Displacement Hull(以下ハル)というサーフボードはご存知であろうか。
有名な言葉にこんな言い伝えがある。
「気をつけろ、中毒になっちまうぞ!」
60年代後半から現在まで(シェイプは2016年にリタイア)ハルをシェイプし続けてきたグレッグ・リドルの言葉だ。
筆者自身2014年に手に入れて以来、独特な乗り味に取り憑かれてハル以外乗らなくなってしまった。まさにハル中毒だ。
果たしてどの様なサーフボードなのだろうか。
ボードの見た目の特徴は、6’8’’〜8’の長さで丸くエッグの様なアウトライン。(短めの6’前後のVeloテンプレートも例外としてある。)幅は21”から23”、厚みは3”前後でノーズは17”から19”。テール幅は14”から16”のようなサイズ。フィンはシングルフィンで9’’〜9.5’’の細く立ったフレックスフィンに前寄りのセットアップ、さらにボード全体を貫くラウンドボトムでエッジレス。そして一番の特徴は鋭く研ぎ澄まされたレールであろう。
色はクリアが多くティントなどカラーが入っているボードは少ない。一見よくあるファンボードの様な見た目である。
だが、乗り心地は全くの別物なのだ。
ハルは乗りづらいということでオルタナティブ界隈では有名だ。なぜなら一般的なボードとは逆の論理でシェイプされたボードだからだ。
一般的なボードはコンケーブボトム(凹み)により水の流れを人工的に作りそれによってスピード、安定性を得ている。
ハルはどうか。ハルには一切のコンケーブはなくラウンドボトム(凸面)である。つまり水は外に逃される。抵抗を無くしてスピードを得ているのだ。分かりやすい例えが船の船底のようなデザインが特徴的なボードである。そう、Displacement Hullという名前は本来船体の形状を表す言葉なのだ。
ハルの歴史はショートボードレボリューション真っ只中の1968年夏にまで遡る。元世界チャンピオンであるオーストラリアのナット・ヤングがカリフォルニアのマリブポイントにて研究段階であった自作のハルでサーフィンをする。このサーフィンを見て衝撃を受けたのがハルの代名詞Liddle Surfbordsのグレッグ・リドルだ。
だが当時のデザイン変革のスピードは非常に速かった。ハワイやインドネシアなどのアイランドブレイクの台頭もアンダーグラウンド化に拍車をかける。サイズが大きく掘れてチューブになるアイランドブレイクに対応するためダウンレール、フラットボトム、ナローなアウトラインテンプレート、およびハードエッジが登場。ハルは独自のアンダーグラウンドカルチャーになった。
パーフェクトなマシンブレイクのマリブでさえも一時期時代遅れのポイントとして認識されていたのだ。
ラウンドボトムのため安定性に欠ける。また、ピンチー(鋭く尖っている)レールにより繊細なコントロールが要求される。しかし波のピールするスイートスポットを走っている際の加速、ラウンドボトムによる独特の浮遊感。そしてビッグボトムターンからフィンのフレックスを使った波のトップへの瞬間移動。どれも他のどのサーフボードでは味わえないハルならではの滑走体験だ。
高い技術はもちろん、波やボードの特性に対する深い知識、そしてハルに乗るための心構えを整えないとならない。 興味本位だけでは続かない。 故に数回乗ってあきらめるサーファーが余りにも多いのが現状であろう。 それだけ難しい特性を持った代物だ。
だが、乗り込んでいくうちに他のサーフボードにはない独特の感触に病みつきになるはずだ。ハル中毒である。
最後にハル界きってのアンダーグラウンドスター。Steve Krajewskiの動画にて締めたいと思う。この動画にはハルの全てが詰まっている。
Photo:Kirk Putnum
(Katsuhito Higuchi)