科学誌Scienceといえば、Nature誌に並び、世界的にも権威がある科学雑誌の一つとして知られている。
このScience誌でケリースレーターウェイブプールが掲載された記事の中から、開発過程のエピソードなどを紐解いてみた。
まず、『サーファーと科学者がチームを組んで完璧な波を作り出した』と題して始まる記事には、ウェイブプールの歴史やウネリが沿岸部の浅瀬に到達し、砕波となるメカニズムについての説明記述の後、2006年、世界的に有名なサーファーであるケリースレーターが、南カリフォルニア大学(以下USC)の流体工学の専門家であるAdam Fincham(以下フィンシャム)と出会い、自身の会社Kelly Slater Wave Conpanyを設立し、雇い入れ、スーパーコンピュターを用いて、理想的な波を作り始めたとしている。
ジャマイカ出身の科学者フィンシャムは、USCに来た時にサーフィンを始めたばかりだったため、初めはケリースレーターが誰だかさえ分からなかったと語っているが、ケリーの求める波の理想の一つがチューブ、それも長い時間バレルの中に留まる事のできるパーフェクトチューブだったのだろう!?
急峻な水の隆起により、大きなうねりを発生させようとすると、非線形性が解消され、いわゆるリップが飛ばず、つまりチューブ波が形成されないなどの問題点が生まれた。結果的に、今迄のウェイブプールの手法とは異なる、巨大な金属製ハイドロフォイル(=水中翼)により水を押し上げてウネリを形成するというスタイルに辿り着いたのだ。
以下にも紹介する図解にも、今迄ほとんど明かされていなかった設備機能などが記されている。
1.The quest
ターンを決められる波(Face)と、ライド可能なチューブ(Barrel)を交互に生成することを目指した。
2. The hydrofoil
巨大な金属製ハイドロフォイルを長さ700mにも及ぶプールを走らせながら、水を押し上げてウネリを形成する。
3.The dampers
波の生成、ブレイクにより、プール全体が振動するほどのパワーを発し、ブレイク後の水も辺りに跳ね返る。次の波を生成するために、これらの水をいち早く落ち着かせる機能を果している。
4.The reefs
The reefsと呼ばれるプールの底は、ヨガマットの様な弾性のある素材で作られ、波の形状をつかさどるために計算された深さや形、大きさとなっている。
フィンシャムとケリーは、ラボの実験槽での研究を経て、過去に人工水上スキー湖であった現在のサーフランチ(長方形のプール)に辿り着いた。
彼らのこだわりでもあるハイドロフォイルは、150本以上のトラックタイヤとケーブルの助けを借りて時速30kmにまで到達するほか、
異なるサーフィンレベルに合うように波のサイズおよび形状を調整することを可能にする調整機能も保持しているようだ。
彼らの特許には、これらの機能とともに、パーフェクトな造形美を見せる砕波製造のために考えられた、ハイドロフォイルの形状並びに使用方法、リーフ形状や砕波後の水の処理方法などの記載もあることだろう。
WSLホールディングスによると、このウェイブプール(サーフランチ)の初期投資額やランニングコストは明かされていないが、ライディング1本あたりいくらといった販売をする予定はなく、プロコンテスト開催のほか、ホテルやコンサート施設、商業施設など複合施設としてサーフパークを建設することを望んでいるようだ。また、ケリーは富裕層向けの会員制高級プライベートリゾート建設も視野に入れているとのこと。
情報元:Science公式サイト
COVER PHOTO: © Science(YouTube)
(齋藤 丈)