ケリー・スレーターが長年のスポンサー「Quiksilver」から離れてから立ち上げたアパレルブランド「Outerknown」
日本では正規取り扱いがロンハーマン、ジャーナルスタンダード、ミラベラオムのみ、世界的にも販売店を限定するなど量販店に溢れてしまうような他のサーフブランドとは一線を画す方法でハイブランドとしての地位を確立している。
ケリーが「Outerknown」を立ち上げるために欠かせなパートナーとなったのは「Quiksilver」時代にVSTRというラインで関係を築いたジョン・ムーア。
環境に優しい’サステイナブル’で大人のサーファーが長く愛用できるウェアというコンセプトを二人で作っていこうと考えたのだ。
「Outerknown」の今
2015年、「Outerknown」がスタートした当初は日本でもBlue.でロングインタビューが掲載されるなど話題になっていたが、あれから6年経ってブランドが成熟してきた今だからこそ話せる話題も多々ある。
今回はイベント、コンテンツの制作などを通じてGoogle、Facebookなどの世界的な企業やアーティストと観客を結びつけるクリエイティブな活動をしている「セミ・パーマネント」の創設者、マレー・ベルが2020年にケリー・スレーターと「Outerknown」の共同創業者でクリエイティブディレクターのジョン・ムーアにインタビューした動画を紹介する。
なぜ「Outerknown」の服は高いのか? というような率直な疑問の答えも明かされている。
あなたの創造性はどこから生まれてくるの?
「創造性とは自分の中から流れ出てくるものであり、物理的のようなものでもある。私はギターを弾いたり、サーフィンをしたり、柔術をしたりするのが好きなんだ。本当に興味を持っていることは実際にやっているし、沢山見てもいる。それはゴルフの中にもあるね。私の心の中でそれらは全て実際に行いながら創造するものである。あと、多くの物のデザインの側面にとても興味を持っている。例えば、家のデザインや建築が大好きだし、サーフボードやフィンもそうだよ」
ケリー・スレーター
ケリーのウェーブプール「サーフランチ」の建築デザインから想像するとメディアに公開されていない自宅や別荘にも相当なこわだりがあるのだろうが、実は近年注目されている’バンライフ’のようなシンプルな生活に憧れているという本音も出ていた。
「ハワイにはオアフ島に二つ家を持っている。一つは凄い大きな家。それは買うべきではなかったね。住んでいるわけではなく、貸しているよ。もう一つの実際に住んでいる家の方は完璧なビーチハウスで、特別な家ではなく、普通の木造さ。壁も薄いし、外の音だって丸聞こえだけどビーチに近いし小さくて手入れも楽で気に入っている。維持も簡単なんだ。車庫があって仕事もできる。作業やボードをいじったりもね。この間、YouTubeで5時間も見てしまったんだけど、バンに住むのも良いよね。まるで小さな家にタイヤが付いているみたいなんだ。あれでサーフィンしながら旅をするのが夢だね。ツインフィンを持って快適なバンの中で生活したい」
ケリー・スレーター
なぜ「Outerknown」の服は高いのか?
そもそも「Outerknown」はサーフブランドではないことと製造工程を考えても法外な価格設定ではない。しかし、’ケリーのアパレルブランド’というイメージからどうしても他のサーフブランドと比べてしまい、2015年の立ち上げ当初からどうしても価格の高さが強調されることが多かった。
実は「Outerknown」はPatagoniaやBurtonなどと同じFLA(公正労働協会)が認定するシステムを導入しており、これによってブランドに関わる全ての労働者を守り、コストが高くなっているという背景があるのだ。
「最初の1年は厳しかったよ。私達は感情的にも個人的にも大変だった。何故なら、FLAが認定する生地を使用することに拘っていたからね。製品作りから物流、労働力、最初にかかる全てのコストが高かった。サーフィン界に通づるブルース・レイモンド(オーストラリア出身のプロサーファーで旧友)と昨晩話していて服の話題が出ていたよ。彼の旧友が服の高さのことを嘆いていたんだって。ブルースは彼に何かを10個手に入れるのと40個手に入れるのとどちらが良いかって聞いたらしい。服に例えると40枚のTシャツなんて必要ないよね。10枚の気に入ったシャツがあれば十分でしょってこと。私達のメッセージ。これは色々なところで何度も言われているけど、大量に買うのではなく、本当に気に入ったものを買おう。そうすればもっと物を大事にするようになる。自分はすでにシドニーに5〜6週間滞在しているけど、数枚のシャツとスウェットのペアとパンツとジーンズ、5枚のTシャツだけを基本的に着回しているよ。それで満足している。ランドリーには沢山行かないといけないけどね」
ケリー・スレーター
「Outerknown」の方向性
一般的なアパレルブランドはトレンドを追って常に新製品を出すものだが、「Outerknown」の考えは異なる。
それは環境に優しい’サステイナブル’という理念にも繋がっているのだ。
「私達は秋に少し変わったことをするんだ。製品をリリースするという点では、私達は方向性を決めて季節に合わせたデザインはしないようにしているよ。さっきケリーが言ったように約10着の服を持ってオーストラリアを旅行してそれを場所や状況によって着こなすことが出来るようにするアイディアを持っている。これは期限を設けずに制作している。それは私達のブランドにとって本当に重要なことだと思う」
ジョン・ムーア
「私達はトレンドを追いかけるようなことはしない。ジョンが言っているのは本質的にトレンドに流されないようにとか、いつでも必要なものを出すとかって意味だよね。人々がこの組み合わせが欲しいと期待しているものとか」
ケリー・スレーター
「真実は正しい。もし、あなたがゲームのように時間との勝負をしていたら、それは新しいコレクションだけの価値しかない。私達は私達のやり方で行うと決めたんだ。信じられないほど厳しい環境基準をクリアするために妥協はしない。それには時間がかかるけどね。何かを開発しようとする時は無駄が多いものだよ。時代に左右されない魅力を知り、それを信じている時は大きな株を買ってもみんなが勝つことが出来る。私は最終的にクリエイティブな人間として考えているんだ。ケリーは特別な競争をする人物だから、二人合わせて中間地点にいられると思う。私達が出すものは全て最高のものにしたいと思っているよ」
ジョン・ムーア
情熱や専門知識、尊敬する人の存在を掛け合わせて、素晴らしいものを生み出すコツは?
