一部の宗教を除けば、日常的にお酒を飲むことはごく普通である今の社会。リラックスするため。友達と楽しむため。嫌なことを忘れて、ちょっとバカなことをするため。とりあえず飲むか、みたいな。
サーフィン文化、とりわけオーストラリアのパブとバーベキューの文化にはビールは欠かせない。元ワールドチャンピオンのミック・ファニングとジョエル・パーキンソンが立ち上げたビール会社Balterや、タジ・バロウのHonest Aleもこのイメージを後押ししてきた。
そんな中で、「お酒を飲まない=つまらないヤツ」と言うイメージを払拭すべく、ノンアルのビールの新ブランドHeaps Normalが登場。「お酒を飲まない」ことを新しい常識にできるのだろうか。
ジョーディー・スミスがワールドタイトルのために決めた断酒
2006年にワールドジュニアチャンピオンに輝いた南アのジョーディー・スミス。CTデビュー当時からメンズのワールドチャンピオン候補として注目され、2010年と2016年に惜しくも2位でシーズンを終えた。
2021年は33歳にして念願のタイトルを手に入れるために断酒を表明したジョーディ。メンタルも体も最高な状態に保つための決断を支えるためにオーストラリアのビール界を知り尽くした仲間3人と共に、おいしく楽しく飲めるノンアルのビールの開発に乗り出した。
新ブランドHeaps Normalの無謀とも言える挑戦
ノンアルビール専門ブランドHeaps Normalを考案した2018年当時は、バーなどでノンアルのビールを頼んだら笑われることは少なくなかった。周囲からのプレッシャーに打ち勝ってノンアルのビールを頼んでも、味がまずく、他の選択肢は甘ったるいソーダ類ぐらいしかない。
おいしいノンアルのビールが存在しないなら自分たちで作ろう、とこの挑戦が始まった。そして、ノンアルをノーマルな選択肢に入れる新しい常識も作ろうとしている。
最初に苦労したのはやはり味。6か月以上の試行錯誤の末、醸造担当のBen Holdstock氏が醸造過程を完全に再構築して、新しいイースト菌を使ったレシピを開発。クラフトビール並みの味を誇りながら、アルコール分が0.5%未満のビールを作るのに成功した。
しかし、ノンアルビールが社会に受け入れられるには、味の改良だけでは不十分だ。
へべれけになるのは勿体ない
Heaps Normalは、お酒を飲む文化が定着している今、飲まないことも「ノーマル」にしたいという。飲まないことは「つれない」のではなく、そうすることでより多くのことにチャレンジでき、新しいものを創造できる、と。
Heaps NormalのキャッチフレーズはToo good to be wasted。Wastedとは「無駄にする・棒に振る」と言う意味もあれば、「へべれけ」と言う意味もある。つまり、へべれけになるのはもったいない、というのが彼らのメッセージ。前日に飲みすぎて、丸一日を棒に振ったことがある人なら共感できるだろう。Heaps Normalなら、夜な夜な踊ったり、徹夜で楽しんでも、次の日には二日酔いが残らないのだ。
近年はアーティストからアスリートまで、断酒をしたり、ノンアルの飲み物を選ぶ人が増え、「ノンアル=つまらない」というイメージが変わりつつある。自由気ままに人生を楽しむジョーディーをブランド・アンバサダーに迎え、そのイメージはさらに変わるだろう。
Heaps Normalは、「お酒を飲む・飲まない」がごく普通の選択肢になることを目指しているので、アルコールに敵対している訳ではない。飲むか飲まないかはそれぞれが決めればよい。Heaps Normalのおいしいノンアルビールを提供することで、「飲まない」という選択がもう少し普通になればいいのではないだろうか。
Heaps Normalは現在オーストラリア国内だけ流通しているが、そのメッセージはジョーディーと共に世界に届けられるだろう。
ケン・ロウズ