世界屈指の造波メーカーWavegarden社から、この度日本国内における独占交渉契約を取得した株式会社JPF。競輪などの公営競技場の運営や、サイクルスポーツの振興等を主軸とする同社が、何故ウェーブプール事業に取り組むのか。その狙いや今後の展開について、同社の常務取締役である久場善博氏に話を聞いた。
「これからは有料でも波に乗りたいという人が出てくる」
Q. 競輪場の運営やサイクルスポーツ振興が主力事業のJPFが何故ウェーブプール事業に取り組むことになったのでしょうか?
私も弊社の代表もサーフィンをしますが、代表は4年前に始めたばかり。海ではゲッティングアウトもテイクオフも出来ませんでしたが、東京湾でボートサーフィンをする機会があり、何回か通ううちにテイクオフ~アップスが直ぐ出来るようになりました。
そこから「波の有料サービス」という発想が生まれ、様々な人にヒアリングをしたところウェーブプールビジネスを「面白い」という人も多かったので、この事業に挑戦してみることにしました。
「サーファーに波を提供するだけでなく、広くビーチカルチャーを提供していく」
Q. 複数ある造波メーカーのうちWavegarden社と組むことになった決め手は?
いくつかの造波メーカーを比べましたが、どの会社も立ち上がり時期だからなのか、連絡を取ってもなかなか掴みどころのない状態だったのですが、Wavegarden社にコンタクトを取った時は、プログラムがもう完璧に仕上がった状態でした。
一度スペインに視察に行き丸1日説明を受けたのですが、Wavegarden社の「サーファーに波を提供するだけではなく、普段サーフィンをしない人にも広くビーチカルチャーを提供していく」という言葉が刺さりました。私達が自転車を通してやっていることと同じだったのです。現地を訪れてみて、Wavegarden社のビジネス担当や技術担当の人達も信頼が置けると感じたことも決め手の一つですね。
また、1時間で何本波が出せて、何人乗れるかというスペックも重視していました。どの会社もなかなか明確なデータを開示してもらえないのですが、開示されてる範囲で比較検討し、Wavegarden社のスペックが高いという結論に至りました。
「フルスペックの施設で、誰もが満足できる空間を」
Q. 高スペックのプールとなると、用地や費用がネックにはならないのでしょうか
例えば、面積はテキサスや静波でも採用されているAWM社の8~10倍になると想定しているので、条件のいい土地はそんなに次から次には出てきません。資金調達の面でも勿論ネックになります。
ただ、全国で6~7か所であれば、フルサイズのプールに商業施設や宿泊施設を兼ね備えた空間を作り、良い環境・良いサービスを提供したいと考えています。コンパクトなウェーブプールだけだと顧客はサーファーだけになってしまいますが、プールに入らない人も満足できるような複合的な空間を提供していく方向に振り切ってしまおうと思っています。
Q. 具体的に用地のサイズは?
メルボルンや韓国と同程度のサイズのプールを予定していて、クラブハウスを含めると約4万平方メートルの面積が必要です。商業施設や宿泊施設を併設する場合は、追加で少なくとも2万平方メートルが必要となります。
プールは、中央壁が200m、両サイドに160mの側壁を設け、中央壁の両側に扇形のプールができます。インサイドではビギナーがスープで練習できます。
スイスは100x100mしかなく、インサイドで子供やビギナーが楽しめるエリアが少なくなってしまうので、まずはフルサイズのプールの展開を予定しています。
▲韓国のWavepark。初心者がテイクオフ等を練習できるインサイド部分が広く設けられている。Q. Wavegarden社のHPには、建設予定地として北海道に1つ、本州に5つ、九州に1つ記載されていますが、その通りの計画でしょうか?