「ケリーも言っていたけど、素晴らしいパートナーシップ。それは良い面もあれば邪魔になることもある。様々なことを経験して共有することは非常に貴重だし、それがないと寂しいね。ケリーは分かっているはずさ。ケリーは他のことに集中していることもあるけど、ひらめきや流れに乗ることを知っていて思案は尽きない。一つの小さなアイディアがあったとして、パートナーが自分と異なることを経験しているだけで、大きなアイディアに変わっていくこともあるんだ。それは貴重な共有だし、完全に物語に織り交ぜているようだよ」
ジョン・ムーア
「Outerknown」とは「Outer」と「known」の言葉を組み合わせた「今の知識の範囲の中で遠い領域」という意味だそうだ。
短縮するとOKという万国共通の言葉にもなる。
『G.O.A.T』とも呼ばれているケリーの素晴らしい感性をジョンを始めとした数名のデザイナーが形にするという流れだ。
「会社について一つ素晴らしいと思ったことがある。これはジェフ(Outerknownの共同設立者)がいつも言っていることだけど、会社というのは、他にも多くの人がいるという意味、その人達に頼ることが出来るということ。だから、ケリーが私達を頼りにしてくれると感じられれば良いね。’サステイナブル’については構築するのに時間がかかる。だから一朝一夕に実現するとは限らない。しかし、私達が常に何かしたいと思って機会を得ているし、別の方法でそれは絶え間ない進化になっている。このような関係の中、互いの性格と会話の中から追及したい新しいカテゴリーの洋服を作っていきたいと思う」
ジョン・ムーア
「小さな絵の中の大きな絵をジョンは’ひらめきがある小宇宙’と言っていたよね。ひらめきとは、ちょっとしたアイディアである意味人生のような感じでもある。なんか、私の人生を比喩しているようだよね。私は常に動き回っていて、そうすると小さなアイディアが次々とやってくる。生活の中からある種の芸術的なものや、製品のアイディアのためのインスピレーションのようなものが生まれてくるんだ。私自身が何か製品を欲しいと思うことがある意味Outerknownを表現しているような気がする。このように学び、それを製品にぶつける。そして、何かが生まれてくるんだ。この会社にはアイディアが大好きな人が働きたいとやってくる。パタゴニアからシェリーがやってきたことから始まり、彼女が物流を手伝ってくれたおかげで効率が良くなり、価格が下がり、供給が増えた。ここで働いている人達は仕事が好きなんだよ。彼らは大切にされながら生活賃金を得ている。以前働いていた人達とは、何度か気まずい会話をしたこともあるよ。今は奴隷労働とは映画で見るような鞭で殴られるようなものではないと理解している。例えば、トイレ休憩がなかったり、一日に15時間連続で労働したりとか。他にも未成年とか保険に加入していないとかもね。本人確認のためにパスポートを取ったり。そうすれば逃げられないでしょ。この業界で働く人にとって巧みな条件さ。インドのあるビルでは過酷な作業環境で洋服を作り、多くの人が亡くなったこともある」
ケリー・スレーター
最後にあなた達が今後どのようにやっていくのかを聞かせて。どのように服のブランド以上のものをやって進化させていくのか、アイディアの源とは?
「私達のストーリーを語る時、様々な方法でインスピレーションを与えたいと思っている。不可能を可能にすることが出来ると信じている。人々が私達のことを本当に理解し始めているような気がしている。本当に前向きで素晴らしいメッセージを沢山貰っているし、それが背中を押してくれるんだ。例え何か問題があっても指摘されなければ誰も気付かないこともある。違いを生み出すためには少しだけ障壁を押してみないといけないよ。私達はそのために最善を尽くしていると思う。そこにいる間は繋ぎ止めなければいけない。そして、賢明であることだね」
ケリー・スレーター
(空海)