数年の準備期間を経て2022年シーズンから導入されたCT(チャンピオンシップ・ツアー)のミッドシーズンカット。
まず全10戦の内、前半5戦終了時点のランキングでまずメンズは36名から22名、ウィメンズは18名から10名にカットされる。
そこにメンズ・ウィメンズ共に2名がワイルドカードとして追加され、後半戦はメンズ24名、ウィメンズ12名でのツアーに縮小される。
これによってヒート数が少なくなり、フルメンバーで約1週間かかっていた1イベントが本当に良い波の日だけで行うことが可能になる寸法だ。
一方でミッドシーズンカットによって’カット’された選手は、5月から始まるCS(チャレンジャー・シリーズ)を回り、メンズは上位12名、ウィメンズは上位6名に入り、再びCTに戻ることを目指すことになる。
ミッドシーズンカットを免れた選手と危うい選手
WSLはすでにベルズ戦終了後にミッドシーズンカットを免れた選手を公表している。
残りの選手、メンズ9名、ウィメンズ6名はマーガレットリバーでの第5戦の結果によって左右される。
【メンズ】
フィリッペ・トレド(BRA)
五十嵐カノア(JPN)
ジョン・ジョン・フローレンス(HAW)
ケリー・スレーター(USA)
バロン・マミヤ(HAW)
イタロ・フェレイラ(BRA)
カイオ・イベリ(BRA)
イーサン・ユーイング(AUS)
ミゲル・プーポ(BRA)
セス・モニーツ(HAW)
カラム・ロブソン(AUS)
グリフィン・コラピント(USA)
ジャック・ロビンソン(AUS)
【ウィメンズ】
カリッサ・ムーア(HAW)
タイラー・ライト(AUS)
ブリッサ・ヘネシー(CRI)
レイキー・ピーターソン(USA)
現時点ではカットラインより上位にいる選手であっても、次戦マーガレットリバーの結果次第では、ジョーディ・スミス(ZAF)、コロヘ・アンディーノ(USA)、ジョアン・ディファイ(FRA)、タティアナ・ウェストン・ウェブ(BRA)、コートニー・コンローグ(USA)、そして女王ステファニー・ギルモア(AUS)までもが、CSからやり直しとなる可能性がある…。
以下、現在のランキングのカットライン以下の選手
10年前の失敗
実はWSLがまだASPだった10年前にもこのミッドシーズンカットと同じようなルール改正は行われていた。
しかし、不満を持っていた選手も多く、ボビー・マルティネスがすでに引退を決めていた試合のヒート勝利後のインタビューでそれに対する不満を一気に吐き出して物議を醸し、すぐに廃止された経緯がある。
今回のミッドシーズンカットに関しても一部のCT選手が再考するよう促す嘆願書を提出したそうだ…。
「当時のインタビューシーンは3:30〜」
ミッドシーズンカット導入に備えて新設されたCS
ミッドシーズンカットの時期が迫ってきたベルズ戦ではWSLのCEOであるエリック・ローガンがMC席に現れ、ASP時代に「ドリームツアー」と呼ばれるように理想的な波とウェイティング期間を考えたラビットことウェイン・バーソロミューと共に今回の論争を静かに着地点に導いていた。
まず、今回のミッドシーズンカットを導入する前に重要視したQSからCSへのステップの話。
今まではCT入りをするためにQSで世界中を回る必要があり、移動による時間と資金の大量投資が不可欠だった。
それをQSは各リージョナル(地域)だけで完結するように変え、時間と資金が限られた選手にもチャンスを与えたのだ。
更にCSはスナッパーロックスを始め、今までCTで使用していた会場や、過去のQSとは全く違う世界最高峰の波で構成されており、QSとCTの間にあった波のギャップを緩和している。
ミッドシーズンカットの前にこのボトムアップを作り上げた点は10年前と大きく違う点だろう。
また、ミッドシーズンカットはCTファンのためにもなるとエリックは話していた。
