オランダのNPOThe Ocean Cleanup(オーシャン・クリーンアップ)が試験的に海洋ごみの回収を行い、太平洋ごみベルトから総量2.9トンのプラスチックごみを回収したと発表。事業を拡大しながら、2040年までに海面を漂うゴミの90%を回収するという目標を立てている。どのようにこの偉業を成し遂げるつもりだろうか?
増え続けるプラスチックごみ
1970年代からプラスチック製品の製造が増え続け、ここ40年で製造量が4倍になっているという。リサイクル率は10%に満たず、適切にリサイクルやごみ処理されなかったプラスチックは海に流れ出てしまっている。
国連環境計画(UNEP)の報告書によると、現在海には少なくとも7500万トン~2億トンのプラスチックごみがあり、さらに年間1100万トン流れ込んでいる。海面で観測されたプラスチックごみの総量は44万トンで、氷山の一角に過ぎない。海に流れるゴミの多くは海底に沈み、半永久的に海底付近に生息する生き物に害を与えている。
さらに、細かく砕かれたマイクロプラスチックは食物連鎖を通して間接的に、また水や空気から人間の体内にも直接入り込む。UNEPは、人の肺、肝臓、脾臓、腎臓、そして胎盤からプラスチックが検出されたという調査結果まで報告している。
海岸に打ち上がったごみは自治体、団体、個人などで拾うことで多少回収できても、ごみは次々と流れ着く。そもそもビーチクリーンが行われているのは全世界の海岸線のごく一部で、人がほとんど通らない海岸にも大量のごみが流れ着いているのが現実だ。
オランダのNPOが29トンの海面プラごみを回収
2013年にオランダで設立されたNPO The Ocean Cleanup(オーシャン・クリーンアップ)は海面のプラスチックごみを回収するために立ち上げられた。
まず目を付けたのは五大海洋循環の一つである北太平洋循環の内側にある通称「太平洋ごみベルト」。この巨大ごみ海域は北太平洋の中央に海洋ごみが多い海域を指し、浮遊プラスチック等が北太平洋循環の海流等の影響により、特に集中している海域となっている。
当初の装置は燃料を使わず、風や海流を利用してごみを回収する仕組みを試みていたが、2018年のプロトタイプは水中で分解して失敗に終わり、翌年に改良版を試したところ、回収能力が低く、実用性に疑問が残った。
そうした中、オーシャン・クリーンアップは今夏、新たな装置「System 002(愛称ジェニー)」に望みを託した。ジェニーは長さ800メートルほどの巨大なネットのような装置で、2隻の船でゆっくり引っ張ることでごみを回収する。船の燃料を使うことにはなるが、高い回収能力と頑丈さで、確実にごみの回収ができるようになった。
10月上旬にプラスチックごみを海岸まで持ち帰ることができるかどうか見極めるための最終テストを行った結果、ジェニーは1回の操業で9トン、総量で29トンのごみを太平洋から運び出したという。
▲ごみ回収の様子。回収されたものは大きなかごや漁業用の網から小さなプラウチック欠片まで様々
1度に15トンのごみが回収できる「ジェニー」の仕組み
海面に散らばったごみを収集するジェニーは、長さ800メートル程のプールのコースロープのようなものに、深さ3メートルのネットがぶら下がった装置。U字の両端を2隻の船で時速3キロ弱で引っ張り、ごみはネットに沿ってU字下部中央の集積ゾーンに集まる。地引網のような仕組みだが、魚が逃げられるようネットの底は空いており、浮力の高いプラスチックだけが水流に乗って集まるため、海洋生態系に害がない設計になっている。
集積ネットがごみでいっぱいになったら、船に引き上げて回収し、また装置を海に戻す。コンピューターでシミュレーションして、ごみが特に多い海域を走ることで作業効率を上げ、船の燃料で出たCO2はカーボンオフセット(*)されると言う。
*どうしても削減できないCO2については、その排出量に従って、その他のCO2削減の取組に投資することでオフセット(埋め合わせ)をするという考え方。The Ocean CleanupはSouthPoleという環境団体に投資している。
引き上げたプラスチックは仕分けされて、可能な限りリサイクルされる。また、海洋ゴミを原料にした商品を売ることで更なる活動資金を集める予定。最初のリサイクル製品はサングラスで、これから消費者ブランドと共同で商品を増やしていくそうだ。
ジェニーは1回で最大15トンのプラスチックを回収できて、オーシャン・クリーンアップの創設者27歳のボイヤン・スラットは、ジェニーが10台あれば、年間1万5千~2万トン、5年間で太平洋ごみベルトの約半量を回収できると言う。さらに、ジェニーの3倍の長さがある改良版、System 003は現在開発中だそうだ。
海洋ごみを回収できることを証明したとは言え、それには金もかかるし、燃料も必要。海面に浮遊しているプラスチックごみは紫外線や波の力で劣化し、細かくなったマイクロプラスチックは食物連鎖に入るだけでなく、回収が格段に難しくなる。
上流からごみの流入を食い止める
海洋ゴミをなくすためには、既にあるゴミを回収するだけでなく、新しく流れ込むのを止めなければいけない。海洋ゴミの大半が世界の河川から海に流れ込むことがわかっていて、既にその中で特にごみの量が多い河川を特定した研究もある。
オーシャン・クリーンアップはこれからの5年間で最もごみの量が多い1000の河川でごみを回収し、海に流れ込むのを阻止する目標を立てている。それだけで、河川から流れ込むゴミの8割は減らせるという。
河川のごみ回収に使うThe Interceptor(インターセプタ―)はソーラーパワーで自動でごみを回収できる優れた装置。現在世界で3台設置していて、これから増やす予定だ。プロトタイプはインドネシアのジャカルタに設置。マレーシアとドミニカ共和国にも新しく設置され運用開始している。拡張性のあるデザインはほとんどの河川で使えると言う。
監査業務を行うデロイト社と共同で行った調査では、海洋プラスチックによる経済ダメージは観光業や漁業、養殖業界、ゴミ回収に必要な費用を合わせただけでも年間60億ドル(約6.8兆円)超に上る。そのほかに、金額をつけられないものとして海洋生態系や人体への影響、気候変動への影響もある。
回収のコストを考えても広い海で回収するよりも、汚染源となる河川で回収して、海への流入を防ぐ方が効率的だろう。しかし、海洋ごみ問題を解決するにはもっと根本的なアクションが必要だ。
ジェニーは希望の光でも、道のりはまだ長い
一度にこれだけ大量のプラごみを回収できる「ジェニー」の開発は画期的だ。しかし、プラスチックの生産量が増え続ける中で、回収だけでは海洋プラスチックの問題は解決できない。
異常気象で洪水が起きる度に陸からのごみが海に流れ着き、台風の度に漁具が壊され、ごみとなる。また、海底に沈んでいるごみは海面に浮かぶごみの30倍もあると推定されていて、効率的な回収方法がまだ見つかっていない。
そもそもプラスチックごみを出さないために、社会の各レベルですぐに始められることがある。個人としては使い捨てプラスチックを使わない、過剰包装をされたものを買わない、ごみの分別を徹底する、など。NPOや自治会ではビーチクリーンなどの活動を実施する。企業はプラスチックの代替品やプラスチックを使わない製品やパッケージングの開発など。行政レベルでは、リサイクルを促す法整備、ごみ処理のシステムの管理などができる。
オーシャン・クリーンアップの活動に期待しつつ、社会全体としてプラスチックごみの量を減らせる努力を続けたい。
ケン・ロウズ