多少のずれはあり得ますが、大体はあっています。一般的に全国に6~7拠点を作ろうとした場合は、北海道、北日本、首都圏、東海圏、関西圏、九州沖縄などを検討します。個人的には、サーフィン事情を鑑みて、人口が多く海の遠い関西はマストかなと思っています。
「まずはアクセスの良いエリアに1拠点。開業は少なくとも2年以上先になる」
Q. 1拠点目の具体的な場所と開業時期は?
もちろん土地ありきですが、最初は首都圏や地方都市などアクセスの良いエリアにフルサイズの施設を作る予定です。既に土地探しは進んでいて、目途も付いています。着工から完成まで1年半、その後稼働テストを入れて2年位で開業できるイメージなので、少なくとも今から2年以上は先になると思います。
「スポーツを盛り上げるノウハウと、地方公共団体との取組実績を当社の持ち味として活かしていく」
Q. JPFの60年以上の歴史のなかで培ってきた知見やノウハウのうち、ウェーブプール事業に活かせそうなものはありますか?
当社は1964年の東京五輪で写真判定業務を担当するなど、スポーツの写真判定から始まった会社です。しかし、その技術自体は昭和10年代のテクノロジーであり、今となってはリソースになるとは思っていません。
一方で、サイクルスポーツの復興事業を通じて得た、スポーツを盛り上げていくためのノウハウは活かせると思います。例えば、今回の五輪には当社がサポートしている自転車競技の5名の選手が出場しました。また、イギリスのサイクルウェアのメーカーと組んで、小中学生向けの強化プログラムを展開しています。サーフィンでも、どのような形になるかはこれからですが、こうしたトップアスリート支援やジュニア育成にチャレンジしてみたいですね。
加えて、公営競技場の運営を通じて、地方公共団体の特性も理解できました。このような大きな施設の運営には彼らとの協力が欠かせませんが、彼らが不得手とするスピーディーな展開を、我々がリスクテイクして進めていくことも出来ます。
このスポーツを盛り上げるためのノウハウと、地方公共団体についての知見、この2つは当社の持ち味として活かせると思います。
Q. 売上計画を教えてください。
例えば関東圏の場合、シーズンにより月6千~3万人、年間で約18万人の集客を想定していて、年間約20億円の売上を見込んでいます。会社としては、稼働率5割で、入場料収入だけだったとしてもペイすると判断して、この事業に着手しました。実際には、飲食料収入や、商業施設・宿泊施設などからの収入もあり得ると思っています。
Q. 独占交渉権の内容について詳しく教えてください。
国内のプロジェクトは全て当社が関わることになりますが、自分達だけで全てやり切れるとは思っていません。やりたい企業があれば合弁会社等を設立し、共同事業として進める道を探したいと考えています。地元を大事にしている各地方の企業などと組んでいきたいですね。
「ウェーブプールは人々が海に戻るきっかけになる」
Q. 最後に、JPFがウェーブプールビジネスを行うことの意義について改めてお聞かせください。
現在、日本ではマイナースポーツであるサーフィンを、オーストラリアのように国技にしていきたいです。サイクルスポーツの復興事業を通して、世界で活躍する選手を輩出するには、トップアスリートのサポートやジュニア育成だけでなく、長期的に競技人口の増加が必要だと感じました。
サーフィンもメジャー化して、すそ野が広がれば、より多くの人が選手を目指すようになり、世界で戦える選手をもっと沢山輩出できると思います。ウェーブプールは、そのサーフィンをメジャー化するために非常に有効な施設だと思っています。
また、近年海離れが加速していますが、このウェーブプールは人々が海に戻る良いきっかけになると思います。当社は「SDGs(持続可能な開発目標)」に取り組む企業のためのコミュニティ拠点も運営していますが、このウェーブプールを通してマリンスポーツの楽しさや、ビーチカルチャーの良さを伝えられれば、人々が海や地球環境について考える機会を提供していけると思います。今後の展開に是非期待してください。
世界で無数にあるウェーブプールの建設プロジェクト。その中には、用地や資金、建設許諾等の関係で、実現に至らなかった計画も多くあり、日本国内においてもその事情は例外ではない。
様々な難題をはらむウェーブプール市場に、6~7拠点の建設と大胆な計画を立てたJPFだが、年間売上70億円超の資金力に加え、全国に7つの自転車・バイク競技場を展開する実績のある同社だけに、その実現性にも期待だ。
(THE SURF NEWS編集部)