これは来年以降、通常の夏が戻ってきた際にもぜひ活かされることを期待したい。

(THE SURF NEWS編集部)

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