つまり、冒頭でも触れた通り、選手が少なくなることで例えば、ベルズ戦で数日あったコンディションが悪い時に妥協してヒートを進行させる必要がなくなる。
後半戦はよりCTらしいエキサティングな試合になることが期待出来るのだ。
選手達が嘆願書を提出「ミッドシーズンカットは持続可能な方法ではない」
とはいえ、実際にミッドシーズンカットの瀬戸際にいる選手にとっては、シーズン途中にリストラになるようなもの。
WPS(選手ユニオン)経由でミッドシーズンカットを再考するようにと選手の署名入りの嘆願書がWSLに提出されたと伝えられている。
海外メディアのStabによれば、選手が嘆願書で提起した主な問題点は以下。
手紙の最後は「ミッドシーズンカットが持続可能な方法だとは思わない」と締めくくられているそうだ。
・CSの賞金額が新しいツアー構成について合意した際の予想額を遥かに下回っている。
・CTとCSのイベント期間が近いため、適切な準備が難しいことと負傷する可能性の増加、回復の期間が十分ではないという懸念。
・シーズン前半にケガをしてミッドシーズンカットに入れなかった場合の対応について説明が不足している。ワイルドカードは2枚しか用意されていない。
・ミッドシーズンカットでカットされた場合、個人のスポンサー契約がどうなるかの懸念。
WSLエリックCEO「ミッドシーズンカットの撤廃はあり得ない」
エリックはこの嘆願書を受けて、全CT選手に手紙を送付。その手紙の内容が複数の海外メディアで公開された。
それはコンペティションサーフィンのビジネスが健全であり、今後の成長のために十分な態勢を整えていると説明した上で、ミッドシーズンカットの再考はあり得ないという強い意志を感じる内容だったようだ。
■エリックの返答の主な内容
・ツアー構成を一新したことが業界とファンの皆様に有益になり、エンゲージメントも向上している。
・この変化にミッドシーズンカットは不可欠な要素であり、コンペティションサーフィンを成長させるものであると確信している。
・そもそもミッドシーズンカットを含めたCTフォーマットの変更と強化はWPSと共同開発して同意もしている。
・2022年のベルズ戦は前回開催の2019年と比較して経済効果も約35%増加している。これはファンやスポンサー、私達関係者全員にとって良いことである。
・すでに会場も抑えているし、もしミッドシーズンカットが廃止されれば、重要な契約が破棄され、イベントがキャンセルされる危険性もある。
業界内からの疑問の声「事前の合意とは関係なく、多数のCT選手が持続可能ではないと旗を揚げた今、私達はこの問題に留意すべきだ」
今回のミッドシーズンカットについては、選手だけではなく、サーフィン業界からも疑問の声が上がっている。
例えばStabはInstagramのストーリーで「ミッドシーズンカットについてどう思うか?」という投票をして賛成18%、反対56%、中立26%というアンケート結果を紹介。更に、ミッドシーズンカットに対してネガティブな特集を組み、WSLよりも選手側に寄り添った意見で今回の問題を提議している。
選手が出した嘆願書には、シーズン前に合意したミッドシーズンカットの条件では見えなかった問題がシーズン後に浮上していることを記しており、エリックの返答は的を得ていないと指摘。
その一方、WSLは今回のミッドシーズンカットを含むCTフォーマットの変更には多くの契約が関係しており、ビジネス面ばかりを重視している。エリックの返答には選手の精神的な苦痛を含めた健康面に対する持続可能性について言及していないと記している。
「CTサーファーの大多数が、現在のモデルは自分たちにとって持続可能ではないと旗を揚げた今、数ヶ月前のミッドシーズンカットの合意とは関係なく、私達はこの問題に留意すべきだと思う。サーファーの健康と幸福はWSLの収益性よりも優先されるべきである」との言葉でこの特集は締めくくられている。
(空海)